第28話 S級冒険者

「それで、盗まれた魔石も探しに行くのか?」


「確かに貴重なものだけど、マオが居るなら特に要らないわ!」


ライカは嬉しそうに魔術具を撫でる。その時、入り口の方からすさまじい殺気が迸るのを感じた。


「何者だ!」


見ると、酒場で会った冒険者だった。


「まさか、こんなに近くに魔王が居たなんてな」


冒険者が足を踏み出すたびに、ミシリと地面にヒビが入る。雑魚モンスターならこの気合だけで死ぬんじゃないか?


「俺は、S級冒険者のカイトだ。冥土の土産に覚えておけ」


カイトは背中の大剣を抜くと、縦に振りぬく。すると、ただそれだけで剣気が実体を持って空気を切り裂いていく。


「ライトニング・シールド」


ライカはとっさに雷の盾で剣気を防いだが、剣気はあっさりとライカの盾を切り裂き、尚威力は衰えていなかった。


「危ない! ウィンド・シールド」


我はとっさに風の盾を斜めに出すと、剣気を防ぐのではなく、逸らすことではじくことに成功した。


「ちっ、運がいいな。普通のモンスターならこれで真っ二つなのによ」


「何で私を狙うのよ!」


「エンカって奴が言ってたろ? 赤い髪のガキが魔王だって」


「その情報違うから!」


「はっ、そんな嘘に俺は騙されないぜ? ただのガキがマジックアイテムを持っている訳が無いからな」


「ご主人様はガキではありません」


マネは左手の平の中に仕込まれていた剣をシャキンと出すと、カイトの顔に向かって真っすぐに突き刺す。しかし、カイトは首をかしげるだけで回避する。


「なんだこの女、お前も魔王の仲間か?」


「ご主人様のメイドです。覚悟」


マネは右手に仕込んであった矢を、バネ仕掛けで手のひらから高速で飛ばすが、カイトは大剣を盾にして防いだ。


「お前、人間じゃないな? だったら遠慮はしない」


カイトは大剣を横に構え、常人には見えないほどの速度で距離を詰めると、マネの首を跳ね飛ばした。


「マネ!!」


ミレは「なんてことを」と叫ぶが、あれの本体はへその上のアーティファクトだから、首をはねられただけなら大丈夫だろう。実際、倒れることなく戦闘を続けている。


「なんだこれ、気持ち悪い」


カイトは、とりあえず機動力を奪おうと、マネの両足を切断する。しかしマネは、両腕だけで這うように動く。


「尚更気持ち悪くなったな・・・、もう動くな」


カイトは洞窟にぶらさがっている石のつららを大剣で切り裂いて片手で持つと、そのつららをマネの背中から刺して地面に縫い付けた。関節の問題で、マネはつららを引き抜くことができないようだ。


「マネになにするの! ライトニング・ウィップ!」


ライカが雷の鞭でカイトを攻撃するが、あっさりとジャンプして回避し、空中で剣気を飛ばしてくる。


「ライトニング・アーマー、きゃあ!」


雷の鎧ごとライカは吹き飛ばされた。鎧が消えたので、ライカは気絶したようだ。


「思ったより弱かったな。そこのお前たちは仲間か?」


「いや、違うが?」


ノロイが答える。実際、同行していたけど、ライカが勝手についてきていただけで、ここに来たのもダンジョンが面白そうだったからに過ぎない。


「じゃあ、さっさと立ち去りな」


カイトは、気絶したライカを縛り上げようと、ロープを取り出す。マネは一生懸命つららを抜こうと、腕だけでうねうね動いていて気持ち悪い。


「仲間ではないが、連れて行かせるわけには行かぬ。なぜなら、ライカは魔王ではないからな」


「あ? どういうことだ? こいつが魔王じゃないなら、誰が魔王なんだよ」


「我だ」


「情報と全然違うが?」


「だから、情報は嘘だと言っただろ。それに、その情報源自体が魔王の四天王だぞ?」


「わけのわからんことを! 邪魔するならお前も倒す」


カイトは剣気を飛ばしてくるが、我は少し右にずれて回避する。


「ほぉ、格闘の心得でもあるのか?」


「そんなものはない。ただ、お前の攻撃が遅いから普通に避けられるだけだ」


「ほざけ、これならどうだ」


カイトはめちゃくちゃに剣気を飛ばす。余裕で回避していたが、少しずつ体にかする。ふむ、めちゃくちゃのようで、きちんと逃げ道が無いように誘導されていたか。


「ウィンド・シールド・クアドラプル」


とうとう逃げ場がなくなったので、我は4重の風の盾で剣気を防ぐ。


「確かに、口だけじゃないようだな。ならば、俺も本気を出そう。オーラ・パワー!」


カイトから黄色の湯気のようなものが立ち上る。そして、大剣をさっきより数倍速く振りぬいた。


「はぁ!」


今まで飛ばしていた剣気が1とすれば、これは10ほどの大きさになっていた。今までは遊びだったと言う事か?


「ウィンド・シールド・オクタプル」


8重の風の盾にもかかわらず、ほとんど威力を落とすことなくカイトの剣気が我に届いた。


「ぐふっ」


我の右肩から袈裟斬りで深い傷が出来た。体は人形なので痛みで動けないと言う事が無いのは助かるな。


「久しぶりのダメージだな? 解放するか?」


ノロイがそういうのも当然で、今の我ではどうあがいてもカイトに勝てぬ。


「ああ、10%解放してくれ」


「だめだ、5%な」


「何故四天王より低い。こやつは明らかにセッカより強いぞ」


「そうか? どっちにしろ余裕だろ」


「まあ、仕方あるまい。ミドル・ヒール」


我の傷が一瞬で治る。通常の人間ならほぼ即死に近い傷だが、5%も解放されれば死なない限りヒールで一瞬で治るな。


「なんだと!!」


「あーあ、服が破けたじゃねーか。一応自己修復の魔術はかけてあるけど、大破したらさすがに治らんぞ。全裸になっても知らんからな」


「これ以上ダメージを受けることは無いから安心しろ」


「舐めるな!」


カイトは再びオーラ・パワーを使うと、さっきより少しだけ大きな剣気を飛ばしてくる。


「ふむ。盾を張るまでもない」


我は右手の平に魔力を集めると、威力を相殺する。


「今度は我の番だな。ストーン・ニードル」


石の針の大きさは洞窟の幅いっぱいだ。どんなに素早くても回避できまい。


「この程度で勝ったつもりか!」


カイトは剣気で石の針を切り裂くが、切り裂かれても威力は落ちていないので、そのままカイトに当たる。


「ぐべはっ」


カイトは、馬車に轢かれたかのように吹き飛んでいった。

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