第23話 魔王城

「この馬鹿者が!」


私は魔王城に戻ってきたエンカを怒鳴りつけた。


「いきなりなんだよ、親父。なんで怒るんだよ!」


「何故街で無関係な人間にベラベラとしゃべるのだ!」


「情報収集に酒場を利用した事か? 情報収集するなら酒場だろ? 常識じゃん」


「お前が情報を搾取されてどうする!」


当然、私は私で情報収集をしている。アサシンに探らせたら、ちまたに流れている情報源の大半がエンカだと分かった。


「もういい、下がれ」


「それはそうと、面白いやつがいたぞ!」


この娘は、全く聞いておらんな。今に始まったことではないから慣れているが、母親を早くに亡くしたせいか、神経が図太い。


「はぁ、どういう奴だ?」


無視したら無視したで数日間は不機嫌になるからな。めんどくさくても相手をしたほうがマシだ。


「あたいを拘束できるほどの魔法使いが居た!」


「ほぉ、お前を拘束できるほどの魔法使いとは、すごい老人だな」


「え? 老人じゃないぞ?」


「何? ベテラン冒険者じゃないのか。どんな見た目だ?」


私がよく聞くと、セッカの報告と同じ人物のようだ。


「馬鹿者! それが件の奴ではないか!!」


「えぇ! セッカから聞いたのは、ちっこいガキだって聞いたぞ!」


「それはお前の相手が面倒で、適当な嘘をついただけだろう」


私は頭が痛くなった。四天王同士で足を引っ張りあってどうする。


「じゃあ、あたいがもう一回行ってくるよ!」


「よい。アサシンに居場所を探らせるから、お前は大人しく城で待機だ!」


「ちっ、居場所が分かったら真っ先に知らせろよな!」


娘はそう言うと、謁見の間から出でいった。


「あらあら、エンカは相変わらずですわね」


どこにいたのか、娘が出てからしばらくして謁見の間にセッカが入ってきた。


「セッカよ、エンカにも正確な情報を伝えておけ。そうすれば、今頃件の奴に接触できたものを」


「でも、どうせ負けたんでしょ? 伝えるだけ無駄かと思いますが」


「そもそも、戦闘と呼べるようなことは行っていないようだが、エンカが拘束されたと言うからには、おそらく戦っても負けていた可能性が高いな」


「魔王様、我々のレベル上げをしなければ成らないのでは?」


「やりたくはないが、魔界から強者を召喚するしかないか」


私は謁見の間のカーペットを部下にはぐらせると、下から魔方陣が現れた。現在は失われた言語で書かれており、複雑すぎて複製が不可能なため、普段は隠してある。


「これは昔、魔界と地界を行き来していた魔方陣だ。最近は使われることが無かったが、久しぶりに使うとしよう」


「初めて見ましたわ」


セッカが興味深そうに魔方陣のふちをなぞる。魔界と行き来できるとはいえ、実質はこっちが召喚しなければ向こうからは勝手に来れない仕様だ。


「では、行くぞ」


私は魔力を込めて呪文を唱える。久しぶりに使うからか、やけに魔力が減る気がする。……おかしい、私の魔力が枯渇するぞ! 魔力が枯渇する寸前で魔方陣が光りだし、翼が12枚もある悪魔が召喚された。


「吾輩を召喚したのはお前か?」


「ばかな、魔神クラスの悪魔だと!!」


出来るだけ強い魔族を召喚しようとはしていたが、想像以上の者が召喚されてしまった。立ち上るオーラは強大で、正直私よりも遥かに上だと感じる。


「吾輩の名はサタン。魔界も平和になりすぎて退屈していたところだ、暇つぶしにこちらに来てみたのだが……そこの者、願いを言ってみろ」


……これは、絶好の機会か? 基本的に召喚した私の言う事を聞くはずだが、代償が不明だ。暇つぶしなら代償無しで願いを聞いてくれる可能性があるぞ!


「それでは、小島に封印されていた古代の魔王が復活したらしい、そいつを倒してくれ!」


「小島? 小島か……まさか……」


サタンは、「ふっ」と笑顔になる。


「吾輩、ちょっと用事を思い出してしまった。さらばだ」


そう言うと、サタンは魔方陣を勝手に起動させて魔界へ帰った。私との強固な契約は、あっさりと破棄されていた。


「え? 魔神すら逃げるようなやつなの?」


謁見の間に長い長い沈黙が続いた。

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