封印されていた最古の魔王。しかし、復活したら美少女になった。さらに、その体は呪われているようだ

斉藤一

第1話 魔王復活

世界の最果てにあると言われる伝説の島。そこには、最強の魔王が封印されているという。クリスタルは風雨にさらされながらも傷一つ負うことなく、封印を解かれる日を永遠と待っていた。


そこに一人の男が足を踏み入れた。男は美形の長身、短い銀髪で、まるで光を嫌うかのように黒い服で身を纏っている。また、その背には自らの身長程の棺桶が存在をアピールしている。


男が長い年月で育ったのであろう鬱蒼と茂った森を抜けると、花が咲き乱れる平原のような場所に出た。


そこには、まるであらゆる生命が危険を感じて近づかなかったのか、ぽっかりと何も生えていない場所があった。


中心には、中身を見通すことができない黒いクリスタルがある。


「これが、魔王が封印されているというクリスタルか」


男は背負っていた棺桶を、中身が傷つかないようにゆっくりと地面に下ろした。棺桶のふたを開けると、絶世の美少女人形が横たわっていた。


美少女人形は金髪を自然に伸ばしたようなロングヘアで、体を覆う布は、まるでビキニの様に少ない。また、その肢体は人間ではあり得ないほど綺麗だ。


男はクリスタルの周りに魔方陣を描き、棺桶の周りにも同様に魔方陣を描く。そして、世界中を回ってやっと手に入れた魔王の体の一部である角を人形の心臓に入れる。


「魔王よ、我が人形に魂を移し、復活したまえ。我が名はノロイ!」


ノロイは世界一の呪術師だ。先祖から引き継がれた人形に魂を移す秘術を改良する事によって、魔王の魂だけを人形に移すつもりのようだ。


ノロイが人形に血を数滴落とすと、魔方陣が光りクリスタルから魔王の魂だけが宙に浮かぶ。


魂は人形の心臓の部分に近づくと、まるで自分の体を見つけたかの様に吸い込まれていった。ピクリと人形が動き、瞼が開く。


「我を復活させたのはお前か? やっと我と戦える者が現れたか」


我は右手に魔力を込めると、ノロイに向けた。


「ストップ!」


「む、我の右手が動かないだと。我の動きを止めるほどの魔力を持つとは面白い! 名は何という?」


「俺の名前はノロイ。お前のご主人様だ」


「我が人間の言うことに従うわけがなかろう。冗談にしてはつまらん。その責任は死をもって償え」


我は再度魔力を込めようとするが、動かない。長年のブランクで体がまだうまく動かないのかと、他の部分を動かそうとするが、動く様子はない。


「お前、自分の姿を見てみろよ。ほれ、鏡だ。ストップ解除」


「自分の姿だと?」


我は投げ渡された鏡を、自由になった右手で受け取る。その鏡を使って自分の顔を見て驚愕し、体を見下ろす。


「なんだこれは! 我の、我の肉体ではない!」


我は目を疑った。華奢な体に、愛くるしい目。人間でいう10代前半の肉体だ。以前のいかつい筋骨隆々の我が肉体ではない!


「これはどういうことだ!」


「俺、復活させた。お前、下僕」


「説明になっておらんわ!」


「簡単に言うと、俺の命令に従順な人形な」


「だが、我が魔力は封印前と何ら変わらぬ。この程度の術など解いてくれる!」


我は魔力を全身に込め、体の自由を取り戻そうとした。全身から魔力が溢れ、ノロイの呪術に抗う。


「じゃあ、魔力の使用禁止で」


ノロイがそう言うと、我の魔力が霧散する。そしてこれ以降魔力を込める事自体が出来なくなった。


「ばかな! 最強の魔王である我が魔力を止めるなど不可能だ!」


「不可能も何も、実際止まったじゃん」


「くそっ、いったい何が起きているのだ!」


我はいら立ち紛れに近くにあった岩を殴る。我の予定では、魔力が使えなくても筋力だけで岩を木端微塵になるはずだったが、予想外に我の拳が痛む。


「ぐぅ、痛い! この体がこんなにも脆いとは!」


「お前、その体に傷つけるなよ! 俺の最高傑作なんだからな! じゃあ、怪我を治す時だけ魔力の使用OKで」


ノロイがそういうので、我は試しにヒールを使ってみる。右手の怪我が一瞬で治る。そのまま、魔力を込めて攻撃しようとするが、一切魔力を込められない。くそ、完全にヒールにしか使えない。


「よし、治ったな。じゃあ、世界征服に行くか!」


「え? お前の目的って世界征服なのか?」


我はてっきりノロイは勇者的な立場かと思っていたので、あっけにとられた。


「はあ? 勇者が魔王を復活させるわけ無いだろ。」

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