狩人の夜宴【適合者シリーズ7】
東江とーゆ
アリッサ・オードリー・上杉
藤原政宗
協会は『外の神々の情報の採取、調査、検証、管理、等を通じて秘匿を目的とする団体』である。
藤原政宗は、その協会の日本における活動を管理する『本部』の責任者だ。非公式な名称で『本部長』とも呼ばれている。
藤原の役職はマネージャー。
マネージャーはリーダー達の管理職だが、協会においてリーダーの権限や独立性は異常に強い。
なので協会でのマネージャーの役割に、チームを統括する権限はない。
マネージャーに任されている管理範囲は、各チーム間の連絡取次、チーム同士で対象や範囲が重なる場合の調整、外部からのチームへの過干渉の仲裁などがある。
マネージャーの役割の中で最も重要なのが、チームの現状を把握して参議直属機関『情報統括管理局』への報告である。
またチームの方針や任務に介入することはないが、参議からリーダーへの上意下達を取次する役割は担う。
これは、27日に実施されたヒアリング中に聞いた話だが、適合者の監視保護という今回の任務では通常の手順は用いられなかった。
つまり、私からチームの現状や任務の報告を受けた藤原は、直接総裁に状況を報告していた。
本来なら情報統括管理局への報告となるが、こと適合者の案件に関しては直接総裁へのホットラインで報告するように取り決めがあったらしい。
適合者については情報統括管理局を通さずに参議にも知らせず、直接総裁に報告し指示を仰ぐことになっていたのだ。
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26日の未明、私からの報告を受けた藤原からは『山村邸を維持して待機』という指示が言い渡された。
この指示が本部から知らされた数時間後には、小暮が協会のラボへ搬送中に死亡する。
この報せを受けて未だに状況が進行中だと判断した本部の藤原は、事態の深刻さを鑑みて直接私と榎本にヒアリングを実施する旨を連絡してきた。
私たちは、ラボでこの連絡を受け取る。
もちろん、これだって藤原の独断ではなかった。
状況の変化を藤原は総裁に逐次報告しており、総裁が新たな指示として藤原にヒアリングを命じたのだ。
私たちはそのままラボに一泊し、翌朝に藤原が到着するまで待機していた。
崎原とラボは、車で45分ほど離れている。
ラボは自然公園や学校法人運営の病院と近接しているが、道路から奥まった位置にあり部外者が立ち入ることはない。
ラボは自然公園に繋がっている森に囲まれている。公園は湿地帯のため、遊歩道から外れて移動するのは困難だ。だから森は繋がっていても散策者が誤ってラボに侵入することはない。
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4月27日の早朝、藤原はラボに到着して簡単な朝食を済ませると、直様ヒアリングを開始した。
ヒアリングは個別に行われ、途中何度か休憩を挟み、予想を超えて長時間となった。
ヒアリングが終了したのは21時過ぎだった。
朝、ヒアリングが始まる前に日下に連絡を取って以降、ヒアリング終了まで私と榎本は日下のことを失念していた。
山村邸に連絡をするが日下には繋がらない、私はラボを去ろうとしていた藤原を寸前で呼び止め、見鬼であるメンバーが山村邸で何かしらのトラブルに巻き込まれた可能性があると報告する。
判り易く藤原は青ざめる。
直様に総裁へ連絡するが繋がらない、藤原の血の気は失せて気の毒なほど狼狽して取り乱す。
適合者の件で総裁とはホットラインで連絡を繋ぐ。その連絡が通じないのだから、総裁に危険が及んでいる可能性が考えられるのだ。
それは協会全体に及ぶ危機が生じている可能性が高いという意味だ。
何が起きているかを考え、正確に現状を捉えて行動しなくてはならない。
さもなくば敵によって協会は殲滅される。
この正体不明な敵は、総裁すら追い詰めるほどに強大な力を有しているのだから。
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藤原はラボの所員たちに施設を離れて身を隠すように指示する、所長とは何時でも交信できるように連絡方法を取り決める。
最悪を想定してラボの起爆装置は藤原が預かる。
所員の退去後、緊急時マニュアルに沿ってシステムのバックアップや予備電源の確保などを済ませて、ラボの閉鎖を完了させたのが23時だった。
藤原はバラバラにいるのは危険だと考え、一緒に行動した方がよいと判断したのだろう。
私たちに自分の隠れ家に同行してはと、提案してきた。
マネージャーがリーダーに自分の拠点を教えるのは通常は愚策だ。
私は承諾して、藤原と同行することを決めた。
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3人がラボから出て駐車場に向かうため、玄関前の車寄せを横切ろうとした時、人影に気づく。
車寄せロータリーの中心の芝生の上に、男の人影があった。
男は巨体で肩幅も広い、ラボの夜間灯の薄明かりで白い背広を着ていることが判る。
「ビリースタイン」藤原が呟く。
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