通学路、振り返るとそこにいる
@wizard-T
通学路、振り返るとそこにいる(前編)
うちの小学校、いや正確に言えば小学校・中学校・高校が一体になっている学校で、ひとつ恐れられている話がある。
その話の主役から逃げるために、ぼくの友だちの崎山君はいつも一枚の紙を持ち歩いてる。
「すっごくかっこいいよねその髪の毛」
ぼくはそう思いっきり言ってやりたい。でもできない。言えば、また崎山君に迷惑をかけてしまうかもしれないから。
崎山君は生まれつき髪の色が薄くて、お兄ちゃんが読んでいた漫画の主人公みたいだ。その上に本当ならお勉強も運動もできる崎山君はもっと人気になってもいいはずだ。
でもぼくらは、崎山君と親しくなれない。崎山君は大きな野球帽をかぶり、きれいな髪の毛を隠している。実にかわいそうだ。
「まったくさ、先生はいつも言ってるだろみんなと仲良くしろって!」
「崎山君と仲良くしちゃいけないみたいにさ!迷惑なおっさんだよ!」
クラスのみんなが、崎山君を守ろうとしている。本当に好かれている。
でもそんな事、教室の中でしか言えない。
学校を出ると、ぼくらでさえも襲われる。あのあやしいおじさんに。
崎山君と仲良く話していると、三年前に人が死んだって言う10階建てのマンションの角っこのあたりからの通学路にいる変なおじさんに追いかけられる。
ぼくらは、もうそんな事に何回も当たって来た。
「崎山君はもう三回もやられてるんだよね」
「本当、迷惑なおっさんだぜ!」
みんなからもそう言われている。本当に迷惑なおじさんだ。
その迷惑なおじさんは、真っ黒な髪の毛におじいちゃんが来てるような着物、たしかじんべえってのを身にまとい、右手には墨汁と筆を持っている。いつもにこにこしているけど、ぜんぜんうれしくない。
ぼくらが崎山君と仲良くしていると、ぼくらの頭をその筆で塗りたくる。
「来い来い来い来い来い……!」
来い来いと叫びながら腕を振り回し、墨汁で頭を塗る。抵抗しようとしても、ものすごい身のこなしでかわされる。
先生やお巡りさんが出て来ても同じ。取り押さえようとしても、泣きながら逃げて行く。必死にパトカーで追いかけた事もあったけど、捕まらない。
そのあやしいおじさんのせいで、ぼくらの登下校はいつもいやな時間だった。本当に、崎山君たちとおしゃべりもできないしいつもびくびくしなきゃならない。
崎山君本人は一番ひどい目にあっている。
それこそ、戦隊ヒーローの悪役が普通の人たちをいじめるかのように徹底的に墨汁を塗りまくり、真っ黒にするまでやめようとしない。少しでも抵抗すると、笑顔からとんでもない怒り顔に変わり、止めた人全部の頭を塗りたくる。
「ハハハハハ……!!」
そして完全に真っ黒になると、うれしそうな声を上げて走り去っていく。
それでやっぱり捕まえられない。崎山君は泣いているってのに!なんで笑ってるんだろう!
と言うか少しでも髪の毛が黒くない子を見ると、あやしいおじさんはその髪の毛を全力で塗りたくる。崎山君だけじゃない、誰でも彼でも構わずに。
そんな時のために、崎山君はいつも一枚の紙を持ち歩いている。
「じげしょうめいしょ」とか言う名前のその紙を見せると、おじさんは泣きながら走り去っていく。
ものすごく悔しそうにおばちゃん、いやおねえちゃんとゲームをやって負けた時のぼくみたいに。
こんなだから、最近多いはずのハーフだかクォーターだかの子どもたちはこの学校に来なくなった。この3年間で、もう40人近いお友だちやお兄さんお姉さんがこの学校から別の所に転校してる。
「お父さん、髪の毛が黒くないのってそんなに悪い事なの?」
「別にとしか言いようがないけどな、そうだろ?」
「そうよね、先生もそう言ってるんでしょ」
「でも高校の先生とかはあまり良くはないって」
「そりゃあれだな、お前みたいに元から黒かったのにそれをわざわざ色を変えるのはどうかなと思うけど、それでもリスクを覚悟してるなら別にいいって事だろ。あんまり髪を酷使するとハゲちゃうぞ」
お父さんはハゲるとか言ってるけど、ハゲたら誰が嫌なんだろうか?
坊主頭なら野球部のお兄ちゃんたちもやってるし、それの一体何が悪いんだろう?
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