第25話 サビーナ
「ありがとうございます、急いでたにしても大損するとこでした」
「先程の少年か、こちらこそ横から余計な口を挟んで申し訳なかった」
魔道具を扱うバダンテール商会での取引を終えて店を出た俺は、少しばかり店の前で時間を潰して女騎士さんが出てくるのを待った。
世話になった礼を言う為だが、女騎士さんも終盤には若干楽しげにしていたのが印象的だ。
「この商会が代替わりをしたのはつい最近の事でな。だが急激に傾いている、理由は分かるだろう?」
「店主があれじゃあ評判悪いですよね」
「そういう事だ。先代は騎士見習い、それも別の地域から流れてきた小娘にも親切だったんだがな。今頃中では成り上がりの馬の骨に悪態をついているだろう」
平静を装いながらも、その口元は笑うのをこらえている。
なるほど、この騎士さんもあの店主は気に入らなかったって事か。
俺のように最初から見下されるんじゃなく、表向きは下手に出てる分だけ嫌悪感は増すかもしれない。
しかし別の地域か、バキラからミノーまでいくつかの街を見てきたが彼女の様な褐色の肌は見なかった。
この山脈の内外がこの辺りの人間にとっての地域という認識だ、つまり。
「別の地域……異種族に隔絶された領域を越えてこられたんですか?」
「親の代にな、内側南端の国カザイに船で来た商人の護衛だったらしい。だが船が大破し主は破産、両親は腕一本で稼ぎながら北へ逃れた後に亡くなったよ。」
「それから騎士というのは……かなり変わった経歴ですね」
「濁して言ってくれたが一目で分かる余所者だ。私を拾い、取り立ててくださった主人が変わり者だったという事だ」
そこまで言って騎士さんは俺の姿を上から下まで眺め、思案する様子を見せる。
眉を寄せて考え込んでから数秒後、彼女は襟を正して俺に一礼してから真剣な顔を向けてきた。
「私はこの国の第二王女フェリシア様付きにして警護を仰せつかっている騎士、サビーナ・オスマンという。貴方の名と滞在先、今後の行き先を伺ってもよろしいだろうか」
人生で初めてと言っていい状況に面食らうが、ここで答えないって選択肢はなさそうだ。
あの魔石を見られた人、しかも王女付き? 出来るだけ目立ちたくなかったんだが運が良いのか悪いのか分からないな。
「ユーマ・ショート、バキラの山から出てきた田舎者です。王都での滞在先は城門近くの宿、渡り待ち亭で帰るのは……えっと旧マダーニがあった村なんですけど」
「旧マダーニ? 台地の上の……いや、今あの場所は? ここで得た大金をその村に持って行くというのか?」
「えぇ、この国の方ならご存知だと思いますが、あの水の無い場所で暮らす村を助けたいと思いまして。この後も陳情に行く予定なんです、途中で出会ったジロー・カステルという騎士見習いの方に口を効いてもらえたので」
サビーナさんは真剣な表情で、俺の言葉を一言も聞き漏らすまいという様に、こちらの口の動きまで見ているみたいだ。
やがて答えに満足したのか、頷き少しばかり姿勢を崩した。
「あまり詳しくは無いが、その村はおそらく追放者の村だろう。パラディール卿の従者殿の口添えがあったとしても、陳情は捗々しくない結果が予想される」
「でしょうね。でも万に一つでも結果が出れば良いんです、いくつかの手段の内、一つでも成功して村の状況が好転すればそれで成功ですから。予想外に資金も手に入りましたし、これを全部使い切るつもりなら色々やれますよ」
顎に手をやり、何事か考えている様子のサビーナさん。
しばらくして迷いがちに、言葉を絞り出した。
「他人の為にそこまで本気で行動するつもりなら、私の主人に話をしてみよう。あるいは……ご興味を示されるかもしれない。王家直轄の領であるなら無関係とも言えないしな」
「それは……ありがとうございます! でも、恐れ多いので覚えていたらってくらいでお願いします……」
ミュリエルの事もあるが、目立つなというのは両親の言いつけだ。
これで王族なんかに目をつけられたら、どうなるか分からない。
俺はあくまで村の手伝いで良いんだ、俺の個人名なんて埋もれてくれればいい。
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