第15話 遺跡
「ホンットーに怖かったんだからね⁉」
「悪かったよ、最初から囮にするつもりは本当に無かったんだって」
かなり距離は離れていたがミアいわく、俺と繋がっている事で指向性を得て範囲の延びた「変な魔力」を追ってきたらしく、逃げた先での合流は無事に出来た。
瞳と同サイズの涙をこぼしながら空中を泳ぐように、必死で追ってきたミアを見た時はさすがに罪悪感でいっぱいになったしな……。
――しかしその後、泣きながら僅かな動作で作り出した土の塊パンチによって男3人が地に沈む事になったので、この件は流しても良いんじゃないだろうか?
ともあれ俺たちは傭兵団の追跡を振り切り、国境を越える事に成功していた。
ミアの功績によるところが大きいと、ジローさんと一緒に必死で持ち上げてどうにかご機嫌を取ることも出来たしな。
本来の旅程なら、城門都市サイトからミノー国境の街マダーニまでは余程頑張って2日の行程、今回は出発の遅れとトラブルもあったが二泊三日。
と、行きたいところだったが、野営し夜が明けて現在地を確認してみた所――。
「……かなり道を外れてしまっているな」
「あれだけ全力疾走すればねぇ……」
そう俺たちは完全に道に迷っていた。
傭兵達を振り切るためとはいえ、街道の山道を外れて森に入ったからなあ。
日も暮れているし、この日は見張りを立てつつ野営して翌日である。
「ミア上から見てきてくれよ」
「また置いてくつもりでしょ⁉ それに目立ったら危ないじゃない!」
「見つかったところで上空を飛んでるミアのサイズをどうこうできるヤツなんて、そこらにはいないと思うぞ?」
「いやいや、鳥とかすごく怖いんだから」
「あぁ確かに、君のサイズだと人間以外の方が面倒だな」
「空を連れて行かれたら匂いで追えないッスよ」
ミアには拒否されてしまったが、夜の間に観察した星と山脈の形から大雑把な方角は把握できている。
山脈のこちら側が出身地のジローさんと相談し、山を降りれば遠からず森を抜けられるだろうとなった。
さすがに歩き難いし、頻繁に方角を確認しながらなので昼頃にもなると疲れてくる。
――その疲労のせいかと、しばらくは思っていた。
「ミア、何か言ったか?」
「へ? え~と、タロと話してたけど?」
「ッス!」
しばらく前から、かすかに声が聞こえる……気がする。
歩き続ける作業は退屈だ、紛らわすためにミアはよく喋っているがどうも違う。
なんとなく声が遠い、でも叫んでる訳でもないし他の皆には聞こえていないみたいだ。
そうだ、距離が遠い。
方角は向こう、出来るだけ早く行かないと。
3人は置いていった方が良いか?
「おいユーマくん、どうした? 方角がズレているぞ」
「待って、ユーマおかしいよ? 変な魔力も急に止まったし!」
「ごすじん前見てるッスか? フラフラッスよ⁉」
木の根につまづいて転びそうになった瞬間、3人の声が耳に入る。
いやいや、みんなを置いてってどうする。
でも目的地はあっちだ、それは譲れない。
「ごめんみんな、向こうに行きたい。何かあるんだ。」
「何かってなに⁉」
「……人を操るモンスターの類かもしれない、タロくん?」
「う~ん……森の中で色んな匂いがするッスけど、モンスターってどんなのッスか?」
「歌声で人を呼び寄せる海のモンスターを本で見た記憶があるが、近くに池でも――」
勝手な事を言ってるな、あとミアは髪を引っ張るな普通に痛い。
おかげでちょっと意識が戻ったけど。
「モンスターじゃない……はず。昨日言った家宝の影響というか、誰かが俺と繋がって声をかけてきたみたいだ」
「それってユーマがコントロールしてる物じゃないの? しっかりしてよね、ユーマがいないと誰がミアの面倒見るのよ」
「面倒は自分で見てくれ……しかし、能力はそのはずなんだけどなぁ。とにかく凄く困ってる雰囲気だから行ってみたい」
「どうにも状況が掴めないが……人助けか? 様子を見ながら慎重に行こう」
許可を得て、今度はしっかりとした足取りで目的地へ急ぐ。
歩いたのは数kmくらいか、近くまで来ると声もはっきりと耳に届く。
「この中だ」
「この中だって? 何の建物……材質も見た事がない……というか、これは――」
ドーム状というのだろうか、巨大な鍋を地面に伏せたような形の建物、それが俺の目的地だった。
材質はおそらく金属だろう、という事しかわからない。
父さんに見せてもらった事のある、ミスリルのような魔力を持った金属に似てるか?
そのドームが、長年ここにあったのだろう事をうかがわせる様子で土と植物に埋もれていた。
「これは、何ッスか?」
「これは……帝国時代の遺跡じゃないか?」
「帝国って人間が作った勇者帝国っていうの? すっごい昔のだよね?」
「およそ400年前だ。やはり魔力を持っているな、こんな材質で建物を造り、なおかつここまで古く放置されているような物となると、遺跡くらいだと思う」
「ま、いいや。入ろうか?」
「え? どうやって?」
土の中から一部分顔を出している金属は継ぎ目のようなものがない。
確かに一見入り口とかは無いんだが、その表面に手を触れる。
――と、物音ひとつ立てず、四角い穴が遺跡に生まれた。
「どういう事だ……おいユーマくん! 遺跡には罠やモンスターの類が……!」
「ごすじん危ないッスよ! 罠とかそういうの、ボクちょっとはわかるッスから!」
「こっち側にはそういうの無いらしいよ、このまま進もう」
「ほんとに? っていうか相手はどんなのだったの?」
内側も同じ材質で地下への階段がつづいている。
ちょっと空気が動いてるな、こっち側は安全という事はどこかに別の入口があるんだろうか。
声を信用して迷わず階段を降り、薄暗い通路をズカズカと歩いていく。
入り口から差し込む光と、通路を抜けた先からの光のみが光源だが向こうのは陽の光や松明の色じゃない。
警戒しない速度であっという間に通路を通り抜けると、広い部屋に出た。
「これの光だったか……中身は魔石か、これ?」
部屋の中には緑色に光る円筒形の柱がいくつも並んでいた。
緑色をしてるのは何かの液体らしく、柱の上の方には空気らしき物があり、時折緑色が揺れている様子もある
中に浮いているのは、主に魔法を使う時に疲労を肩代わりさせる魔力を持った石――魔石。
内部に含まれた魔力によって大きさや見た目も変わるが、ここにあるのは見た事もない大きさだな。
多分売れば結構な金額になるだろう、他にも色々と使いみちがある品だ。
「――っと、これじゃないな。」
こんな物を見に来たんじゃない。
緑色の筒の中を縫うように歩き、奥へと進んでいく。
部屋の奥、緑の円筒の中で唯一中央部で強い光を放つ柱。
その前に立ち、落ち着かせるように声をかけた。
「はじめまして――来たよ、ミュリエル」
「……」
柱の中で光を放っているのは小さい女の子だ。
3~4歳くらいだろうか。柱に遮られるのも構わず、その細い腕を俺に向けて伸ばしている。
緑の液体に涙を溶かし、音にならない声で必死に俺を呼ぶ子――ミュリエルが俺をここまで呼び出した者の正体だ。
話した内容はこの子の名前、場所、安全なはず、そのくらいの事。
用件なんてのは聞かなくても分かりきっている。
「さあ、出ておいで」
俺の声と同時、硬質な音を立ててミュリエルを閉じ込めていた筒は砕け散った
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