最強の娘と虚名を得た俺は、乱世から逃れられないので終わらせる!

楼手印

1章 拾った娘と美人の為に生きたいだけなのに、アレもコレも俺の手柄にしないで!

第1話 旅立ち

 揺らめく炎とその向こうに見える生家。

 座り込んだまま、その姿を目に焼き付ける。

 パチパチと燃える木の爆ぜる音や匂いと共に、いつか思い出せるように。

 18歳まで暮らした思い出が詰まっているが、帰る予定の無い旅に出る以上これが見納めだろう。


 十分に感傷に浸ったあと、立ち上がって準備していた木の桶を手に取り、中の水を目の前にぶち撒ける。

 山林の中に建てられた家だ、後始末しないと山火事になったら大変だしな。

 家から少し離れた場所に熾していた焚き火を消し、荷物を担いで背を上げる。


「消火ヨシ! っと、炎の出発(たびだち)! ってのはこれで良いか? 父さん」


 空き家になった家に向けて一応の確認。

 旅に出る時の儀式として父に聞いていた物とは少し違うが、まあ仕方ない。

 両親に加え、飼い犬のジローとサブローが眠ってる墓もあるのに、全焼させるのはいくら何でも無いだろう、儀式は焚き火で十分だ。

 魔道具の効果で敷地内に侵入するのは難しくなってるし、帰りたくなれば帰っても良いかもしれないな。

 

「父さん母さん、ジローサブロー……行ってきます」

 

 帰ろうと思えばいつでも帰ってこれる。

 中々最初の一歩を踏み出せない自分に言い聞かせ、俺は生まれ育った家を旅立った。


********** 


 風を裂いて5本のナイフが飛ぶ。

 それらが襲う先は、ほぼ人間の体に獣の頭を持つ者達。

 獣人と呼ばれる種族だ。


 実家のある山脈を下りてすぐの場所なんだが、こんな所にまで敵対種族が来ているのか?

 北のシータ公国が防衛に当たっていると聞いてたんだが……。

 出発直後、初日からこれかあ。

 

「wせdrftgyふじこ」

「@:;pぉいk」

「何を言ってるのか分からないけど、やなこった!」


 俺に武器を向けながら叫ぶ獣人達だが、随分余裕だ。

 放った5本のナイフと獣人は同数、おそらく小規模の情報収集部隊の様な物か?

 1人に付き1本のナイフが宙を舞って襲っているが、それを武器で弾き返している。


 俺には父さん譲りの魔道具、それに関わる魔力を操る能力がある。

 それを使って似た効果の魔剣ではありえない、複雑な動きをしてるはずなんだが……。

 

「8ういkjm!」


 5人全員が危なげなく剣や槍で弾いてるよ。

 これが獣人にとって一般の兵士? 人間の国家が劣勢になるのも分かるな。


「君! 我々の事は良い! 早く逃げろ!」


 声をかけて来たのは獣人と戦っていた兵士だ。

 10人ほどいたようだけど、今生きているのは半分以下だろう。

 あなた達が逃げる時間稼ぎのつもりだったんだけど……。


 ダメだ、俺が引かないつもりなのを察したのか、負傷を押して戦うつもりだ。

 面倒な――あぁ、もったいない!


「護身用にはこれしか持ってきてないんだぞ!」

「うじこlp!」


 俺の叫びを焦りとでも取ったのか、獣人が笑いながら旋回して襲いかかったナイフを迎え撃つ。

 それまでと同じ様に手持ちの武器で弾き――その瞬間、ナイフが轟音と共に次々と爆発する。


「rftyg⁉」


 驚愕に動きの止まった最後の1人にもナイフが着弾、爆発。

 これで全滅だけど、持ってきた飛行ナイフ5本も全滅か……。


 勝手に目標に向かって飛ぶ、という魔力が込められたナイフは、制作におよそ人間100人分程度の魔力が必要になる。

 その魔力がそのままナイフに宿っている訳でも無いが、戦闘で最も利用される爆裂する火球に必要な魔力が人間0.6人分だ。

 獣人がどれだけタフでも耐えられないだろう。


 というか――。


「お~い! 大丈夫ですか、生きてますか~⁉」

「ど、どうにか……」


 距離を開けた俺の方に獣人を誘導して離してあったが、兵士の人達も吹っ飛んでた。

 治癒のポーションを取り出してるので、多分なんとかなるだろう。


「じゃあ俺はこれで!」

「おい待……お待ち下さい! あなたは転移……いや勇者様――」


 何か言ってるが俺は聞こえなかった!

 こんなご時世だ、戦う力があると知れたら最前線送りなのは簡単に想像できる。

 それにもう護身用の武器は底をついたからな!


 必死で追いかけようとする兵士さん達だが、山中で生活していた脚力は伊達じゃない。

 始まったばかりの平凡な旅のため、俺は全力でその場から逃げ去った。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る