シュガーレス・シュガー



緩やかな雫が私の体を伝って濡れていく。


最後の逢瀬。二人で決めた今日その日、貴方は待ち合わせに五分遅れた。貴方らしく無いと思った。


貴方は少し苦しそうな笑顔を見せた。取り繕っていることは目に見えていたけれど、伝えるのは野暮でしょう?

だって、今夜が最後。最後まで楽しみたいもの。


でも、貴方は違うみたい。さっきからずっと、ずっと泣いてる。ねぇ、そんなに泣かないで。伝染ってしまうわ。


ただ、貴方に抱かれていれば良かった。都合の良い友人であれば良かった。私に、情が湧かなければ、そんな辛い思いしなくて済んだ。


尽くして、尽くされて、いつの間にか大切な人になっていた。貴方にとっての私も、恐らく私にとっての貴方も。


いつの間にか動きが合う事が増えて。いつの間にか笑い合う事が増えて。いつの間にか、手を握る事が増えた。


卑劣よね。貴方に言い寄って、貴方を棄てるのよ。一度は未来を誓った男を棄てるの。友人だったはずの、軽かったはずの男を。


ねぇ。もう泣き止んで。あぁ、ほら、伝染っちゃったじゃない。私も、これ限りで終わりにするわ。いいえ、伝染っただけよ。心からの涙じゃない。


最後まで愛して。私が貴方のものだった証を、私の奥に刻んで。甘い声で囁いて。そうしたら、全部忘れて、ただ貴方に溺れていられる。


愛してるわ。ずっと。










鏡に口紅。冷蔵庫にアイス。それから、


眠る貴方に接吻を。






高いヒールを履いて、私は部屋を出た。

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