人工の観光名所にあなたは感動できますか?

ちびまるフォイ

人の賑わう素敵な場所

「町おこしに、この町を観光名所にしたいのだ」


「ははぁ、観光名所ですか町長」


レポーターは町長のアイデアにうなづいた。

けれど本心はまあ無理だろうな、と思っている。


「どうやって観光名所にするんですか? ご当地アニメでも作って、オタクを釣るんですか」


「いやいや、そうじゃない。やはり観光名所といえば絶景! 絶景を全面に押し出すんだ!」


「それはいいアイデアですね。しかし、この近くに絶景なんてありませんよ。

 薄汚い雑居ビルがひしめくゴミ溜めの摩天楼じゃないですか」


「ぶっ壊す」

「え」


「なにもかもぶっ壊して、絶景を作る」


「ええええ!?」


町長の豪腕により町には大規模な改革が行われた。

自然が作り出す芸術ではなく、人工的に作られた精密な絶景を作る。


出来上がったのは高台から見下ろす絶景スポットだった。


「町長、これはすばらしい景色ですね。驚きました」


「そうだろうそうだろう。あらゆる角度から見ても美しくなるように

 山を切り開き、ビルをなぎ倒し、道路を分断させて作り上げたのだ」


「そ、それはすごい……」


「それだけではない。絶景ポイントまでは動く歩道があって快適。

 夏でも冬でも快適になるように地面に内臓エアコンがされている。

 天気が悪くならないよう自動天候制御装置も組み込んでいる」


「現代科学の奇跡じゃないですか!」


「私はこの観光名所にひとが押し寄せるためにならなんだってするんだよ」


絶景と快適性の完全なる両立をはたした観光名所は鳴り物入りでオープンした。

これまでの経緯を追っていたレポーターもオープン開始日には密着取材をしていた。


けれど、ひとっこひとりやってこない。


「お客さん来ませんね、町長……」

「おかしいな。事前にCMやプロモーションは徹底していたのに……」


いつまで経ってもお客さんは来ないので町長は焦り始めた。


「なぜだ。なぜ客が来ないんだ……」


「人工物だからですかねぇ」


「バカな。人工高台で災害もゼロで絶対安全。

 震度100の地震にも耐えられるほどの安全設計!

 核爆弾を打たれても平気なほどにしっかり作っているんだぞ!?」


「いや安全性ではなく、絶景という点ですよ。

 やっぱりお客さんも絶景を見たいだけでなく、

 自然の良さに感動したいという点もあるんじゃないかと」


「そんなこといったら、人工の建造物にだってたくさん人が押し寄せる観光スポットもあるだろう」


「それは歴史的な建造物だとか、そこにある歴史を感じられるからでしょう?」


レポーターの言葉を聞いて、町長はなにかひらめいたように手を叩いた。


「歴史! それだ!!」


「町長、なにか思いついたんですか」


「この絶景には逸話が足りなかったんだ。だから行く理由がなかった。

 一緒に見た人と結ばれるとかそういう伝説にすれば、ここへ足を運ぶ理由になるだろう!」


「な、なるほど!」


疲れを癒やしたい人が温泉を求めるように、なにか訪れる目的を作ればいいと町長は踏んだ。

かつてこの地で湖に身を投げた男女の恋話とかをでっちあげて、人工絶景にさらにロマンチックな伝承を追加した。


これで間違いないと町長は確信した。

それでも客が来なかったとき、町長はすっかりハゲ散らかっていた。


「ちょ、町長……」


「ナゼ……コナイ……ニンゲン……ワカラナイ……」


「人類が絶滅した後に取り残されたロボットみたいになってる……!」


情報過多の現代において伝承やら歴史をでっち上げる作業はきわめて難しい。

町長が必死になってアピールした絶景に関する伝説も、真実警察によって白日の下へさらされてしまった。

そうしてボロや矛盾を暴かれ、ここが人工名所であることもバレてしまった。


金儲けがチラチラ見えるような観光名所にロマンチックな伝説はミスマッチ。

酢豚にパイナップル突っ込むようなものだった。


「そ、それじゃ私はこれで失礼します……」


追い詰められた町長が人工観光名所に人が来ないのは

レポーターどもの宣伝が良くなかったからだと逆恨みされる前に退散した。



それからしばらくして、報道デスクに一報が届いた。


「え!? あの人工の観光名所に人が押し寄せてる!?」


レポーターは撮影機材をあわてて担いで現地に向かった。

シャッター商店街よりも閑散としていたあの観光名所に人がいるなんて想像できない。


人工観光名所に到着すると、人でごった返していた。


「すごい……! まるで別の場所みたいだ!」


その人混みの中で町長を見つけるとレポーターは走り寄った。


「町長! こんなに人が集まるなんてすごいじゃないですか!

 きっとこの人工観光名所の良さに気づいてもらったんですね!」


「あ、ああ……」


「町長? なんか反応薄いですね。町長がうまいことPRしたんじゃないですか?」


「いいや私はなにも……。国がやったのさ」


「国が? そんなところがPRするわけないでしょう」


町長は黙って国の発表をレポーターに見せた。



『近々、この町には超やばい大災害がおきます

 みなさん今のうちに避難所に逃げてください!』



レポーターは改めて訪れている家族連れやらに目を向けた。


「ここにいればどんな災害が来ても大丈夫よ。

 それに絶景も見えるから、本当に最高ね」


こんなにも賑わっている場所でも町長の表情は沈んでいた。


「町長、ここって……」


「避難所で入場料とるわけにいかんだろう……」


今もこの観光避難所には国内外から多くの人がやってくるという。

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