短編小説集 SF・風刺編

あーく

黄金の歯車

 とある大きな工場では、たくさんのロボットが休む暇なく働いていた。

 私は工場長にロボットの点検を任されていた。


「いや〜、来てくれてありがとう。とあるロボットが不調でね、診てほしいんだよ。素晴らしいエンジニアである君にとっては造作もないことだろ?」


 私は今まで何千、何万のロボットをメンテナンスしてきた。

 故障寸前のロボットでも、元気に働けるまで完全に治したこともあるし、既に壊れているロボットを治せという無茶にも応えてきた。


 既に手遅れで救えないロボットたちもいたが――


「見てほしいのはこのロボットです。動きが少しいびつでしょう? 終わったら報告をお願いしますね。では、よろしくお願いします。」


 そう言うと工場長は去っていった。

 完全に私のことを信頼しきっているようだ。


 早速診てみることにした。

 原因はすぐにわかったが、ふと気になることがあった。

 このロボットは複数の歯車で動いていたのだが、一つだけ黄金でできている歯車があったのだ。


「どうしてこんなに綺麗な歯車が使われているんだ? 他の歯車はくすんでいるというのに」


 疑問は他にもあった。

 不調の原因は明らかにこの黄金の歯車であるにもかかわらず、この歯車がなくても特に問題なくロボットが動くということだ。


「これを取り除けばうまくいくだろう。」


 私はその黄金の歯車をポケットの中に入れると、工場長へ報告しに行った。


「どうでしたか? 様子は」

「ええ、動作は良好です。部品の位置を調整するだけでよかったです。油も少なかったので足しました。ただ、このロボットは寿命が長くないので注意してください」

「助かりました。ありがとうございます」




 家に帰るとポケットの歯車を取り出し、趣味で作っているロボットに組み込んだ。


「お前はここにいた方がいい。盗むのは本当は良くないことだけど」


 数年後、私が作った感情を持つロボットが完成し、国に表彰された。

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