第6話 思わぬ再会


「よっしゃ、今日の実戦訓練は特別講師を呼んじゃってるからね、気合い入れて第一訓練場に集合してくれよ!

さらにさらに!

一か月後には新人戦・九十九闘技つくもとうぎが開催されるからね!

気合いに気合を入れちゃいましょう!」


アンナ先生が鼻息荒くして言う。

毎度のことだが、この先生は座学と訓練の時のテンションがかなり違う。

座学の時は聡明という印象なのに、こんな姿を見ると黒髪美人ももったいないというところだ。

乱暴に言ってしまえば「血気盛ん」。

やはり最近まで現役の軍人をやっていた先生には座学の授業は退屈なのだろうか。



そしてその実戦訓練は今回で三回目だ。

一回目、二回目とともに魔法を使わない戦闘訓練には参加することはできた。

しかし、その後の訓練、つまり本番ともいえる魔法戦闘訓練にはもちろん参加することはできていなかった。



アンナ先生には何度も何度も頼み込んではいるものの、魔法が使えないやつが訓練に参加できるか?といわれてしまえば返す言葉はない。

もちろん魔法を使えないことでアウターにその責を求めることはない。

むしろ原因は僕の方にあると見たほうがいい。

はぁ、いつもながら情けないことこの上ない。



これ以上訴え出ても意味はないと結論付けた僕は、そそくさと更衣室に。

今日も参加することができないという鬱々とした心持で着替えをしていた。

アウターとの神経接続を円滑にするために開発された密着型ユナイトスーツに着替えを済ませ、第一訓練場にたけちゃんと一緒に向かう。



「今日の講師って誰なんだろうな?」


 たけちゃんが僕にぼんやりした声で話しかける。


「やっぱり歴戦のパイロットなんじゃないの?怖い人じゃなきゃいいね。」


「そうだなあ、いままでは魔法の使用も初歩にとどまってるし、今回の訓練でガツンとレベルアップした内容になるかもな。」


「はあ、ぼくも魔法戦にはやく参加したい。せっかくあの人と同じ魔法属性だったのに。」


「あの人って?」


「話したことなかったね。まあ昔、お世話になった<英雄>かな?」


「はは!そんなあっさりと英雄だなんて。名前は?」


「須佐さんっていうんだ。助けられた後、直ぐに別れてからそれきり会ってないけどね。」


「須佐?・・・どこかで聞いたことあるような・・・」



そんな話をしているといつの間にか集合場所である校舎のはずれにある第一訓練場に着いた。


第一訓練場は開けた場所での戦闘を想定した荒野だ。

そこにはこげ茶の土が敷き詰められており、申し訳程度の凹凸がある。

それゆえほとんど身を隠すことはできず、純粋な戦闘力を訓練する場所である。


訓練場にはすでにクラスのほとんどが集まっていて、今日来る先生は誰なのかと、あちらこちらで盛り上がっていた。


ぼくは半端な不安と期待を抱えていたが、こんなほのぼのとした明るい雰囲気にのまれつつある。この空気についていけないのも嫌だったので、僕も純粋に訓練への気合いを込めようと、顔を二回ほど両手で音を出してたたいた。



(よし!気合入った!)


思い切り気合を入れた直後、授業のベルが鳴るとアンナ先生とともに特別講師であろう男が訓練場に到着した。



「はい!みんな注目ね!

先生も軍にいたころお世話になった須佐轟大佐です。

しっかりとあいさつするように!」


「共和国軍第三大隊、大隊長、須佐轟だ。

今は長期休暇中なのに後輩のために来てやった。

その分みっちり訓練してやるからそのつもりで。」



 嘘だろ。単純な感想だ。



 須佐轟。あの<英雄>だ。


 久しぶりに見た彼は、記憶とそう変わりない容姿と振る舞いだった


詳細な年齢は知らないが、おそらく三十代後半だ。

黒髪をつんつんに立てたその髪型は少し野蛮なイメージを持たせるが、それも間違いだとすぐに気づく。

まっすぐを見つめるような鋭く切れ長の目、固く結んだ口元に残る短い傷跡、それらが彼の中の確固たる何かを感じさせる。

大佐としての威厳、生体鋼外殻機動士アウターパイロットとしての威厳、その両方を賄うに足る屹立した存在感を醸し出していた。



周りがあまりの大物に騒がしくなる中、僕は「偉い人が来た」という以前にそんなに偉い人だったのかという驚きと、おもわぬうれしい再会に口をぽかんと開けてしまう。

あこがれの人が目の前にいるのだ。

驚きを隠すことはできない。

だが直ぐに自分の現状を鑑みて緊張がドッと押し寄せてくる。



(気づかれたらどうしよう・・・魔法が使えないなんて思われたくねぇ~!!)


もちろん僕だって恥知らずではない。

憧れの人にはかっこいい姿を見せたいってのが人間ってものだ。

だが、そうならないことは目に見えている。

何を隠そう僕は魔法が使えないのだ。


そう懸念していると、アンナ先生が早速今日の授業の説明を始めた。


「今日はウォーミングアップの後、いきなり魔法戦に入ります。

知里君は残念だけど今日も見学しててね。

ごめん!」


(えぇ……)


 早々の残酷な宣告に思わず僕は呆然と立ち尽くす。

「わかってました」とクールに返事をしたいところではあるが、<英雄>の手前、そうお気楽な気分には到底なれない。

スタートの号砲の前に失格を言い渡されてしまったのだ。



(ひどい、ひどすぎる。せっかく須佐さんが来てくれたのに……。)



 須佐さんが自身の耳を疑うように聞き返す。



「知里?知里といったか?」


「はい。知里友和くんですよ。アウターが覚醒していないので。」


「まさか、友和が機動士パイロットになったのか!

友和!元気だったか!」



(覚えててくれたんだ!…………いやそんなことより非常にまずい!!)



須佐さんが今までの毅然な、大佐らしい態度を急変させ僕に話しかけてくる。

一方僕の方といえば、アウターが覚醒していないことをばらされてしまった。

もう合わせる顔がない、悪いことなど何もしていないのに須佐さんを裏切ってしまったような、申し訳ない気持ちが募ってくる。

クラスメイトの注目が集まる中、恥ずかしくてうまく須佐さんに返事を返せない。



「ん?生体鋼外殻アウターが覚醒していない?それは本当か?」


 先ほど触れていなかった生体鋼外殻アウターの件についてアンナ先生に須佐さんが問い直す。


「はい。

原因もはっきりわからず、アウターの形状も<刀剣>という特別種に認定されました。」


「<刀剣>!?ハハハ!」


須佐さんが哄笑する。須佐さんに限って他意の混じっている笑いでないとわかってはいるがやはり恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。僕はだんだん顔が熱くなるのを感じた。もうどこぞで入れた気合いというモノも、すっかり消え失せている。


(辱めまで受けて、訓練にも参加できないのか!

受難ってヤツなら今からでも受け取り拒否して、送ってきたヤロウに特典付きで送り返してやりたいくらいだ‥‥)


だが。


どうしようもなく、この場の雰囲気に耐えるように顔を伏せていた僕に思わぬ言葉が届く。



「友和!お前も参加しろ!死ぬ気で訓練するんだ!」


「…え?」



 その提案を聞いたアンナ先生が遮る。



「それはできません!あまりに危険じゃないですか!」


「大丈夫だ、アンナ。俺が責任を取る。」



また、須佐さんが「大佐」の顔に戻る。アンナ先生を安心させるためだろう。


これを聞いた僕は、魔法が使えないという負い目よりも、まともに訓練に参加できるという喜びが打ち勝った。


 待ちに待った訓練。


(喜びに震えるとはこういうことか!)


彼の言葉、一節一節から背中をドンと叩かれるように気合いが入れなおされる。そして、こんどこそ須佐さんの方にまっすぐ視線を向け返事を返した。


「はい!!」



 ____________________



 訓練の内容は純粋な一対一の決闘になった。


決闘の際には立会人となるもう一人のアウターパイロットが両者に対し、すべてのパイロットが使える防御魔法を施す。戦闘を経てその防御魔法が破られたほうの負けというルールだ。防御魔法の耐久の減り具合はアウター用インカムのゴーグルにおいて可視化(無論、僕には見られない。)され、戦う当事者にもわかりやすいようになっている。


そして僕の相手はダン・ドグラに決定した。


 ダン・ドグラ。

ハンスの付き人っぽい奴だ。付き人といっても正式なものではない。稀有な竜機士ドラグナーであるハンスに媚を売ることで、教室内の自分の地位をも上げようとしている、というのが僕の安直かつ妥当な推論だ。

別に珍しいことではない。


小太りな彼はハンスを後ろ盾にいちいち教室で僕に突っかかってくる、いわゆるヤなやつである。

一例を挙げれば昼食をとっている時、わざわざ僕に聞こえる声で僕と思われる人物を侮辱したり。

実名を出さないあたり、ありがちであくびが出る。

彼の小言を気にすることはほとんどないが、生体鋼外殻アウター自体を馬鹿にされるのは少々癪に障る。



 彼のアウターは犬、魔法属性は水らしい。

まあわかったところで対抗手段はほとんどないが、知らないよりましだ。



「おまえ、知里は知里でも、本当にチリなんだろ!

生体鋼外殻アウターも覚醒してないくせによくもぬけぬけと出てこれたな!」


 ダンが気持ち悪い笑い声で僕をあざける。

須佐大佐の目前ということもあり、さすがにむかついた。

だが、僕はどうにか今にも爆発しそうな感情を抑え込む。


(同じ穴のむじなにはならない!)


歯を鳴らす音が意識の外から自然に聞こえるほどであったが、表情には出さないように懸命に努力した。

さすがのダンもあまりの無反応にしびれを切らしたらしい。

予想していた反応が返ってこなかったことに焦りを感じたのか、少しつかえながら前口上を続ける。


「お、おい!

くやしかったらなんとかいえよぉ!

……まあいいか。

実力、いいや格の違いってやつをその身でよく感じ取れ!!!」


こちらとて気にしない、そういう態度を示したダンが高らかに言い放った。


同時に開始のブザーが鳴り響き彼との決闘が始まる。



生体鋼外殻アウター、展開!!」


ダンは決闘が始まるともに大声で叫ぶ。

アウターが聞こえればそれでいいのに、威圧のつもりであろう。



ダンのアウター、犬種は足に装甲が集中するタイプである。

素早さでかく乱し、蹴りで仕留める。

小太りなあいつにあまり似合わないアウターだ。



「行くぞぉ!」


ダンは一度ジャンプをすると、そのまま宙に浮かぶ。

両足の噴射口から水魔法を噴射し、姿勢を保っているのだ。

そしてそのままうつぶせになると、一気に水圧を上げ、不規則にジグザグと僕に迫ってきた。

かなりの速さではあるが目で追えないほどではない。


 ぼくもアウターを中段に構える。


「おらあ!」


僕の顔を目掛け、フルスイングの蹴りが飛んでくる。

それに対し鞘がついたままの剣峰でぎりぎり受け止める。

アウターを使わない生身の戦闘であったら、このフルスイングは隙を作るだけだ。

しかし、強者だからこその高慢、高慢であるからこその重み。



赤子の手をひねるとき何か警戒する者はいるだろうか?。



刀伝いにですらその衝撃が確実に響き、手の節々にしびれるような痛みが走る。


その鋭いスイングに対し、一撃一撃対応するのは困難を極めた。

装殻態シェルにもなれない僕のアウターでは、戦闘補助のゴーグルも使えない。肉眼だけで彼の攻撃を捉えるには物凄い集中が必要だ。


凄まじいラッシュに刀を使わず避けるという選択肢ももちろん浮かんだ。

しかし、刀という現状の「盾」がない状態のまま、襲い掛かる無数のハイキックを躱そうとするにはいささか勇気が足りない。

無論、それを成功させる自信もない。



戦闘においての消極策。

愚策を弄するしか対抗手段がいまだ見つからないのだ。



その愚策を続けている間にもキックのラッシュは続き、だんだんとその威力に押され始める。

手の制御が難しくなり、手首から先がボルトによって取りつけたものかのような感覚を覚える。

もとより、キックを押し返す腕力などないが、防ぐだけの力ももうわずかしか残っていなかった。

気づいた時には、押し込まれる刀を額でどうにかとどめていた。


 

(クソッ!悪化するだけの状況だ。反撃を考えるべきか?)


水圧によって宙に浮いたままキックの威力を出せるダンに対し、その足下で防御に徹する自分。

この状態が続く限り防御は解くことはできない。



(このままじゃ・・・・)


そう、圧倒的不利を打開しなくては。

そう思った僕は蹴りををよけるでもなく、無茶な反撃に出ることもなく、ただ本能的に退いた。

一歩大きくバックステップをしたのだ。



あまりにあっさり窮地から抜け出せた。



戦闘の勘というべきものを不幸にも持ち合わせていないことが、はっきりわかった。退くという簡単なことを実行するために時間をかけすぎた。

水魔法で加速された足蹴によって、僕の腕は確実にダメージが蓄積している。



ダンのラッシュから一瞬隙を作った僕は、千載一遇のチャンスととらえた。


(今だ!)


そのまま彼の元へ勢いづけて戻り、残る腕の力を振り絞ってダンに切りかかった。



「これでどうだぁ!!」


「バカが!」



 ガンッッッ!


金属と金属がかち合った音が響き、目の前に小さな火花が生じる。


攻撃の失敗。

その音と火花は無慈悲にそれを意味している。

そしてこの好機(と勝手に思った一瞬)を逃した僕の身に降りかかるものといえば、言うまでもない。



あまりに安直だった。実際、自分より遅いものが正面切って向かってきても、なんのプレッシャーもない。

むしろダンにとっては牽制にすら捉えられていないだろう。

僕が隙を作り出したのではない。

彼が気まぐれで、隙を与えてくれただけだったのだ。

 


振り下ろした僕の刀をまるで倒れてきた板切れを抑えるように、あっさりと右の足裏で止める。

僕を踏みつけるような構図も相まって、彼の嘲りに満ちた表情が真っ先に目に入る。この瞬間、「格の違い」を肌で感じた僕は思わず竦んでしまう。

反撃の意志に翳りが入り込む。



ダンが体の高度を落とし、そのまま刀をなでるように上から下へ足裏でなぞる。

柄まで力で抑え込んでいたダンはふと足の力を抜いた。

バランスを崩すためだ。

抵抗するものを失った力は逃がされ、僕は思わず前へとへたり込む。

まずいと思いどうにか足を踏ん張り、立った姿勢を維持することに成功した。


しかし、


隙を生んでしまった「赤子」の僕に対し、「大人」が見逃すはずがなかった。

ダンは立ったまま宙に浮いているような状態から身をひねり地面と平行になる。

そのひねりの力を利用し、さらにかかとを天に向けた状態で右足の水圧を高めると、アウターから発するキリキリという不快で甲高い機械音とともに、巨大な金づちを思い切り振り下ろされたような衝撃が僕の両手を襲う。



刀がはじき落された。

もう両手は僕のものではなくなっていた。



さらに「手をひねる」だけで「大人」は満足しなかった。



右足を振り下ろした勢いのまま、さらに回転。

左半身が上になると、次はお待ちかね、左足の出番だ。

おあつらえ向きに用意された鈍器はまたも顔面に襲いかかる。

まだ碌に状況を理解していない僕は、「危ない」という曖昧な本能でまたもバックステップした。

ほとんど尻もちだがどうにか左足が顔面に届かない位置まで後退できた。



(あぶねぇ!!!!やられるとこだった!!)




 だが、往々にして。



 都合よくはいかない。受難というものは。



「水法・<ハイドロバースト>!」


二メートル近く離れた彼の左足。

もともと足裏に展開していた青色の魔法陣がその径を3倍近く広げたと思うと、圧縮された水が目の前で一気に溜まる。

すると大きな球体形を保っていた水の塊が不気味に震えだし、消防車のホースから出るような水量が、今までとは明らかに違う水圧とともに噴出される。



「ぶへぇ!!!!!!!」


 僕はもう体重がなくなってしまったかと思うくらい、軽々と二十メートル吹き飛んだ。

防御魔法は蹴りの連打によってとっくに消耗しており、そのままぽっくりと気絶したのだった・・・・


 -------------------------------------


目を覚ましたらクラス全員の決闘が終了していた。

今は須佐さんによる総評が行われている。

僕もふらつく意識を須佐さんの方へ向けた。


「決闘を見ておおよそのことは分かった。

そこで一つ質問だ。

機動士パイロットにおいて重要なことは何だ?

じゃ、そこの君。」


「はい、やはり魔法が一番だと思います。

威力、精度ともに現代の攻撃手段において最も効率的です。

なので魔法を鍛錬することが最重要だと考えます。」


「うーん、30点。

そのような魔法第一主義に似た考えは俺にとっては容認し難いな。

そういうやつが真っ先に戦場で死ぬ。」


「え?」


「いいか、魔法は信念の形容でも、感情の強さでもないんだ。

魔法を過信した蛮勇を絶対にするな。

魔法っていうのは、戦闘における一つの道具であり、一つの技術なんだよ。

なぜ科学が発展しているこの国で、魔法が使われるのか。

それは魔法が強大だからではないぞ。戦闘の幅が広がるからだ。


だからいいか。

魔法を使ってもいいが、魔法に使われてはならない。

そんな風になったお前らは魔獣と何一つ変わらず、帝国の犬どもと同じだ。」


「じゃあ一番大事なことって何なのでしょうか?」


当然の質問が飛ぶ。

アウターは確かに硬く軽い装甲で魅力的だが、パイロットを目指すものにとって一番の魅力は何といっても魔法だ。

魔法はいわば夢の力だ。

いままで使えなかった力が使えるようになる。

これほど甘美なことはなく、使えるだけで浮かれてしまうだろう。

僕も実際に使えていたら、浮足立って一週間スキップ生活だったのは安易に想像できる。


しかし、須佐さんは自制を促すかのように、一つ一つ懇切丁寧に言葉を紡ぐ。


「大事なこと、ね。

もちろんひとつに道具をどう上手く使うか、その技術だ。

伝統的な帝国式の魔法行使に縛られず、自身の特性を活かし、魔法を工夫と応用でこき使ってやればいい。


もちろん魔法だけじゃない。

鋼を纏っているのに肉弾戦ができなきゃ意味がない。


そしてひとつに自身の信念だ。

その内容は問わないが、国や仲間、自身を救うための糧となる信念を見つけろ。

それが技術以外のお前らを支えることとなる。


まあ言いたいことは、こんなところだ。」



皆、須佐さんの話を聞いて黙り込んでいた。

クラスのみんなは生体鋼外殻アウターを配布され、それに浮かれていた。

夢の力である魔法を使える、ということに浮足立っていた。

だが違う。そう須佐さんは言い切った。

「魔法は技術。しかもその一つだ。」



この言葉はダンを目の前になすすべもなかった僕に少しの勇気を与えてくれた。

「一つの技術」ならば、まだやれることはあったのではないか?

魔法を使えないからって、腐ってていいのか?



自問自答が頭を巡る。



「……いや、やれることはあるはずだ。」



決心のような、自分に言い聞かせるような、そんな言葉を思わず僕は呟いていた。

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