夢日記
惚狭間(ぼけはざま)
また明日、ここで。
目が覚めると自室にいた。
窓の外は暗く沈んでいる。
真夜中らしかった。
玄関に向かい、扉を開け、外に出る。
振り返り部屋番号を見た、302。
ぼくはマンションの三階に住んでるらしい。
真向かいの建物はその輪郭がはっきりしないほど夜の闇に溶け込んでいた。
左手のほうに階段が見え、そちらへ向かいぼくは階段を降りた。
階段は、外を見させないためとでも言うように、大きな灰色の壁で覆われていて、とても景色は楽しめなかった。
降りた先を見ると同じ302号室があった。
ぼくは、階段を降りたはずだが…。
その部屋に入り込む。
部屋は凄惨な姿になっていた。
壁紙は剥げ、所々穴が開いている。床の木肌は裂けて、かびてもいた。
部屋の奥からは何かの怒号が鳴り響いている。ただなんとなくその声は人間のものではない気がしていた。
ぼくは部屋を出てまた階段を降りた。
するとまた同じように302号室があった。
部屋に入ると、今度は床と壁が血にまみれていた。
部屋の奥では人が首をつっていた。後ろ姿ではあったが、けれど、まるでそれはぼくみたいであった。
でもぼくよりも足が長くもあった。というより長すぎだ。吊られているのに、床に足がついていた。
足だけ伸びているようにも思える。
ぼくはまた階段を降りる。
その先でも同じように存在する302号室。
部屋の扉を開けようとしたが、あまりに固くて開かなかった。
ドアノブをよく見ると何かの液体が付着していた。
何となくだが、扉の覗き穴からこちらを見ている視線を感じた。
その視線に少々ぼくは腹が立った。
階段を降りる。
次の部屋は開けることができた。
さっきまでとはうって変わって、壁紙も貼られて、床も綺麗なきちんとした部屋になっていた。
部屋の奥からは人間の楽しげな声が聞こえた。
けれどその有り様に本物を感じられなかった。
階段を降りる。
部屋を開けると、いつもの風景があった。
特に代わり映えのない部屋の姿だ。
ぼくは部屋に入り、自室へと戻る。
布団へ横になって目をつぶる。
眠りへとつく。
起きたら自室にいた。
なぜか来客がくる予感がした。
なので、壁紙を剥がして、床を裂けて黒いスプレーでカビっぽく塗装もした。
奥の部屋にいくと玄関の扉が開けられた音が聞こえたので、精一杯怪獣っぽい声を出した。
来客は部屋には入ってこずに、扉を閉めて立ち去った。
疲れたので自室に戻り、ぼくは眠りについた。
起きたら自室にいた。
なぜだろうまた来客がくる気がする。
慌ててぼくは赤いペンキをバケツいっぱいに床と壁にぶちまけた。
部屋の奥の扉を開けて玄関から見えるようにした。
ロープを吊って首吊りをする。
けれど思ってたよりも苦しかったので、足を伸ばした。
足が思いの外伸びてしまって、ちょっと恥ずかしい。
玄関の扉が開く音がした。
来客は昨日と同じように特に入っては来ないで帰っていった。
今日も疲れた、と自室に戻って就寝した。
起きたら自室にいた。
また来客がくるらしい気がする。
今日は特に小道具もないので入ってきてほしくなかった。
けれどなにもしないのもあれなので、玄関の扉を開いて来客側のドアノブに液体のりをつけてやった。
ドアノブにノリをつけて扉を閉めた直後、足音がした。
来客だ。
玄関の扉が開かれそうになったので、ノブを反対方向へおもいっきり捻ってやった。
数回の攻防を勝ち抜き、なんとか来客は諦めたようだ。
覗き穴から見てやろうと見たら、来客はなんとなく腹を立てているような表情をしていた。
来客はそのまま振り返り、階段の方へと向かっていった。
ぼくも玄関の扉を開けて、外に出た。
来客とは違い、ぼくは右手の方へと向かって、エレベーターに乗った。
エレベーターには階数のボタンがなかった。しょうがないのでボタンを押して扉を閉めた。
すると勝手に動き出して、エレベーターは上階へと向かう。
ピンポンという小気味いい音を出して止まった先は、屋上であった。
屋上には君がいた。
ぼくを待っているようであった。
君と話して何かを懐かしむような仕草を二人でする。
そのまま二人で手を繋いで、屋上の縁に二人で足を運んだ。
そしてそこから、まるで飛び込み台からプールに自由落下で落ちるみたいに、二人でただ静かに重心を傾けてマンションから落ちた。
右手には君と繋いだ手の暖かさがある。けれど落下が進んでいくごとにその暖かさも次第に消え失せていき、眼前に見える地面が大きくぼくの目の前に映ってきた瞬間に、
目が覚めると自室にいた。
ここからは本当の現実の話だから、決して玄関から外には出ていないし、階段なんて降りてないけれど、でもまたこのままぼくが素直に階段に向かって下に降りていたら、もしかしたら夢と同じようなことを繰り返して、屋上の君に会えたのかもしれなかったのかななんて、今では思ってみたりしている。
今日も外は明るかった。
秋を運んでくる風が肌寒くていい香りだ。
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