うらぶれた小島で暮らし、そこに囚われ抜け出せないまま、それでもいつか海に出る事を夢見る青年・ジョナサン。そんなジョナサンが海の悪魔・デビー・ジョーンズと出会った事から大冒険が始まる――という、非常に楽しい海賊冒険譚です。
この物語は、主題となる大きな一つの物語(ストーリー)が、幾つもの様々な小話(エピソード)によって巧みに構成されており、ここが非常に特徴的で他には無い妙味に繋がっていると感じます。
まず様々な人物の口から語られる、おとぎ話のような小話が全て洒落ていて興味深く、そんな小話が後に伏線となって回収される事によって大きな物語が進行するという、この構造が小気味良く、お話を読み進めて行くと「ああ、あの時の話がここに繋がるから、こんな風になっているのか」という様な、パズルが組み合わさる様な快感があります。
作風はファンタジーであり、海に纏わる様々な怪異と関わりながら、機転と知恵、そして海の悪魔・デビーの力を借りて降り掛かる事件や困難を乗り越えるわけですが、その解決策も海賊的ながらなかなかにスマートで頷けるものがあります。
そして主要な登場人物たちも魅力的で男女問わず愛嬌があり、対立するとんでもない悪党ですら愛嬌が感じられる様な、その人物造形の豊かさも良いなと思う次第です。
語り口は穏やかで過剰な所も無く、かといって不足も感じさせず、ラム酒とライムが欲しくなる様な雰囲気の海賊物語、とても良いお話でした。