第一章

 朝は冷えた涙を乾燥させる。それを僕は心地良く感じるのだ。

 この涙の訳を僕は覚えていない。むかしむかしの遠い記憶。

 誤解しないで欲しいのは、記憶喪失ではないという事だ。もちろん病気も患っていない。

 だとすると、僕の体は単純なのかもしれない。都合の良いことだけを残す心。でも、それでいい。

 僕は起き上がり、近くのスマホを手に取る。画面には7:30という数字とメッセージが浮かんでいる。

 メッセージはエミのものだった。毎朝モーニングコールと称して送ってくる。内容はいつもと変わらず、

「起きてる?遅刻するよ」

 とだけ。なんの意味があるのか。僕の目覚ましは涙なのに。

 11月に入り、日に日に寒くなる。布団から出るのが億劫だ。

 高校二年生、一日の始まりは涙とエミのメッセージ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の涙と君の時間 一色美影 @mikageissiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ