ドラゴンに育てられた少女は最強になり、世界を旅するようです

@pucharo

第1話 ドラゴンと少女の出会い

 


 ―――――どんな世界でも食物連鎖の頂点に君臨するのは人間だ。


 人間、動物、魔物、ありとあらゆる生物が自らの生存のために戦い、食らい合う。色々な種族同士での戦いが繰り広げられる中、最終的には人間が食物連鎖の頂点に立っている。それが世界の理である。



 しかし、この世界では五千年もの間、人間ではない存在が頂点に立ってきた。

 人間ではない何か。空想の物語でしか登場しないであろう伝説の存在。


 ――――それはドラゴンだ。この世界では一体のドラゴンが食物連鎖の頂点であり、魔物、人間、その他の勢力の全てがそのドラゴンに敵うことはなかった。



 そのドラゴンは全長三十メートルに近い身体を持ち、その身体はまるで全身に宝石を纏っているかのように銀色に輝きを放つ。身体を覆う鱗は一枚一枚しっかり手入れがされており、一切の曇りが無い。その身体に太陽が当ればひと際輝いて見えることは間違いないだろう。頭には二本の大きな角があり、その角でさえ人間より大きいであろう。もちろんドラゴンであるからには空を飛ぶことも可能だ。優雅に空を飛ぶドラゴンの姿は一つの絵にもなるであろう、そんな美しさが容易に想像できる。


 人々はそのドラゴンの事を邪龍、神龍、銀龍、聖龍。と様々な呼び方をする。


 邪龍と呼ばれる根源は、そのドラゴンにより多くの人間が殺されたからだ。

人間は自分より強大な力を持つ者を見ると怯え、その勢力を排除しようとする。勢力の排除とは何か。つまりは討伐に値する。

 ちなみにだが、このドラゴンはむやみやたらに人間を殺してきたわけではない。人間を好きか嫌いかで言われれば好きなほうだ。だから、わざわざ人間を根絶やしにしてやろうと考えているわけではない。ただ、己の力量を把握せずに立ち向かってくる人間が嫌いなだけだ。しかし、そんなドラゴンの心情は知らずとして、人間は多くの者を連ねてドラゴンを討伐しようとした。

 勇者、賢者、戦士、聖騎士、大魔導士。その他にも多くの力ある人間がドラゴンを討伐しようと試みた。

 しかし、人間界で幾ら力がある者だとしてもこのドラゴンからすれば道端に転がる小石と何ら変わりはない。

 人間が放つ魔法は銀色のドラゴンのブレス一つですべて打ち消され、女神の加護を有する勇者の攻撃も、ドラゴンの身体には何一つとして効果が無かった。強大な力ある者の多くがドラゴンの前で無惨に塵と化した。

 この勇者や賢者達がドラゴンに殺されたという事実に人間は怯え、ドラゴンの事を憎み、ドラゴンの事を邪龍と呼ぶようになった。



 それに比べて神龍と呼ぶ人間も存在している。

 神龍と呼ばれる理由は多くあるが、やはり一番の理由はドラゴンが持つその強大な力だろう。魔物、人間、動物、ありとあらゆる者よりも強い力を持つ。その圧倒的な力の前に、人々は信仰心を抱いたのだ。


「神をも凌駕する力を持つ」「あのドラゴンは神が擬態したものだ」「頂点に立つ者を神と言わず何と言うのか」


 こうした人間の考えが、ドラゴンを神龍として呼ぶことになった根源だ。



 銀龍と呼ばれる理由はそのままで身体が銀色に輝くからだ。まるで宝石を身に纏っているかのような身体。一種の芸術だと言っても過言ではないほどの美しさを放つから銀龍と呼ばれる。



 聖龍と呼ばれる理由は定かではないが、昔から続く言い伝えでこのドラゴンは聖魔法が使えると言われており、怪我や流行り病などを治癒することが出来る。その聖魔法により昔、多くの人々が流行り病から救われたという言い伝えが人間界ではあるようだ。つまり銀色のドラゴンは聖なる加護を人間に齎すドラゴンだと思っている人間が聖龍と呼ぶのだ。



 しかし、人間が勝手に多くの呼び名で呼んでいるだけで、人間たちはドラゴンの本当の名前を未だ知らない。

「銀色の巨大なドラゴン」がこの世界で最強の存在であるということだけが人間に知れ渡っている事実だ。



 先ほども言ったが、このドラゴンは人間が嫌いなわけではない。むしろ好きなのだ。ただ自分に対して敵意を向けてくる人間が嫌いなだけである。己の力を理解できていない人間が、とても醜く愚かであるとドラゴンは感じていた。



 また、五千年という長い月日の中でドラゴンに触れ合おうとしてくる人間はいなかった。

 それもそのはず、余りにも強大な力を目の前に、交流を深めようとする人間が存在していなかったのだ。大昔に銀色のドラゴンを崇める宗教団体が生贄として人間を捧げようとしたらしいが、そういった信仰心を向けられることは銀色のドラゴンが嫌いなことであり、宗教団体は残酷な目にあったとか。



 ちなみに、この世界には銀色のドラゴンの他にもドラゴンが存在している。しかし、ドラゴンたるもの同族同士での馴れ合いは滅多に行わないし同族嫌悪と言えるほど争い合うものだ。銀色のドラゴンはドラゴンの中でも最強であり、多くのドラゴンを返り討ちにしてきた。同族であるため殺しはしないが、二度と歯向かわないように徹底的に討ちのめした。その結果、現在では銀色のドラゴンに戦いを挑むドラゴンは存在しなくなった。



 ――――そんな人とも同族のドラゴンとも触れ合うことのない孤独な銀色のドラゴンが住む山。その山は人里から大きく離れた場所にあり、周りは森や平原、山などがたくさん立ち並んでいる。ドラゴンが住む山の大きさは限りなく巨大で、周りの山よりも一回り以上の大きさを誇っている。ドラゴンはその巨大な山の頂点に大きな穴を空けており、その中を自らの住処としている。

 

 もしもその穴の中に人間が落ちてしまったのなら二度と地上に上がってくることは出来ないほどの大きく深い穴だ。それもそのはず、三十メートルもある身体を収めるためにはそれくらいの穴が必要になるからだ。


 この山の事を人は「還らずの森」と呼ぶ。そう呼ばれる由来は、この山は木が生い茂っているため山ではなく森に見えてしまうことと、この森に入れば最後。銀色のドラゴンに襲われ人里に帰ることが出来ず還らぬ人になってしまうという意味が込められている。


 この山の周りには村や街、国などは存在しておらず、もしもこの山に来るのであれば人の足なら三週間以上。どれだけ早い馬を使ったとしても一週間はかかるだろう。



 そしてこの山は完全に銀色のドラゴンの住処となっていて、魔物や肉食動物は存在しない。強大な力を持つドラゴンを前に魔物や肉食動物は逃げていったのだ。草食動物やその他のドラゴンの邪魔にならない生き物は、自分の身の安全をドラゴンに委ねているためか多数存在している。



 つまりこの山は完全に銀色のドラゴンの住処であり、大袈裟に言えば銀色のドラゴンの領地と言っていいほどの場所になっている。


 

 ――――現在の時刻は昼過ぎ。太陽が空の頂点を過ぎた辺りで、これから陽が沈んで行くのだろ。そんな中、銀色のドラゴンは山の中での異変に気付きその様子を見に来ていた。



 銀色のドラゴンは山の全体に自分の魔素を充満させている。これは一種の結界のようなものになっており、山に侵入してきた者がいた場合にはそれを検知してくれる役割を果たす。この結界は魔素を持っている者には必ず反応するようになっていて、魔素を持っている、凶暴な肉食動物、魔物、人間、ドラゴン、獣人、精霊、聖獣などはこの結界に反応してしまうことになる。



 その結界に揺らぎ。――――つまりは山への侵入者が現れたことに気付き様子を見に来たというわけだ。

 

 銀色のドラゴンはその結界の揺らぎがあった場所を目指して大きな身体を揺らしながら、目的地へと向かった。木々を幾つかなぎ倒しながら歩く。銀色のドラゴンが歩く度に揺れる大地。もし人間が近くに住んでいるのであれば地震が起きたのかと勘違いしてしまうかも知れないほどの振動が山全体に響き渡った。


 結界の揺らぎがあった場所は山の麓。木々が少なくなり、平地が広っている所だ。


 銀色のドラゴンが山を下ると、木々が少なくなってきたこともあり、銀色のドラゴンの身体には太陽の光が激しく当たっていた。その姿はひと際輝いて見え、どこか神秘さを感じられる姿であった。



『あの魔素の揺らぎ方は人間で間違いないだろう。はぁ…。また愚かな人間が我を殺しに来たのか。全くもって愚かで醜い者よ。しかし揺らぎが発生したが魔素の反応は人間にしては大きかった上に、あれから魔素の揺らぎがないのは不思議ではあるが』



 と銀色のドラゴンは小言を吐きながらも、その輝く大きな身体を揺らして目的地へ向かった。


 

 

 銀色のドラゴンが住処を出てから二十分は経った。歩みを止めた銀色のドラゴンは一点を食い入るかのように見つめ、そしてゆっくりと近づいて行った。



 銀色のドラゴンは、結界の揺らぎがあった山の麓にある一本の大きな木へと足を運んだ。その大きな木は周りが平原であるために異様に目立って見える。そんな大きな木の下に、木の籠に入れられた状態で気持ちよさそうに寝息を立てながら寝ている人間の赤子が居た。



 銀色のドラゴンはそれを見て大きな瞳を更に大きくさせ、酷く驚いた表情を見せた。何故なら、銀色のドラゴンは五千年という長い月日の中で初めて人間の赤子というものを見たからだ。それもそのはず、人間と交流する機会が無かったのだから人間の赤子を見ることなどあるわけがない。



 銀色のドラゴンは驚いた表情を見せながらも、赤子を起こさないようにゆっくりと顔を近づけて人間の赤子を観察していた。



『髪は赤色か。これは産まれて間もないのではなかろうか。性別は男か。いや女なのだろうか。わからぬ。大きさは我の指一本にも及ばぬほど小さいか。案外に人間の赤子というのは可愛い顔をして寝るものなのだな。しかし何故こんなところに人間の赤子がいるのだ。捨て子と言ったところなのか。この赤子の親は我にこの赤子をどうしろと言うのだ』



 幸いにもこの山には魔物や肉食動物は銀色のドラゴンのおかげで寄り付かない。ここに放置していたところで何かに喰われ殺されると言ったことは無いだろうが、放置するとなればこの赤子は絶対に死ぬだろう。何せ赤子なわけだ。自分で食事なんて出来るわけがない。赤子なら短い期間であれ食わずとなれば餓死してしまうことは目に見えている。



 ――――銀色のドラゴンはこの赤子をどうするか頭を悩ませた。このまま放置すれば赤子は死ぬであろう。しかし、この山には人間は存在しておらず、赤子の面倒を見る者は存在しない。つまり、銀色のドラゴンに残された選択肢は、赤子を放置し見殺しにするのか、住処の穴へ持って帰り自ら面倒を見るのかという二択になった。


 

『もし、この赤子を一番近い人が居る村へと届けるとしたとしても、我が飛んで行っても半日はかかるだろう。それに飛ぶのは案外疲れるものだしな。仮に我がこの赤子の面倒を見るとして、我は子育てなどしたことがないぞ。ましては人の子なんぞ、どう面倒を見れば良いかなどわからぬ。しかし、見殺しにするというのは寝つきが悪くなりそうなものだ。全く、これほど可愛い顔をして寝ておる赤子を捨てていくとは、本当に人間とはつくづく何を考えているかわからぬ生き物だ』

 


 やれやれ困ったものだな。と銀色のドラゴンは呟きながらも、手の爪を上手い具合に赤子が入っている木の籠の持ち手へと引っ掛け背中へと運んだ。



『善は急げとも言う。果たしてこの赤子を救い育てることが善なのかは知らぬが。それにしても人間の赤子というのはこれほど小さいものなのだな。まぁ人間があれだけ小さいのだから赤子が小さいことは当たり前か。しかし一体子育てには何が必要なのか。本来は嫌なのだがあいつを教えてもらうことにするかの』


 

 銀色のドラゴンはそう呟き、赤子を乗せた大きな身体を揺らしながらも住処である山の頂へと足を進めていった。その間、赤子は気持ちよさそうな顔で寝ており、まるで大きな揺れが寝やすいのではないかと思えるほどの寝顔を見せていた。

 


 銀色のドラゴンが住処へと帰る足取りは、赤子を起こさないようにと来る時よりもゆっくりだった。赤子を拾ってから一時間は経った頃、住処である穴の近くへと戻ってきた。



 銀色のドラゴンは住処へ着くと赤子を住処の中へ入れるのではなく、赤子を住処の近くにある木の下へ置いて自らは上空へと飛び立った。



 大きな身体を羽ばたかせ、高度を上げて行く。雲が近くなったところで高度を上げるのを辞めた。自分の住処である大きな山が小さく見えてしまうほどの高度で、銀色のドラゴンは<念話>を使いある者へ語り掛けた。



 “金色のドラゴンよ。緊急でお主の知恵を借りたい。我の住処の上空にて待っておる”



 <念話>は魔法であり、相手の脳内に直接語り掛ける魔法だ。術者の練度によって使用範囲などが変わってくる。下手な魔法使いであればその範囲は十メートルにも及ばないであろうが、熟練した術者であれば十キロ、いや百キロ以上は届くであろう。



 ――――銀色のドラゴンが<念話>を飛ばしてから三十分後。北の方角から大きな金色のドラゴンが翼を羽ばたかせて銀色のドラゴンのところへやってきた。ドラゴンの飛行速度なら三十分もあれば相当な距離を移動することが出来るであろう。



 金色のドラゴンが速度を落とし、銀色のドラゴンの近くへと寄ってくる。次第に一触即発が起きてしまいそうな距離で両者が上空にて対面する。金色のドラゴンは銀色のドラゴンに大きさでは勝らないものの、その大きさは全長二十メートルほどある。太陽に近い上空であるのも相まって、太陽の光が普段よりも近くで当たっている身体は、まるで黄金でも身に纏っているかのように神秘的だ。そして頭には一角の角がある。金色のドラゴンはその角が象徴であると言えるほどの迫力がある、一角龍であるのだ。


 

『よくぞ来てくれた。全知全能の金龍「ファフニール」よ。少しばかりお主の知恵を借りたいと思ってな』

『それは<念話>で聞いたわ。あんたが知恵を借りたいだって?また人間に何かされたのかい?破滅の銀龍「テューポーン」さんよ。もし人間へ報復するのであれば、あたしの知恵は貸せないよ。なんせあたしは人間の味方だからね。それともつまらないお願いかしら?わざわざ遠くからあたしを呼んでおいてつまらないことなら許さないよ』




 金龍の名前は「ファフニール」。全知全能であり、この世界の全てを知っていると言われているドラゴンだ。かれこれ四千年近くの時を生きており、古龍であると言えるドラゴンだ。人間のことから魔物、ドラゴン、妖精、神獣、神、他にも多くのことの真実を知っているのがファフニールである。そして人間のことが好きなこともあり、人間との交流もある。王国「ヴァルへイア」では金龍ファフニールは守護龍として扱われているほどだ。


 銀龍の名前は「テューポーン」。この龍に逆らったものは誰であれ還らぬ者となってしまうため、破滅の銀龍とも言われている。また、ドラゴンの中では滅龍と呼ぶものもいる。それはどんなドラゴンが戦いを挑んだところで勝負に勝つことが出来ないからだ。殺されることは無くても絶対に勝てないから滅龍と呼ばれている。


 

 この二頭は五百年前に一度戦ったことがあり、その時はテューポーンの勝利で戦いは終えている。その戦いを人間界では【金と銀の災害】と呼ぶ。何故なら、この二頭の戦いで多くの自然が破壊されたからだ。それこそファフニールが人間の味方であるため、人間に危害があったわけではないのだが、多くの山や森が更地や焼け野原となってしまったのだ。



『つまらぬことではない。人間のことで相談があってだな。人間好きのお主なら人間のことで知らぬことなどないであろう?』

『なんだい?もしかしてあなたが人間をそれなら助けるとかかい?まぁあなたに限ってそれは無いだろうけど。まぁいいわ。ほら、何が知りたいのよ。早く言いなさい。あたしに人間の事で教えられないことなんてないんだから』



 ファフニールは人間の事での相談だと知ると目を輝かせ、早く早くと言ってテューポーンを急かした。



『はぁ。お主は本当に人間が好きなのだな。まぁなんだ。あれだ。我も驚いているのだがな。その実はさっき我の山の麓で人間の赤子を拾ったのだ』

『あぁ。なんだ。あんたが人間の赤子を拾っただけ…か。んん…???……………は??』



 ファフニールは目を大きく開かせ、まるで顎が外れたのかと思えるほどの大きさで口を開けてあんぐりとしている。羽ばたかせている翼も心なしか動きが鈍くなっているように感じる。



『そこまで驚かなくてもいいだろう。我も困惑しておるのだ。我の結界に揺らぎがあったために確認をしに行ったら、山の麓の木の下に人間の赤子が捨てられておったのだ。それでどうしたものかと思ってだな。ここから人里までは遠いだろう?それなら我が面倒を見てやろうと思ってだな。しかし、我は人間の赤子などは勿論、ドラゴンの子も育てたことのない。そこでお主の知恵を借りたいと思ってだな』



 そんなに驚くことでもなかろうが。とテューポーンはファフニールを睨みつけながら言う。



『いやいやいや!!!驚くでしょうが!!!人間嫌いのあんたが?!人間の赤子を面倒見る?!馬鹿なんじゃないの?!いや、破壊しか出来ない脳筋の銀龍テューポーンは馬鹿なのは確かなんだけど。え?どうしたの?何か悪い物でも食べたの?』

『おい。言い過ぎだ。それ以上言うとまたその一角を折ってしまうぞ』

『それだけは辞めて!!あんたに折られてから新しく生え変わるまでに三百年はかかったんだから!!もう本当に勘弁してよね!』



 本当に短気で冗談も通じない野蛮なドラゴンなんだから。と呟きながらも自らの一角を手で覆い守るファフニール。


 

 五百年前の戦いの決着は、テューポーンがファフニールの角を折ったことによりファフニールが戦意喪失。もう戦えないわとファフニールが言ったためテューポーンの勝ちとなり、戦いはそこで終わった。ちなみにドラゴンの角は時間がかかるものの再生する。元の大きさまでとはいかないが、それでも生え変わることがわかっている。



『その件に関してはすまんかった。だが我はもうお主と戦う気はもない。それよりもどうだ。我にお主の知恵を貸してはくれぬか』



 赤子がそこで寝ておるから早く決めてくれ。とテューポーンは赤子が寝ている木の方角を指しながら言った。



『良いわよ。あたしの知恵をあなたに貸してあげる。その代わり条件が三つある。その条件を呑めないのであればあたしはあなたに知恵を貸すことは出来ない』


 

 まぁあんたにはこの条件は呑めないでしょうけど。と言いながらもファフニールは手の指を器用に三本突き立てて条件を提示した。



『まず条件一つ目。あたしがあなたに知恵を貸すのだから、これからあなたは人間を襲わないことを誓うこと。条件二つ目。その赤子をしっかりとした人間へと育て上げること。最後に条件三つ目。あたしに子育てを手伝わせること。この三つの条件を呑めないのであれば、あたしの知恵を貸すことは出来ない』

『――――あぁ。そんなことか。全然かまわん。むしろ我は人間が嫌いなわけでもないからな。我も子育てをするならしっかりとした人間へと育て上げたいものだ。それにお主も手伝ってくれるのか。それは心強い。是非とも頼もうではないか』



 そう言って、テューポーンは全ての条件を受け入れた。



 ファフニールはというとまさかテューポーンが条件を呑むとは思っていなかったのか、口をあんぐりと開けながら、あんた人間の事嫌いなんじゃなかったの。と呟いた。



『我は人間が嫌いなのではない。自らの力量を把握せずに戦いに挑んでくる愚かな人間が嫌いなだけだ。まぁお主が手伝ってくれると言うなら話は早い。善は急げと言う。<人化>を使用して赤子のところへ向かうぞ』



 テューポーンはそう言うと高度を下げながら身体を縮めていく。<人化>というのはドラゴンが人里に降りていく時によく使う魔法だ。決してドラゴンだけが使う魔法ではなく、他の魔物でも使う魔物は存在している。ドラゴンがそのままの姿で人里に降りて行くと、それはもう混乱の嵐となってしまうから<人化>は、ドラゴンにとって必須と言っても良いくらい重要な魔法だ。



 ファフニールはまだ口をあんぐりとあけて唖然としていたが、頭を横に振って我に返ってテューポーンの後を<人化>の魔法を使いながら追った。



 『ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!その子のママはあたしだからね!!!それに名前はあたしが付けるから!!それからそれから……』




 ファフニールは慌てて何かを言いながら。テューポーンはその言葉に対して鼻で笑いながらも相槌を打ち、二頭は<人化>を使い赤子のところへと向かっていった。



 赤子の事で言い合う二頭の<人化>したドラゴンの姿はまるで、人間の夫婦かのようにも見えた。

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