第2話 我が子は女の子だったようです
二頭が<人化>して上空から地上へと降りて行き赤子のところへ向かうと、赤子は目を覚ましており、つぶらな蒼い瞳で二頭のドラゴンの事をじっと見つめていた。
それに対してファフニールが近づいて行き、笑顔で赤子を抱きかかえて間近で観察をする。
「んーっと。この子生まれて三か月くらいじゃないかな。まだ一歳にはなってないだろうね。それに性別は女の子だね。後、目がとても綺麗。何この子。滅茶苦茶に可愛いじゃないの」
「だろう?我も可愛いとは思っていたがやっぱり女の子だったか。まぁ良い。それでこれからどうするのだ」
名前を決める前に住む場所をどうするかを決めないといけないわね。とファフニールは赤子をあやしながらも答えた。
「住む場所なら、大昔に人が使っていたであろう小屋が我の山の東の方にある。大きさも人間が三人は住めそうな大きさをしておったぞ」
あっちだ。と指を小屋のある方角を指さして言うテューポーン。
「いや、人間が三人も住めたらそれは小屋じゃ無くて家だと思うんだけど。とりあえずそこに移動しましょうか。こんなあなたの馬鹿デカい穴でこの子も暮らしたくないだろうし。というか小屋の手入れは大丈夫なの?家の劣化は放置しておけば激しいのよ」
「手入れは問題ない。我が暇な時に<人化>して手入れはしておる。後は料理器具や槍みたいな物もあった気がするぞ。しかしだな、我の完璧な住処を馬鹿にするのは少しばかり腹が立つぞ」
と、ファフニールを睨みつけるテューポーン。
すると赤子は自分が怒られているのかと勘違いしたのか、泣き始めてしまった。
「ほら、あんたが睨むから泣いちゃったじゃないの。大丈夫ですよ~。ママがついてますからね~」
いいから早く移動するわよ。と言って先に赤子を抱きかかえ、あやしながら歩き始めたファフニールをテューポーンが追いかける形で二人は小屋へと歩いて行った。
<人化>した二人の姿は、テューポーンが銀髪の青年であり、目は赤色だ。高身長でスタイルも良く、見るからにイケメンだという事がわかる。
ファフニールは、金髪の成人女性と言ったところだろうか。目は青色で、髪の毛は腰の辺りまで伸びており、少しばかりうねり髪の毛全体にうねりを効かせている。
<人化>は術者の意志によって特徴を変えることが出来る。しかし、細かい設定をするのには術者の魔法操作技術が問われる。大雑把な人間に似た形のものに変化することはほとんどのドラゴンに可能だが、二頭ほどのクオリティに仕上げるのは普通ならば難しい。つまり二頭はどちらとも魔法操作に長けているという事だ。
そんな美男子と美女が並んで歩いているわけだが、はたから見ればまさか世界最強の銀龍と全知全能を持つ金龍だとは誰も思わないであろう。
「まずミルクが無いでしょ。後オムツも必要か。後は暖かい布団と、私たちの食事と寝床も必要かな。問題が山積みじゃない。本当に急なんだから」
「仕方ないだろう。我も急な事で用意なんて何も出来ておらん。まぁお主なら簡単に必要なものは調達できるであろう?」
まぁ私にかかれば余裕だね。と笑みを浮かべながら自慢げな表情を浮かべるファフニール。
「あとね、気になることと言えばこの子が待つ魔素の量が異常なだけかな。明らかに人間の赤子が持っている量ではないよ。少なくとも平凡な魔導士が持つ魔素の量よりは遥かに多い」
「そうなのか?我からすれば人間の持つ魔素の量なんて全員同じように思えるのだが…」
その言葉の返しにファフニールは、はぁ…。これだから脳筋は。と呟いた。
「良い?人間で魔素が多いというのは直結して、魔導士の才能があるという事なんだからね。人間は身体が小さい分、魔物達よりも魔素の量が少ない。けどたまにこうやって、異常なまでに魔素を持っている人間が産まれてくるわけ。そういった人間が将来は、大魔導士や賢者として名を轟かせるんだから」
それにしてもこの子は異常かもしれないわね。と呟くファフニールにテューポーンがなるほど、と言って頷く。
「つまりは、その子は魔導士としての才能があるということだな?ならばあいつにも連絡しておいた方が良いかもしれぬな。あいつは確か、古代魔法やら禁術を使うことができたはずだ」
「いやいやいや、あんた馬鹿じゃないの?!古代魔法はまだしも、禁術はダメでしょうが。本当にあなたは考えが戦闘馬鹿なんだから。良い?禁術の使用は人間界では違法とされているの。だから禁術っていう名前が付いているってわけ。それをこの子に教えるって、犯罪者を生み出すのと変わりないじゃないの。それに言っておくけど、あたしはあいつの事苦手だからね」
本当に脳筋。信じられないんだから。と言いながらもファフニールたちは歩みを止めずに小屋へと足を進めていく。まるで痴話喧嘩のようなそんな言い合いがその間も繰り広げられていた。
――――二人が赤子について言い合っているうちに、目的地であるテューポーンが言う小屋という名の家に着いた。
木々に囲まれている中にポツンと一軒家が建っていた。小屋というにはやはり大きすぎるようだが、しっかりとした木造の家だ。少し木が痛んでいるところがあるようだが、それくらいは修理してしまえば問題ないだろう。
中に入ってみれば、テーブルが一つに椅子が4つ。それにキッチンもあるようだ。さすがにキッチンは使われていないために埃が被っているがその他はテューポーンの手入れが行き届いているためか、問題は無いように見える。家の壁には猟のために使っていたのであろう槍や網などが掛けられている。
「いやぁ…。これ絶対にあなたがこの山に住み着いたから逃げて行った人間の家でしょ。さすがに小屋というには大き過ぎるし。全く、この脳筋銀龍はどれだけ人に迷惑をかけてきたんだか」
呆れちゃうわ。とファフニールは言いながらも、せっせと抱きかかえていた赤子を木の籠に入れて次にしなければいけないことを考え始めた。
「とりあえず私は今から人里に降りて必要な物を買ってくるわ。まだ陽は落ちていないし、ギリギリお店もやっているでしょうし。日が変わる前までには戻れると思うけど、もし赤子に何か異常が見られたらすぐに<念話>で教えて欲しいの。人間の赤子は本当に弱いからね。すぐに死んじゃうの。一日ミルクを絶ってしまうだけでも危機なんだから。とりあえず急いで行ってくるわ」
「わかった。我に果たして子守りが出来るのかはわからぬが、とりあえずは全力を尽くしてみよう」
じゃあ行ってくるからね、泣かせないようにね。とファフニールは告げてドラゴンの姿に戻り、空を飛んで人里に向かっていった。
テューポーンはファフニールを見送ると、小屋に戻り籠に入った赤子をじっくりと見ていた。赤子はどうやら泣き止んでおり、泣き疲れたのか今はぐっすりと眠っている。
「それにしても人間の赤子は可愛いのだな。女の子だとわかったからには嫌われぬ父親になるためにも頑張らなくてはならぬな。我は子を持ったことが無いが、我が子に嫌われるのは多少なりとも落ち込んでしまいそうだ」
そう呟きながらも赤子を見つめるテューポーンの顔はとても柔らかい表情を浮かべていた。
―――――そしてこれからドラゴンによる子育て生活が始まる。
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