【閑話】バルの聞き取り調査
「おい、バル。お前ちょっと、関係者聴取してこいよ」
長い休暇が明けて久しぶりに避難所に出勤してきたら、突然イレギュラーな仕事だ。昨日まで新妻とイチャイチャしていたのに、いきなりの仕事モード。勘弁してほしい。
「はぁ……、何の関係者ですか?」
「あ?ああ、アキだよ、アキ。お前、親しかっただろ?」
意外な名前が出た。
聴取と言うからには犯罪関連かと思ったのだが、出てきた名前は糠漬け娘だ。
「アキ?アキの何を調べるんですか?」
「失踪した事情だよ」
「はぁっ!?」
……失踪!?なんだそれ!?
「うん?なんだ、お前知らなかったのか」
「いやいや、知らなかったもなにも……え?どういうことなんですか?」
……失踪?引っ越しじゃなくて?
その言い回しが不穏な印象を与える。
「ああ、家財一式残っていたからな。夜逃げのようだが金に困ってる様子はなかったって話だ。糠漬けなんかも残ってたらしいが、ありゃあもうダメだろうな。何があったのかねぇ」
「それ、いつの話ですか?」
「ん?いなくなったのに気付いたのが3日前だな。5日前にザルトが会ったのが最後らしい」
……5日前じゃあ、もう領都にはいないだろうな。
「わかりました。関係者に当たってみます。あ、巡回はお願いしますね!」
「えっ?ちょっ、おい……」
オレは、当番に巡回を頼むと避難所を飛び出した。
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トモルの心証
「輪番で来たところしか知りませんが……アキという娘はとにかく好奇心旺盛なようですな」
突然、アキのことを聞きに来たという警邏の青年を居間に通して、私はアキのことを思い出していた。たしか、真っ黒い髪に灰色の瞳の可愛らしい少女だった。
私自身はまとめ役として屋敷に残るのでそれほど接点はなかったが、田んぼに出ていく息子や妻の話には頻繁に出ていたので、名前は知っている。妻はアキのことを糠漬け仲間だと言っていた。
「息子などは頭を抱えておりましたが、妻はいっそ楽しそうでしたよ。まぁ、二人とも最終的にはおもしろい子だという話で終わっていたので、悪い子ではないんでしょうな」
初めての農作業に来て、田んぼの手伝いをほったらかして虫を捕まえたり泥遊びをしたりしていたらしい。
妻に連れて来られて風呂に入れられながら、悪びれもせずに、虫の足が何本だっただとか、どこの土が固まりやすかったかなどを興奮気味に妻に語って聞かせたらしい。
「息子などは、時々来るだけだからおもしろいと思えるが、日々あの子に振り回されるダンには同情すると漏らしていましたよ」
たしか、一度、妻に頼まれてブランを届けたことがあった。避難所に持って行っただけだが、あれも、妻が言った「やってみるか」の一言で始まったことだという。
「糠漬けで商売をしていると聞いていますよ。小さい体でずいぶん行動的だ。だがたしかに、保護者は振り回されて大変でしょうな」
想像したら、気の毒ながら笑いが込み上げてくる。なんともほのぼのとした話だ。
そういえば、以前アキからお裾分けしてもらったという糠漬けは、ずいぶん変わったものだった。美味かったので、また食べたいとは思うのだが、ああいう具合に次々と何かを始めるのだろう。他人から見れば愉快だが、保護者から見れば目が離せないに違いない。
「いやぁ、次に糠漬けが食べられるのが楽しみですよ。また変わったものを漬けるのでしょうな」
その後、実はダンとアキが失踪したのだと警邏の者に聞かされて、驚くと同時に納得するものがあった。あの好奇心旺盛で変わった娘だ。ダンも穀倉領には珍しい腕利きの神呪師だったという。しかも、親子ではない。ああいう者達は、平凡な一生を送ることなどないのだろう。
私は、自らと自らの家族の、農夫としての平凡な人生を思い、ホッと安堵した。
ゾーラの心証
アキが失踪したと聞かされて、ホフが何故か勝ち誇ったような顔をした。
「だから言ったんだ。あの親子はおかしいって」
「兄さん……」
「だいたい、腕のいい神呪師が補佐領に来るなんて訳ありに決まってる。あの娘だって得体が知れなかったじゃないか」
タトラの嫁入りの話が持ち上がった時、ホフは真っ先に反対した。もっとも、それまで他の相手との話が持ち上がった時も同じように反対していたのだから、ホフが慧眼だというわけではない。いったい誰に似たんだか。
「アキちゃんはいい子だったわ」
「どこがだよ」
「素直で好奇心旺盛で、いつも一生懸命だったじゃない」
亭主を亡くしてからというもの、あたしも忙しくてタトラの嫁入りのことを考える余裕がなかった。タトラもそれを分かってるから、自分からは何も言わない。正直、ダンがいてくれて良かったと思ったものだ。上手くいくと思ったんだが。
タトラは、ダンとの結婚なら構わないと言っていた。ダンのこともそうだが、アキのことをとても気に入っているようだった。まぁ、このあたしが気に入るんだから当然さね。
あの子は様々物を変わり種として漬けてみていた。今まで見たことがないものを思いつく発想力と、実際にやってみる行動力。是非、うちに欲しい人材だ。ホフにそれがあれば良かったんだがねぇ……。
「……漬物を漬けてただけじゃねぇか」
「7歳の女の子が、ただのお遊びであんなにいろいろと挑戦できると思う?糠漬けって手がかかるのよ。楽しいおもしろいだけで子どもが何ヶ月も続かないわ」
始めは子どもの遊びに軽く付き合うくらいのつもりだった。ちょっと訳ありな子だということは、宿の女将から聞いていたのだ。もっとも、訳というのもあの子の内面的なことで、失踪するような事態を想像させるものじゃなかった。
「最初はダンには秘密でやってたんだよ。手伝いは」
「あ?」
「糠漬けを作るにも、必要なものがあるだろう?ブランやら壺やら。ダンにねだらなきゃならないから、仕事がはっきりするまでは増やせないと言っていたんだ」
ホフは、アキがあたしに近づいたのは養父の差し金だと言っていたが、それは違うだろう。時々フッと見せる、大人びた表情を思い出す。
「……アキは、ダンに迷惑をかけずにすむ道を探していたんだよ」
恐らく、ダンが結婚した時に邪魔にならないようにという無意識の不安だ。
「アキは自分が小さいことも何もできないことも自覚してた。もしダンが結婚して自分のことを邪魔に思うようなことがあったらと、いつも無意識に怯えていたんだろうさ。一人で生きていける道を探していたんだ」
ホフが驚いた顔をしている。何か心当たりでもあったのだろうか。
「だが、それはダンも気付いていたよ。アキを不安にさせるから、結婚の話や戸籍の話はアキにはしてくれるなと言われた。あの二人が揃って失踪したんなら、それが一番アキのためだったんだろうさ」
あたしは、あの二人が一緒に食事をしに来たところを何度も見ているんだ。だから断言できる。
「警邏の旦那。ダンを疑おうってんならお門違いだ。ダンはね、絶対にアキを守り切る覚悟だよ」
ザルトの心証
……アキがいなくなった。
オレはたぶん、その原因を知っている。
「ダンは宿屋の女将からの紹介だったんだ。だが、女将は関係ねぇ。オレはな、ダン自身が気に入ったんだ」
父さんがバルさんに言う。
「あいつはイイ面構えをしてた。何かを覚悟してる顔だと思ったんだよ。そういう男が仕事を探してるっていうんだ。男として手伝ってやりてぇと思うじゃねぇか」
ダンさんを紹介された父さんは、紹介状もないのにあっさり契約を決めてきた。工房には既に契約してる神呪師がいるというのにだ。父さんは案外気難しい。その父さんがすぐに心を許したんだからイイ人だろうと、無条件に思った。
「連れてた娘がまたなぁ。今でこそ元気になったが……なぁ?」
父さんがオレの方を見る。
「暗ーく沈んだ表情で、始終俯いてるんだ。何を話しかけてもうんともすんとも言わねぇ。頷くどころかこちらに目を向けることもねぇんだ。ありゃあ、ダンが大変だろうと思ってなぁ」
アキに初めて会った時、正直、死人なのかと思った。
何を話しかけても、全く何の反応もしない。時々瞬きするのが、俯いた前髪の奥に見えて、それで生きているんだと判断したくらいだ。とても放っておけなかった。
その頃はまだ9歳で、仕事は始まっていなかった。それまでは、弟妹を連れて遊びに出たり、家の手伝いをしたりと、特に何も考えずに過ごしていたが、アキと出会ってそれが一変した。
毎日アキの家に行って世話をする。放っておくと食事も取らないので、家で余ったものを持って行ったり、その場で作ったりした。オレはアキの世話をするようになってから、格段に家事の腕前が上がった。
アキの状態を毎日父さんと母さんに話す。何の反応も返さない相手に、疲れてもう止めようと思ったこともあった。でも、父さんも母さんも、とりあえず家に行くだけは行けと言う。オレも、疲れはしても、やっぱり気になって様子を見に行った。玄関からチラッと覗いて帰るだけの日が続いたこともあった。
そんな時、たまたまアキの家の塩がなくなって、その場で塩石から塩を作ったことがあった。
砂糖石と塩石は、石として売られている段階ではどっちがどっちか分からない。一山いくらで売ってあるものだ。
オレが石をセットして塩動具を作動させると、一瞬わずかに煙が上がって、石ごと消えてしまった。砂糖石だったのだ。その時、
「砂糖動具に塩石を入れた時と、塩動具に砂糖石を入れた時で、どうして反応が違うんだろう?」
…………ビビった。
今まで、アキの家に行ってもオレがしゃべったり動いたりする音以外、何の音もしない家だったのだ。そこに突然、横でボソッと低い呟きが聞こえた時のオレの驚き、分かるだろう?
アキがいつの間にか横にいて、オレが失敗した塩動具をじっと見つめていた。
……怖えぇよ!
「お前も手伝えよ」
オレは内心ビクビクしながらアキに話しかけた。もちろん、オドオドしたりしない。堂々とした態度だ。
アキはコクンと頷いて、塩を作り始めた。それが最初の意思疎通だった。
アキは動具に執着した。そこから掘り下げていくと、やたら神呪に詳しいことが分かった。
動具を使わせると反応が返ってくる。神呪の話を振ると俯いたまま小さく答える。そうやって、オレはアキから声を引き出していった。
アキがオレの目を見て反応を返すようになった時、初めて会ってから、3ヶ月が経っていた。
……アキもダンさんも、いなくなった。
原因は、たぶん、あの真っ暗になる神呪だ。
あの時、暗闇に包まれた瞬間、予感がした。何かが動き出した気がした。たぶんそれは、オレじゃなくてアキだと思った。分かった。
アキはオレを捨てたわけじゃない。
アキは何かの運命を背負ってるんだ。だから、オレは何も言わない。あの神呪のせいで逃げなければならなくなったのなら、きっと誰にも言わない方がアキのためだろう。
……オレはオレにできる方法で、アキを守るよ。アキはオレの妹なんだから。
セインの心証
「アキさんですか……申し訳ありませんが、私はただ案内を仰せつかっていただけですので、詳しいことは何も……」
アキさんは、アーシュ様のお客人でした。アーシュ様は店主の甥にあたる方で、普段は、ご領主様のご子息であられるナリタカ様の従者として、共に王都にお住まいになっておられます。
この度のナリタカ様のご帰還に際しては、別働で領都で聞き込みをするからということで、敢えてお城ではなく当店で起居することになさったそうです。
元々、ナリタカ様の従者になられる前は、当店で薬剤師の勉強をなさっておられたので、店内の者もほとんどが見知ったものです。アーシュ様も存分に羽を伸ばしておられるように見受けられました。
その筆頭が、アキさんとの共同開発でしょう。
共同開発と申しましても、それほど大規模なものでありませんし、アキさんがまだ小さくてなかなかこちらへ出向くことができないので、実験のほとんどはアーシュ様が行っていたようでした。ですが、時々来ては鋭い指摘をするアキさんを、アーシュ様は大層気に入っておられたようです。かくいう私も、アキさんには、他のお子さんとは違うものを感じておりました。
まず、あの目。私は役目柄、店内にいる時には店内の全てが目に入るような位置に立っております。当然、ドアが開けばすぐに目に留まります。
アキさんは、店に入ってきた瞬間に、目線だけでザっと店内を見渡していました。左から右へ、下から上へ、それこそ、店内全てをその一瞬で把握しようとしているようでした。その視線の強さに息を呑むと共に、その強い視線が一瞬にして掻き消え、少年と一緒におどおどした様子に切り替わるのにゾクリとしました。まるで人格が一瞬で入れ替わったように感じて、少し鳥肌が立ったほどです。
それに、所作。別に良家の御令嬢のごとく優美に躾けられているというわけではありません。ただ、一つ一つの仕草が丁寧なのです。ドアを開ける仕草、椅子に座る仕草、お茶を手に取る仕草。
たったそれだけのことですが、共にやってくる少年と隣り合って座っていると、自然とその丁寧さに目が行きます。恐らく、生活を共にする者の所作が丁寧なのでしょう。自然に身に付いたように見えるので、亡くなったというご両親の影響も大きいのではないでしょうか。
アーシュ様が女児を気に入ることは稀ですが、その見る目の確かさは、当店の店員によってすでに実証されています。私はすぐに、アキさんを当店で育てる方向で調整を始めました。まだ7歳とのことでしたので、これからじっくり育てれば、将来は優秀な薬剤師として当店に寄与してくれたことでしょう。薬剤師には女性が少ないので、女性用の商品開発など大いに期待していたのです。店主にも、手伝いを一人入れることを既に許可頂いておりました。
「ただ、アキさんがお土産に持って来てくれる糠漬けを、店主が殊の外気に入っておりましたので、それがなくなるのは残念ですね」
私が軽くため息を吐くのに強く同意して、警邏の青年は帰って行きました。
「セインさん、子どもが来ているのですが……」
用心棒として普段ドア脇に詰めているサラルがそう声をかけてきたのは、それからい半月ほど経った日の閉店後、後の3の鐘が鳴った直後のことでした。サラルは、厳つい見た目に反して子ども好きのようで、アキさんやザルトさんにも気さくに声をかけていました。そのサラルが「子ども」と表現するのは、ここ最近ではアキさんかザルトさんくらいです。
私が店内に戻ると、予想通り、ザルトさんがドアの前に立っていました。思いつめた表情で、ギュッと握った拳を体の脇にピタリと付けて直立しています。
「ザルトさん、どうしました?」
なにか、アキさんの情報を手に入れられるのであれば幸いですね。
「セインさん、お願いがあるんです」
俯いていた顔をクッと上げて、強い意志のこもった目でじっと見つめてきます。
「オレを、ガルス薬剤店の手伝いに雇ってください!」
そう言って、ザルトさんはガバッと頭を下げてきました。
「……理由を聞いても?」
ザルトさんの申し出は、予想外のことでした。たしか、父親が工房を持っているはずです。当然、その工房を継ぐものだと思っていました。恐らく、周囲の認識も同じでしょう。
「……アキは、何か大きなものを抱えているんだと思うんです」
ザルトさんも、アキさんには何かを感じていたようです。長く一緒にいたようなので、私などよりよほどアキさんの特異性が見えていたのでしょう。
「オレはアキみたいな才能なんかもないし、何もできないけど……将来、アキに何か助けが必要になった時に、今度こそ手を貸してやれるようになっていたいんです」
今度こそ、というからには、やはり何か知っているのでしょうか。
「ガルス薬剤店は大店で、王都とか他領にも繋がりがあるって聞きました。アキはたぶん、もう穀倉領には戻らないと思います。だからオレは、必要な時にいつでも外に出られるようになっていたい」
動機が不純です。正直言って、当店に入らなかったアキさんのためと言われても、当店には何の利もありません。しかも、いざとなれば店を捨てて出ていくかもしれないという風にもとれる発言です。
「あなたはもう12歳です。薬剤師として学ぶにはずいぶん遅い」
薬剤師には、基本的に薬剤師の子がなります。小さい時から薬剤師に囲まれて育ち、その会話の中などから、自然と知識が身に付いている。この差を埋めるのは至難の業です。
「3年以内に必ず身に付けます」
「店に出ることもあるので、薬剤の知識だけではなく、所作や接客も身に付けなければなりません」
アキさんと違って、ザルトさんは粗野です。アキさんに指摘されるまで、菓子も手づかみで食べようとしていました。恐らく、生活の仕方そのものが大きく違うでしょう。
「努力します」
「3年後、試験に合格する見込みがなければ、雇うことはできないと放り出すことになります」
薬剤師になるには資格が必要です。資格を得るためには試験に合格する必要があるのですが、普通、その試験の受験料は店が負担します。合格する見込みがないと判断されれば、試験を受けるまでもなく解雇となります。成人してから新しい仕事に就くと言うのは余程のことがなければ難しいでしょう。12歳から成人までの3年間は、決して簡単に棒に振って良い時間ではありません。
「……覚悟しています。両親にも、ちゃんと話しました」
絶対に合格する、とは言わない辺り、きちんと現実を認識した上で申し出ているのでしょう。そういえば、アキさんと来始めた当初は右も左も分からない様子でしたが、何度か来るうちに実験器具も違和感なく使うようになっていました。無口な方ですが考え無しではなさそうです。
店主には、一人手伝いを入れるとしか伝えておりませんし、そもそも店内の采配は私に一任されております。アーシュ様はまだアキさんのことが気にかかっておられるようですし、アキさんとの繋がりを考えれば、試しに入れてみても良いかもしれません。
「では、ザルト、服のサイズを測らなければなりません。いつから来れますか?」
「いつでも来ます!」
ザルトがパッと顔を輝かせてハキハキと答えます。この少年が今後どのような人生を送るのか、少し楽しみですね。
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領主様の命で、近隣の町に遣いに出ていたオジルさんが半月ぶりに戻ってきたのは、オレが避難所に戻った直後だった。
「……というわけで、結局さっぱり分からなかったんですよね」
「うーん……あの二人に特に不審な様子はなかったがなぁ」
「ですよね。でも、家に行ってみたんですけど、キレイに片付いてて、何かに巻き込まれたって感じでもなくて……」
「5日前か……特に通報なんかもないな」
5日前の日報を前に、オレとオジルさんが頭を捻って唸っていると、奥からジラグが欠伸をしながら出てきた。昨日は夜勤だったようだ。
「ふぁ~ぁ……。んん……?5日前の日誌?」
「ああ。なんか、不審なこととかなかったか?」
日誌にはジラグの名前も書いてある。巡回に出ていたはずだ。
「……ん~?いやぁ?あ。そういや、住人から変な話聞いたのって5日前のことなんじゃねぇか?なぁ、ビル」
「ああ?ああ、そうかもな」
「変な話?何の話だ?」
オレは一瞬オジルさんと顔を見合わせて、ビルに詰め寄る。そんな話は引き継がれていなかったはずだ。
「え?え?……あー、えっと。大した話じゃないんですけどね?……たしか4日前の巡回で、職人街の住人が、前の日の夕方くらいに一瞬真っ暗になったって言ってきたんスよ。境光が落ちるのとは違って、一瞬で全く何も見えないくらいの暗闇になって、すぐに元に戻ったって……」
……いや、意味が分からない。なんだ?それ。
オジルさんも眉をひそめて首を捻っている。今まで聞いたことがない話だ。
「いや、オレもよく分からなかったんスけどね。でも、あの日他にも何人かから聞いたんスよね」
「あ、それ、オレも言われましたよ。すぐ戻ったからいいけど、なんなんだって。イヤ、オレらに言われてもって感じですよねぇ」
聞いてみると、他にも何人か同じ証言を聞いていることが分かった。
「神呪師組合がなんか研究してんでしょ?それ関係なんじゃないか?」
誰かが何気なく言ったその一言に、オジルさんがハッと顔を上げた。
呆然とした顔で「まさか……」と呟いている。
「……オジルさん?」
オレの呼びかけに、バッとこっちを振り返ったオジルさんは、心なしか青ざめた顔で、「報告に行く!」と叫ぶなり、猛然と駆け出して行った。
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