第18話 怪人との死闘の後

 愛理もそうだがその場にいる全員やテレビ中継を見ている視聴者、そしてレポータなど多くの人々がその異様な光景に恐怖を感じていた。


「な……なんなの……黒い霧が……黒い霧が集まって……」


 人型の怪人を突如現れた黒い霧が包み込むと、その霧の中から骨が折れる音や肉が引き裂かれる音が聞こえ始めていた。愛理はその音を聞いて、直感的に危険だと感じ取って長剣を手に黒い霧を切り裂こうとした。


「これで終わって!」


 しかし黒い霧に長剣が触れた瞬間、黒い霧が弾け飛んだ衝撃で愛理は吹き飛んでしまった。愛理はすぐに起き上がると、長剣を構えて戦闘態勢を整えることにした。


「弾け飛んだ!? 一体何が起こるの!?」


 黒い霧が晴れた場所に立っていたのは、先ほどの人型の怪人とはまるで違っていた。まるで人間の成人男性と思えるほどに肉付きが変わり、顔がはっきりと表れて髪も生えていた、だがその左腕は愛理に切り落とされたままであった。


「この姿は……お前たち人間と同じ姿か……」

「言葉をはっきり喋ってる……それに体格や顔も違う……」


 片言ではなくなった人型の怪人は、空を見上げて余計なことをと呟いていた。そして、失った左腕の切断面を撫でていると、お前の顔が今はっきりと見えるぞと愛理に話しかけた。


「お前はそんな顔をしていたんだな。 ハッキリと見えるぞ。 お前の怯えた顔や震えている体がよく見えるぞ」

「顔がハッキリ……今まではハッキリと見えていなかったの!? それであの戦いを……」


 愛理は人間に変化をした元人型の怪人の姿をよく見ることにした。その体は筋骨隆々となり、身長は愛理より十五センチ高いようであった。そしてなぜか服も着ており、薄い茶色のシャツと薄い青色のズボンを履いていた。


「これは動きやすい体になった……さっきまでとは大違いに気分が良い……」


 目の前にいる人間に変化をした人型の怪人は、頭部に生えたショートヘアの頭髪を掻きながらに人間の体は煩わしい部分もあるんだなと言う。


「傷口は痛むし体はむず痒いし、お前達はこんな体で俺達と戦っていたのか。 矮小で小さくて弱い生命体がよく粋がっていたな!」


 人間に変化をした人型の怪人はその場にいる愛理達を突然指さして叫んだ。そして、口を静かに開いて一言発する。


「俺達は、お前達人類を殲滅することにする」


 その言葉を聞いた愛理や特殊魔法部隊の人達は、驚いた顔をしていた。


「殲滅……だと……!?」


 特殊魔法部隊の隊長が殲滅をするだとと驚いていると、元人型の怪人が人間になったのだから名前が必要だなと呟いていた。そして、元人型の怪人は俺のことはこれからシンと呼べと言い放つ。

「今日から俺の名前はシンだ! 俺のことはシンと呼べ!」


 シンはお前達日本人の言葉で言うカタカナでシンだぞと名前のことを言う。


「なんでシンなのよ! 突然名前を言うなんて!?」


 愛理は元人型の怪人に対して本当にさっきまでと同一人物なのかと話すと、今は違う種類だと返した。


「違う種類? どういうことよ!  怪物には多数の種類がいるの!?」


 愛理は少しでも情報を聞き出そうとするも、その思惑は見透かされてしまっていた。


「何かを聞き出そうとしても無駄だ。 俺から話せることは一つだけだ」


 そう言い右手の人差し指を空に向け、空の上の創造主からの命令でお前達人間を殲滅することだけだと言った。


「俺はある命令によってお前達人類を殲滅するだけだ」

「殲滅とか、創造主ってなによ! 勝ってに殲滅だなんて決めないで!」


 愛理がそう叫ぶと、シンはその創造主はお前達人間の創造主でもあると言った。


「どういう意味なの……」

「どうって、創造主でもある。 ただそれだけだ」

 

 愛理が困惑していると、遠くにいる葵がそんなこと関係ないと叫んでいた。


「私達は私達です! 創造主だから勝手に創造して、勝手に殲滅していいの!?」

「俺が知るわけなかろうに。 創造主に聞いてみるといいさ」


 葵が思ったことを叫ぶも、シンは創造主に聞けとしか言わなかった。


「そう……でも、それでも私は抗うわ! 大切な友達との笑える毎日のために!」

「私だってそうよ! 友達や家族との楽しい毎日のために戦うわ!」


 葵と愛理がシンを見ながら言うと、せいぜい抗ってみせろと言ってシンは背後に現れた白い扉を開けてその場から消えた。


「白い扉に入って扉ごと消えた……」

「怪物は消えたの?」


 シンが消えたことにより残された怪物は共に現れた怪物一体だけになったが、既にその怪物は倒されていた。教師達と特殊魔法部隊によって愛理達が戦っている間に倒されていたようである。


 現れた怪物が消えたからか、その場の緊張感が解けたようで愛理はその場に力なく倒れてしまった。愛理が倒れたのを見た葵はすぐに駆け寄って愛理を抱いた。そして、そのまま誰か救急車を呼んでくださいと叫んだ。


「愛理が! 誰か助けてください!」


 その声を聞いた一人の教師がスマートフォンによって救急車を呼ぶも、戦闘の余波で周囲の道路が瓦礫によって塞がれていて先ほどから迎えていないと言われてしまう。


「呼ぶ前に救急車が動いていたが、戦闘の余波で周囲が壊れていて道路が使えなくて来れないらしい!」

「誰か救急車の通り道を作りましょう! 早く!」


 誰かがそう叫ぶも、全員何かしらの怪我を負っていてすぐには動けそうにない様子であった。葵は愛理を抱きながら落ち着いて周囲を見てみると、学校の体育館や側にある駅や道路、線路を走る電車が壊れているのが見えた。戦っている時には気が付かなかったが自分達が怪物と戦ったことで起きた二次被害だと悟ると、ここまで大規模な戦闘が市街地で起こった場合の被害が膨大だと感じた。


「私達が戦ったことで……ここまで被害が発生したとでもいうの……」

「怪物との戦う際には気を付けることだ。 周囲のことを考えて戦わないと二次被害が発生してしまうんだ」


 葵の側に寄ってきた特殊魔法部隊の隊長が、そう告げる。葵はその言葉を聞いて周りを見て戦闘をするようにしますと返すしかなかった。すると、隊長は葵の頭に右手を置いて若いお前達が戦わないようにするのが俺達の仕事だから、仕事を奪わないでくれと笑いながら言ってきた。


「俺達は一般人を怪物の脅威から守ることだ。 そんなに気負わなくていいぞ」


 隊長と葵が話していると、特殊魔法部隊の隊員達が総出で瓦礫をどかして数台の救急車を星空魔法学院に導くことが出来ていた。


「よし、救急車が来たぞ! 一番重症な黒羽愛理君から乗せていけ! その次にこの学院の校長だ!」


 隊長が傷を押しながら隊員達に指示を行っていく。その指示を隊員たちは迅速に遂行をしていき、負傷者や生徒たちを順々に病院に連れていく。その場にいた生徒達は人数が多いので、歩ける生徒や教職員達は徒歩で指定された病院に振り分けられていく。


 愛理が救急車に乗せられると、それに続いて葵も乗りますと言って一緒に救急車に乗車した。その時に、特殊魔法部隊の隊長が特殊魔法部隊員が使用をしている病院に連れて行ってくれと救急隊員に告げる。


「よろしく頼むぞ」


 そう言い、特殊魔法部隊の隊長はその場を離れて指揮に戻っていく。テレビカメラもその様子を戦闘終了後も生中継し続けており、カメラマンの側にいるレポーターは愛理や負傷者の様子を話し続けていた。主に愛理の傷の深さや、喋っていたことを視聴者に伝えているようである。 愛理が乗せられた救急車は、指定された病院に向かっていた。 葵は時折呻き声をあげている姿の愛理を見ると、手を握ったり額の汗をハンカチで拭いている。


「頑張って愛理! もうすぐ病院に到着するよ!」


 愛理の手を両手で握って、何度も私がついているからねと言っている。 その様子を見ていた救急隊員は、仲が良いなと感じていた。


「そろそろ到着するので、気を付けてください」


 救急隊員に言われた通り、言われてから数分後に指定された病院に到着した。 病院の入り口に停車すると、既にそこには医師や看護師が数人待機しており、救急車から担架に乗せられた愛理を見た。ありがとうと医師の一人が呟きながら絶対助けるぞと声を上げていたようである。その声を聞いた医師や看護師は、助けましょうと声を合わせて言っていた。その様子を見た葵は、愛理ちゃんは凄いなと一人呟いていた。


「愛理ちゃんの頑張りがあったから死人は出なかったし、ここまで医師の人達が愛理ちゃんのために必死で助けようとしているよ」


 葵は少し遅れながらも、病院の中に入っていく。愛理と葵が到着した病院は、特殊魔法部隊や国防に関わる仕事に就いている人達専用の国営病院であった。

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