第11話:第1章-8

「……は?」

 ほうけた声が出た。各属性宝珠と言えば、魔法ばいかいの素材としてちよう一級品。魔法をあつかう者であれば、しようがいで一度は手にしたい、と思うたぐいしろものだ。

 ていこく西方で発見されて以来、二百年近くつもいまとうされていない、ローグランドの次元めいきゆう──つうしよう『大迷宮』をかかえている迷都ラビリヤ産のそれが名高いが、入手はきわめて困難だと聞いている。

 何しろ階層の主をとうばつしないといけないのだ。

 その強さはりゆうほどではないにせよ、上位冒険者のみで構成されたパーティが複数組集まっても苦戦すると聞く。

 それ以外の入手方法は、特級以上の龍か悪魔を討伐。つまり、まず無理だ。

 ただし──希少な分、効果は極めて絶大。

 宝珠を組み込んだ武具は、属性に応じて大きな魔力とたいせいが得られ、著名なぼうけん者や、、魔法使いの装備品にはたいていこれが使用されているらしい。

 めいで年に二、三度出品された際こっちでも話題になるくらいだし、取引額は最低でも金貨数千枚。私は、ギルドの報告書をよく読んでる方だと思うけど、ここ最近、競売にもかけられていないはずだ。

 つまり──この宝珠が本物だとするならば、ギルドを通さず、ソロ、もしくはパーティ、クランが直接送って来た、ということになる。

 そんな物を平然と? しかも、さっき自分が運んできた箱の中に?

 ……にせものの可能性が高いわね。

 青年が笑い、宝珠だというそれをわたしてきた。

「あ、信じてないね。直接、手に取ってごらんよ」

「ち、ちょっと」

 私はあわてて両手で受け止める。

 圧縮された恐ろしく強い炎属性。も、もしかして本物?

 それにしても、本当にれい……。

 宝珠の人気はあつとう的な効果とその美しさにある、と聞いてはいたけど、なつとくする。

 ──ひとしきりながめていると、何時の間にか青年が三本の棒を持って横に立っていた。

 それぞれ材質がちがうように見える。

「納得したかな?」

「……確かに本物みたいね。だけど、こんな貴重な物を送ってくるなんて、何者なのよ」

「さっきも言ったけど、昔後押しした子達がりちに送ってくるんだ。みんな、立派になってくれてね。今回は僕の失敗なんだけど」

「失敗?」

「この前、王都を久しぶりに訪ねた時、話しちゃったんだよ。『炎と水の宝珠を探しているんだ』って。今度、お返しをしておかないと」

 ……もう、訳が分からないわ。

 こいつの話はおおむね事実らしい。

 だけど、付き合っていたら私の中の常識が音を立ててこわれるばっかり──

「さて、これを見てくれるかな?」

 青年が、こちらに持ってきた三本の棒を見せてきた。……今度はなんなのよ。

 一つは木製。内部に光がまたたいているように見える。

 やや短い二本目は、灰色。何かの骨??

 そして、三本目は明らかに金属。けれど、すごい魔力を感じる。

 それぞれのせんたんには、何かをはめ込むためなのだろう、数ヶ所、穴があいている。

 数えてみると七ヶ所。どうやら、つえの試作品らしい。

 くろかみの青年が聞いてきた。

「どれが良いと思う? 直感で選んでおくれ」

「──木ね」

「ふむ。りようかい

 そう言うと、くうから五つの宝珠が次々と出て来て穴にはまってゆき、残った二本の杖は手品みたいに消えた。

 ……待って、時空魔法を使えるのにも言いたいことは多々あるけど、目の前にあるこの杖は何? 何なわけ!?

 私の目がおかしくなっていないなら、これは──。

 青年がニコニコしながら、うながしてきた。

「さ、はめ込んでごらん?」

「…………」

 恐る恐る、空いている穴に炎の宝珠をはめ込む。

 宝珠が合計で──六つ。残りの穴は一つ。

「うん、様になってきた」

「ね、ねぇ……こ、これ、この杖って……」

「ん? 材料があったからね。杖もほしいころいだったし、作ってみたんだ。まだ水の宝珠が足りないんだけど、完成したら、おそらく大陸内にも一本しかない七属性宝珠付き世界樹の杖になると思うよ。七つ目をはめる際には調整が必要そうだし、西都へ行かないと……そうだ。これも何かのえんだし、完成したら名付け親になってくれないかな?」

「!?!!」

 ──人間はしようげきが大き過ぎると、言葉そのものを失う、というのを実感する。

 目の前の杖の土台に使った材料は、私みたいな冒険者なら知らない者はいない代物だったからだ。

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