第3話:プロローグ-3


 ジゼル


 誰がどう見ても美少女なレベッカさんが長くてれいはくきんぱつなびかせ、あっという間に立ち去った後も、ギルド会館内部のけんそうは全く収まりませんでした。

 私は自分のほおをつねってみます。

 ……痛い。夢ではないようです。

 目の前にはまがまがしいとすら思えるこくの龍の牙と大変可愛かわいらしいはながらふうとう

 届け先は、何時も通り。『辺境都市ユキハナ』の冒険者ギルド。

 あてもこれまた何時も通り『ハル』。

 裏返すといつも通り、エルミアせんぱい宛のメモ書き。

『開けずにきちんと届けなさいよ、メイド! 絶対だからねっ!』

 しく、気高く、ていでも有数の魔法剣士として知られる彼女とは思えないほど、甘さがにじんでいます。

 ……昔の彼女を知っている身からすると、信じられないですね。

 レベッカさんを追いかけて、辺境都市の冒険者ギルドから晴れて本部勤務になり、担当指名されて早一年。

 最上位へとどんどんけあがっていく彼女を見てきましたが……今回の件はすごいです。凄過ぎます。

「……ハルさんって、本当に何者なんでしょうねぇ」

 私は深く深くめ息をき、現実に向き直ります。


 目の前には黒紫色の牙。やはり、夢ではありません。


 おそらく、これだけで白金貨数千枚が動くでしょう。

 龍素材の加工はきわめて困難ではあるものの、その性能は折り紙付き。冒険者なら、誰しもが憧れるしろものです。装備に金をしむ冒険者は長生き出来ません。

 牙一本でそうなのに……らいりゆう一頭分の素材となると……。

 ていこくちよつかつの管理入札制になることはちがいなく、当分の間、大商人や大こうぼう、国の研究機関や軍、有力冒険者達はてんてこいとなるでしょう。

 ……その前に、主役が消えてもおおさわぎをしている目の前の人達をどうにかしないといけないんですけど。

 すると、背後からおだやかながらもつかれた声がしました。

「ジゼル君……彼女、また、とんでもない事をしたね……」

 私のそばにいつのまにか立っていたのははくはつの老人。耳は人族よりも細長く、年代物のローブをまとった、いかにもこうこう然とした人物です。

「ギルド長」

 この御方こそ、大陸全土に根を張るちようきよだい組織冒険者ギルド、その頂点である本部ギルド長、その人です。

 種族はエルフでねんれいは軽く三百歳をえているらしく、歴戦の勇士でもあられます。

 そんなギルド長が疲れた表情で、つぶやかれました。

「彼女が帝都に出て来てから約二年になるが、まさか、この短期間で龍を討伐するまでになるとは思わなかった……彼女はまだ確か十代だろう?」

「十七歳です。冒険者になったのは十三歳ですね」

「……二年前の階位は、確か」

「帝都に来た時点では第五階位だった筈です。私が配属になった際はもう第一階位でしたけど」

「……………天才、とはいるものなのだな」

 ギルド長がたんそくされます。

 ──冒険者の階級は、誰しも第二十一階位から始まります。

 実績を積めば少しずつ上がっていきますが、彼女のように十代でここまで上りめる人間は極めてまれ

 多くの方々はひとけたになることもなく、引退するか……道半ばで倒れます。

 レベッカさんはわずか四年でそこまで辿たどり着いたことになります。

 凄い……とにかく、凄い。

 ちゆう、別れたとはいえ、その間の大半をいつしよに過ごした身として彼女を、私はほこらしく思います。

 ギルド長が手をばし、きばれました。

「そういえば、これは先に競売に回してしまっていいのかな?」

「あ、いえ……何時も通りです、辺境都市へ送ります」

「また……『彼』にかね?」

「ええ、あの人に、です」

 ギルド長がめいもくされ首をられました。

 どういうけいがあるのかは知りませんが、この方もあの人を知っているんです。

 何度か経緯を聞き出そうとしましたが、ほどこわい目にわれたらしく、顔面をそうはくにされて教えてはくれませんでした。

 私もらいりゆうの牙に触れます。

 ──本当に信じられません。

 あのレベッカさんが。二年前は、捨てねこみたいだった女の子が!

 それもすべてはあの人に──『辺境都市の育成者』に、彼女が出会ったから始まったこと。


 そう、始まりは今から約二年前。

 まだ、レベッカさんが第八階位だったころの──。

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