第47話 親心
何度目だろう?ってまだ2回目か。でもこんなに自分が捨てられる瞬間を見る孤児もいないと思う。そして過去の俺がノックをしていた。田中先生はその姿を見て疑いの眼差しで俺を見た。
「だって、このままずっと野ざらしにするのもねぇ。」そして奥さんが出てきた。
「そういえば先生と奥さんって出来てるんですか?」そもそもなんで奥さんって呼んでるか分からなかった。多分みんながそう呼んでるからかもしれない。
「確かに田中ではあったから関係はあったかもしれないけど・・・」
「え?そうだったんですか?」
「お前知らなかったの?」
「多分誰も知らないです。」すると田中先生も奥さんをずっと見つめはじめた。
「なんか自分の子孫かもしれないって頭があって全く考えなかったつもりだったけどもしかしたらそういう感情があったのかもしれないな。そう考えたらあいつに捨てたって言われも仕方がないのかもな。」なんか喜んでいいのか分からなかった。
奥さんが俺らのゆりかごを家に入れると、すぐにまた人影が向かってきた。
「あれ?」先生の声に俺もその人影を目で追った。
「まさか・・・」さっきの女性・・・母さんは施設の玄関の前に立つと辺りを見回した。そしてすぐに扉を叩こうと握り拳を振りかざしたところで彼女の動きが止まった。
そしてそのままゆっくりと腕を下ろしてしまった。
俺は思わず先生を見た。先生は目配せをして俺に母さんの元へと行かせようとした。しかし、俺の足は動かなかった。先生も不思議そうな顔で見ていた。俺は母親と話す最後のチャンスを棒に振ろうとしているのかもしれない。
母さんはそのまま玄関から背を向け歩き出した。俺が一歩踏み出そうとした時、
「行かせてやれ。」と言う声が俺の足を制止した。
「一茶・・・」
「彼女は後悔していた。だからまた戻った。取り返そうと思った。でも、取り戻したところで果たして自分の力で子供たちを幸せにできるのか?彼女なりの葛藤があったんだろう。」一茶はそう言いながら母さんが去っていくところを目で追っていた。
「それが親心ってやつなのかもしれんな・・・」一茶はそう言いながら先生を見ていた。
「でも子供ってどんなことがあっても親がいてくれるだけで、愛してくれるだけでいいのに・・・」
「そうだよな・・・」なぜか一茶という敵が目の前にいながらこんなことを言ってしまう自分が不思議だったが、今の彼の雰囲気は何か危害を加えるように思えなかった。
「それに今の俺なら母さんを助けられるかもしれない・・・なのに・・・」もし今の母さんを助けることができれば、俺たちの未来が変えられるかもしれない。でも・・・
「親は子供が幸せでいてくれればなんでもいい。だからそれをおぼやかすことがあるのなら、親はその身を捨ててでも、自分が不幸になってでも子が幸せになる道を選ぶもんなんだよ。」先生は明らかに一茶に言っているようだ。
「一茶、ちゃんと話し合わなきゃ行けないな。」もうそっちで話が進みはじめた。
「でももう遅い。取り返しがつかないんだよ。」
「何が遅いんだ?」先生がそう言うと一茶はようやく話しはじめた。
「もうこの時空はボロボロだ。その影響のせいか本来起きるはずがないことまで起きはじめてる。」俺も母さんのことからこっちの事に気持ちを切り替えた。
「その原因は・・・」
「俺だろ?」先生がそう言うと一茶は目を逸らした。
「それぞれの世界の住人はごくわずかに、体の分子レベルの振動の差が違う。その影響は時空にも悪影響を及ぼす。」
「それであなたは先生を助けるために僕を?」俺は一茶の胸の内がわかった気がした。
「いいや。そう言いたいが、最初のことの発端は君への復讐なのは変わらない。」そう言うと一茶は俺の方に向き直ると頭を下げた。
「君には本当にすまない事をした。謝っても許してくれないと思う。取り返しのつかない事をたくさんした。本当にすまない。」確かに俺は命の危険に晒され色々あった。だがそれ以外特に何かを失ったわけでもなく、むしろ命を狙われる脅威が消えたと思うと少しスッキリした気分になった。まぁとは言っても許せるわけではないが。
「でも、そう言うってことは、僕を殺しても・・・」すると一茶は首を横に振りながら話を続けた。
「この世界はそう単純ではなかった。確かに君の存在・・・君たちの存在は特殊だった。でもそれは特殊だったのではなく特殊になってしまった。君たちは本来起きるはずのないことの影響少しずつ受けてしまったため、君と時田君には大きな差が生まれてしまったと考えているんだ。」
「それが俺ってわけか・・・」先生が静かに答えた。しかし、一茶はその言葉が聞こえていないように感じた。
「俺が親父をあっちに連れ戻して家族を元通りにする目的を果たすための試みとしては無駄になるかもしれないけど・・・ここまできたからには最後までやり遂げる。」なんか急に一茶がかっこよく見えてきた。
「そこで親父と時哉君にも手伝ってもらいたいんだけど・・・」俺と先生はうなずいた。一茶さんは、笑顔になると、ポケットラジオを取り出した。
「まずはあの二人を助けないと、彼らも復讐の被害者だから・・・」一茶さんはそう言うとポケットラジオのスイッチを入れた。
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