第33話 岐路
「なぁ、ちゃんと説明してくれよ。」部屋に帰ると泰斗が怒号に近い声量で俺に問い詰めてきた。田中のおっさんの家を出てから、俺はまっすぐ家に向っている間、泰斗につくうそを考えていた。泰斗が今俺が考えていることを許してくれるわけがない。
すると突然、泰斗が俺の前に立ち、両手を俺の肩に押し付けた。
「なぁ!」俺はその勢いに体を止められた。
「なんでいつも俺を無視するんだよ。俺が馬鹿だからか?」こんなに怒っている泰斗は初めてだった。
「いつもそうだ。お前は俺に感情を出さない。いや、出してないふりをしているだけ。そうやっていつも俺に何も言わず行動する。で、なんだかよくわからず終わる・・・」泰斗の声がフェードアウトしていった。
「何が言いてぇんだよ?」俺も少し強気な口調で尋ねた。
「だから、ちゃんと説明してくれよ。」
「わかった。あとで説明するよ。」
「違う。今説明しろよ。」なんかカップルの初めての喧嘩みたいな言い争うが繰り広げられていた。
「ちょっと待ってくれって。複雑なんだよ・・・」
「何が?」
「いろいろとだよ。」
「ほら、またそうやって隠してるじゃんか。」だんだん泰斗が彼女に見えてきた。
「違うって。」
「じゃあ、なんか悩んでるのか?」俺はその問いかけに答えられなかった。
「迷ってんだろ?お前はいつもそうだ。」
「なにが?」俺は若干キレ気味に答えた。
「平ちゃんを殺すかどうかを。迷ってんだろ?」俺は一瞬動揺した素振りを見せてしまった。
「なんの話だよ。」明らかに怪しい。恐らく泰斗でも俺が嘘をついていることが分かっただろう。すると泰斗は血相を変えて俺の胸元を掴んだ。
「まさかだけど今からこれの原因を作るのか?」泰斗の手には平ちゃんの急死が大々的に取り上げられている新聞紙が握られていた。
「なんでそんなこと俺がするんだよ?」俺はそういうと、泰斗の手をほどき部屋に入ろうとした。
「ポケットの中身。」泰斗の言葉に俺は立ち止まった。
「何?」
「マーシーはポケットに物を入れないはず。何が入ってるの?」泰斗はそう言いながらふくらんだ俺のポケットを指さした。
「別になんて事ないって。」
「早く!」泰斗の慣れていない強い口調に逆にびっくりしてしまい、俺はポケットから田中のおっさんの家にあったスタンガンを出した。
泰斗はまるで核兵器が出てきたばりにびっくりしていた。
「待ってくれよ。本当に入ってるとは思わないって」
「いやこっちが待ってくれよ。それにこれはさっき田中のおっさんの家で身の危険を感じてポケットに忍ばせてただけだから。」そういうと今度は心配そうな眼差しを俺に向けてきた。
「なんかされたのか?あのおっさんやっぱりヤベェなぁ。」すっかり元の泰斗に戻った。
「俺は平気だけど・・・」
「だけど?」
「平ちゃんを助けないと。」俺は良い感じでためながら、どうにか泰斗にそれらしい嘘をついた。
「どういう事?やっぱりこれって俺たちが関係してるのか?田中先生とは何を話したの?」泰斗は新聞記事を指差しながら質問してきた。
「とりあえず時間がない。早くあっちの世界にいる俺たちの友達を助けないと。」俺は嘘がバレないように話を切り上げラジオの準備をした。
「で、作戦は?」
「とりあえず過去の俺たちが平ちゃんと接触していない時間プラス平ちゃんが一人でいたのは?」
「あの街灯の下までの時間?」
「あれは何時だ?」俺と泰斗はかすかに残る記憶を頼りに、向かう時刻を決めた。
「よし、じゃあまずはタイムスリップからだ。」俺はそういうとスイッチを入れようとした。すると泰斗が急に俺を制止した。
「ちょっと待って!今ここでやったら前の俺たちがいるかもしれないからこっちでやらないと!」そういうと泰斗は俺の腕を引っ張って家の廊下まで走った。
どことなしか泰斗が生き生きしているように感じた。なんと無くその理由はわかった。俺も逆の立場ならそうなっているに違いない。というよりどうせなら俺も泰斗と同じ場所に向かいたい。だが残念ながら今の俺たちは、違う目的に向かっている。もう引き返せない。泰斗の元にも戻れないだろう。だが、もうすでに結果が出てしまっている。これで良い。これが俺のするべきこと。今いるここが
「人生の岐路」
俺は何度も岐路に立ち誤ちを繰り返してきた。今度こそは・・・
俺はラジオのボタンを押した。辺りに電流が流れると何も変わらない廊下に立っていた。
「うわぁ、なんかいつもより頭痛が・・・」そう言いながら泰斗がよろけると、流しにあったコップに肘が当たった。
「あああああ!!!」二人はドスの効いた声を上げた。コップは無機質な音を立てると、ガラスの破片に変化してしまった。
「おいー」俺は部屋の方を見た。しかし、向こうからは時に反応がなかった。よくよく考えたらこの時はすでに田中のおっさんのところに行っていたようだ。
「お前このコップしかこの家に無いんだぞ!」やつはペットボトルをラッパ飲みするが、俺はどうしてもコップじゃないとダメタイプだった。
「この話の続きは後でな。」そう言いながら俺はつまみを回した。
「ねぇ、もしこの世界とあっちの世界のものが繋がっているなら、あっちの世界のコップも割れてるってことだよね?」
「じゃない?多分一つしかないからあっちで平ちゃんに謝っておきな!」俺は気持ちが奮い立っている間に全てを済ませたかった。
俺はラジオのスイッチを押した。
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