パラレル〜平行世界のパラドックス〜
マフィン
第1話 ホラーゲーム
あの日も何も変わらない1日のはずだった。その日は仕事も休みで、家でずっと友達の泰斗とゲームをして1日を潰していた。
「腹減ったな。」
泰斗の言う通り俺も腹が減っていた。
そりゃ二人して朝から何も食べずにずっとゲームをしていたら、減らない方がおかしい。
「出前でもとるか。」
俺はいまさら家から出るのが面倒で、出前を提案した。
「じゃあピザな」
おそらく泰斗は、ピザが食べたいというよりは、出前と言ったらピザというようなあさはかな理由でピザと提案したに違いない。
俺はとりあえず部屋の隅にある電子レンジの上に置いてあったチラシを見ながらピザ屋に電話をかけた。
「何が良い?」
「マルゲリータ!」
やっぱり泰斗はミーハーだと思うが、泰斗はそれに気付いていないのだから不思議なものだ。
俺はイカとアンチョビが乗ったやつとチーズとハチミツのピザを頼んだ。
「1時間かかるけど良い?」
「別に良いよ。」
本当に泰斗は1時間のさじ加減が分かっているのかと心配にはなったが、承諾し注文を済ませた。
またしばらく暇になり、俺はすぐ後ろにあるベッドに横になった。
「なぁ!あのゲームやって良い?」
泰斗が指を指していたのは、結構前にクリアしていたホラーゲームだった。
「別に良いけど、俺は疲れたからやんないよ?」
俺がそう言い切る前に泰斗はすでにディスクを入れ替え、ゲームを起動し始めていた。
「ねぇ何これ?」
その声に反応してベッドの反対側にあるテレビ画面を見ると、アップデートを促す内容の文章だった。
「OK押しておいて。」
俺はそう言うと再び横になり、スマホでSNSを見始めた。
泰斗はおもむろに部屋の電気を消し、テレビの音量も大きめに設定しはじめた。雰囲気作りを大事にしているようだ。
しばらくして俺はスマホの電源を落とし、腕で目を伏せ休ませた。
隣から聞こえてくるゲーム音が、心地のよい子守唄のように、俺の睡眠を促してくる。
そのとき、唐突にそのゲームには似つかない音が俺の耳に入ってきた。感じとしては、ラジオの雑音のようにも聞こえた。
「なぁ、今の音聞こえた?」
俺は体を起こし、泰斗に問いかけた。
「今のってなんのことだよ!」
泰斗は少し怯えたように、身をそらした。
「なんかラジオの雑音みたいな電子音っていうのかな?」
俺はすごい曖昧な表現で伝えようとしたが、泰斗にはあまり伝わっていないようだった。
「なんだよ、脅かすなって。悪いわぁ!」
泰斗は俺に悪態をつくとまたゲームに戻った。
確かに、ゲームの音だと考える泰斗の気持ちもわからなくもないが、何度もやってる俺からしたらその音がゲーム内の音とは到底思えない。
俺はとりあえずまた体を寝かせ、腕を目に伏せたその時、今度は扉の鍵が開く音が聞こえた。
さすがの俺も飛び起きた。
するとそれと同時にゲームをやっていた泰斗も大音量の悲鳴を上げた。
「なんだよ!」
「だって、急に出てくるんだもん。お前だって初見の時はびっくりしただろ?」
泰斗はただゲームで驚いていた。
「それより、今、鍵開かなかった?」
「まず、閉めてないよ?」
泰斗の言葉に突っ込みたくなる気持ちを堪えた。
このままでは確実に誰かが入ってくる。だがまだ扉にチェーンをかけるチャンスがあるはず。
俺はそう思い、電気をつけ玄関へ向かおうとした。
するとまた鍵が開く音が聞こえた。
「お、ピザ屋もう来たのかな?」
泰斗が能天気なことを言っていると玄関の扉が開く音が聞こえた。
この部屋に明らかに人が入ってきていることを知らせるように、廊下の明かりがつき扉のくもりガラスの奥の影が徐々に近づいてきた。
俺の手は汗まみれになっていた。そしてドアノブが動き、扉が開いた。正直、恐怖でなのか全く体が動かせない。
扉が開くと、そこには、いたって普通の俺と同じ24歳くらいの年齢の男が立っていた。
向こうも俺らと同じく恐怖と驚きの混じったような感情の顔をしているように見える。
「お前ら何してんだよ。」
男は怒っているようだったが、そこまで迫力がなかった。
「そういうあんたこそ人の家に勝手に上がり込んでどういうつもりですか?」
怖かったが、俺も負けじと反論した。
「は?何言ってんだ?お前らこそ人の家に勝手に上がり込んで、勝手にゲームで遊んでんじゃんか。」
男はそう言いながら、辺りを見回していた。
「しかも、何俺の寝巻来て俺の布団に上がってくれちゃってんの?」
男はそう言いながら俺に迫ってきた。
「なんっすか?警察呼びますよ。」
俺はそう言いながら、泰斗のいる窓際へと逃げた。すると急に男が後ろにあるクローゼットを開け始めた。
「ちょっと、なに開けてんっすか。プライバシーの侵害ですよ。」
俺は強気な口調で威圧しているが、そいつに向かっていく勇気はなかった。
「スペアキーが無事ってことはお前らどうやって入ってきた?」
男はそういうと鋭い視線で俺たちを見た。
「ちょっと待ってくれよ。なんでそこにスペアがあるの知ってんだよ。」
「それは俺の家だからな。」
男は呆れたような表情で答えた。
「もしそこまでここをあなたの家だと言い張るなら証明してくださいよ。できますよね?」
俺はそう言ってその男を試してみた。
すると、その男は他に目もくれず、真っ先にこの家の賃貸契約書が挟まっているファイルの場所に手を伸ばした。
俺は男のその行動を見た時、何か雷のようなものが背筋を勢いよく這って行った。
鼓動で体が揺れている。
男も得意げにファイルから賃貸契約書を取り出したが、数秒後にはおそらく俺と同じ表情を浮かべていた。
「どういうこと?」
男は力が抜けたような声でつぶやいた。
「それはこっちが聞きてぇよ!なんでそこにあるってわかったんだよ。」
俺は恐怖すぎて腰を抜かした。
「なぁこの人すごくない?だってお前の寝巻き普通だったら寝巻きって思わないのに!」
久しぶりに泰斗の言うことに納得してしまった。
そうこうしているうちに、ピザ屋が来たようでインターホンの音が部屋に鳴り響き、モニターにホールピザを持った配達人が映った。
だが俺は、それどころではない。
「あのー。この家がどっちのか知らないですけど、どちらかインターホン出てもらえますか?」
泰斗の声は、もはや俺とその男には届いていなかった。
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