板外編:あの時の彼女の心境【1板目-2板目】
(……よくよく考えればC絶対に報告しないといけないやつじゃん)
その事実に気がついたフユミは、時間の都合上というか、正確にはやってみたかったから始めた安価の後、バルドルのあの行動について書き溜め始めた。
**
918:白雪姫
それは……モロ前世が影響してる!!
てかまだ時間あるから書ける範囲でならC報告してもいいよ、いる? てか聞いてほしい。
919:名無しの召喚士
( ゚д゚)ハッ!
920:名無しの召喚士
もちろんもちろん!!
921:名無しの召喚士
報告オナシャス!!
**
(そりゃお前らはそう返すよね〜、知ってた!!)
後付に近い書き込みをして、思い出せる限りのことをメモに書き込んでいく。できる限り読みやすいように、飽きないように。
前世での経験もあり、彼女はかなり筆が早い方だ。だからなぜかまだ覚えている日本語を呼び起こしながら、物凄いスピードで入力する。前世の様々なメッセージアプリで培った指さばきが唸る!! 唸るぞ!!
オークシチューをバルドルに食べさせ、美味しいと言わせたこと、髪を避けようとしたらビーム撃たれて死にかけたこと。
全て書き終え、スレ民の反応に反応しながら投下していく。
**
990:名無しの召喚士
なんで、え、なんで……!?
991:名無しの召喚士
こんな時に……!? とりあえず1000踏んだやつ新しいスレ立ててくれ!! できる限り早急に!!
992:名無しの召喚士
ちょ、おい、脳筋お前大丈夫かよ!?
993:名無しの召喚士
あぁぁぁ、色々聞きたいのに!!
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すべて投下した後。
やはり予想通りで、スレ民の反応は困惑だった。
あの時フユミは一歩間違えれば死んでいた。そりゃあ心配されるだろう、とは思っていたが、今はなんとも無い為、罪悪感も感じてしまう。
**
994:名無しの召喚士
なんで? じゃねぇよ、脳筋体大丈夫か!? 喘息持ちか!? 気胸になってないか!?
大丈夫って思っててもそれが重大な病気につながることだってあるんだからな!?
995:白雪姫
回復魔法かけたし大丈夫だと思う。気胸って分からんけどでも呼吸苦しくないよ!
996:名無しの召喚士
気胸ってのは肺から空気が漏れてる状態のことだよ!!
997:名無しの召喚士
一晩たってるもんな、息苦しい、息切れとか胸が痛いとかあるか?
998:白雪姫
今んとこないです!!
999:名無しの召喚士
なら良かった、今は大丈夫か……?
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フユミが壁に打ち付けられたことを、予想以上に皆心配していた。
フユミにとっては、冒育であの教師に何度も打撲や怪我をさせられてきたこともあり慣れたもんだったが、そういうことに慣れていないスレ民にとっては当たり前の反応である。
前世で医療関係の職についていたスレ民はフユミのそのなんともなさげな反応を見て、安堵のため息を漏らしたことだろう。
背中には重要な神経が沢山通っている。打撲でも、下手すれば障害が残ることだってあるのだ。
フユミの場合叩き込まれた防御壁の展開と受け身、風魔法での威力減少で、無意識にも最小限にリスクを減らすことが出来たが、それが無ければ本当に生死に関わった。
そんな事態を1番軽く考えていたのが当の本人で、フユミはスレ民達がここまで心配していることにむしろ驚いてしまっていた。
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15:白雪姫
体には何も無いしそっちはマジで大丈夫だから安心してくれ!!
16:名無しの召喚士
マジでなんでバルドル脳筋を殺しにかかってきたし!?
17:名無しの召喚士
バルドルがトラウマになった、とかねぇよな?
**
(そういや、トラウマなっても無理ないよな……2回も殺されかけたら)
フユミはスレ民のその反応に初めて、自分があまりあの神に恐怖を抱いていないことに気がついた。
……いや、怖いには怖いのだ。
何度も殺されかけているし、反応が冷たいし、これでよくトラウマにならなかったなっていうレベルの扱いを受けてきている。正直近寄りたくない。が、近寄れないわけではない。近寄っても怖いが、震えが止まらないとかそういうことはない。
(…………ああ、でも、そっか。
なんだかんだ言って、どれも私を避けてたんだ)
そしてやっとその理由が分かった。
本能的には分かっていたのかもしれない。
彼は「近づくな」なんて忠告したり、ビームも敵意みたいなものは感じたが、わざとフユミを避けていたのだ。あの、最初の時に感じた少しの違和感はそれだったのだ。
彼の手は、最初こそフユミに向けられていた。だが、打つ寸前にほんの少し逸らされたのが見えた。
ビームのパワーがありすぎてブレたのか、なんて思っていたが、あれは意図的だったのだ。
そして魔物を倒したときも、フユミの背後の敵を攻撃した。あの時少しでも放置していたら、確実にフユミに傷を負わせられたのに。
(アイツは……制御できてない? どれも私に打ってたの反射的な感じだったし……。
ゲームじゃ他にも力制御できない、みたいなキャラも何人か居たし、まさか……それ?
傷つけてしまうから近寄るなってそういうの……?
……いや、これは私の理想か。そうじゃない可能性も十分にある。ある、けど……)
**
25:名無しの召喚士
つまり、バルドルは脳筋が生理的に無理すぎて、近づくとついビーム撃っちゃうってわけ?
26:名無しの召喚士
え、何それ救い無……
27:白雪姫
つまりはそういう事ですかね……。
……泣いていいかな?
生理的に無理ってなんだよ!! 私見た目は美少女だよ!? 可愛い可愛い美少女だよ!? 何がいけないっての!?
アイツレベルの美貌ともなると私なんか見るにおぞましいバケモンにしか見えないってか!? てかそれならスレ民皆そうだろ、私以下もいっぱい居るだろ、なんでだよぉぉぉぉ!!
**
スレ民の何気ない「生理的に無理すぎて」という言葉は予想以上にフユミにダメージを与えた。そこまで悪い方向の発想が無かった為である。
その言葉に対しての「美少女だろ!?」という反応はフユミにとっては八つ当たりに近く、ウザがられるかもしれない、という1つの賭けだったが、洗練されているスレ民はネタと見抜いてくれたらしい。
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28:名無しの召喚士
脳筋が荒ぶってるwww
29:名無しの召喚士
当たり前のように俺ら貶すなよwww
30:名無しの召喚士
もうここまで来ると可哀想ww
**
まあ予想の範囲内の、フユミが望んでいた反応に安心し、息を吐き出した。
彼女はそんな会話を楽しみながら、神霊の泉前で止まった。
今から召喚する、と報告すると、実況をせがまれる。
まぁでもフユミも狙っている
今度はゆっくりと、オーブを水音が立たないレベルで泉に沈めていく。
(アマテラス様来ますように、アマテラス様来ますように……!!)
そして全てが沈んだ瞬間、ファアアアッと泉が光り出す。すぐそばで直視してしまったフユミの目にはフラッシュを目の前で焚かれたかのような残像が残った。
そして、上からふわり、と今度は虹色をまとった、赤か橙ぐらいの色味の雪が降ってくる。
次の発光を警戒し泉から距離を取ったフユミは、興奮しながらもキャラ確定演出だと高速で打ち込んだ。
(キタキタキターー!?
火属性なのは残念だけど、誰が来るかな!? ヘラとか来ちゃう!? 来ちゃう!?)
どのゲームでもそうだろうが、虹色を纏っていると確定演出なのだ。
このゲームではキャラのレア度が期間限定以外全て均一の為にこの演出はそこまで珍しくはないのだが、キャラを欲しがっていたフユミにとっては最高の演出だった。
そして、こちらの現実バージョンでの演出は、ゲームとは違いかなり珍しいものだった為にスレ民達が羨んだのはそのせいだった。
現実では課金なんて存在しておらず、オーブもそんなに沢山手に入らない。
橙色の雪みたいなものが人の形を成していく。その2本の鎖のような特徴的なくくり方をした襟足と、2m近い高身長を見て、フユミは誰が来たのか確信した。
**
72:白雪姫
ヒント
鎖みたいに編まれた襟足
73:名無しの召喚士
ろ、ロキィィィィィイ!?
74:名無しの召喚士
北欧神話キターーーーー!!
75:名無しの召喚士
はぁぁぁぁ!?最強の次は人気1位!?
76:名無しの召喚士
ロキィィィィ!俺だァァァァ!!!!
**
さすがと言えばいいのか、スレ民達も即答する。
20**年の初となる人気キャラ投票で見事人気ナンバーワンを勝ち取った伝説のキャラ。
北欧神話のトリックスター、ロキである!
……実は彼女、ゲームでロキを持っていた。
だが、ほとんど使った事はない。と、いうのもそこにはSTWの仕組みが関係していた。
STWでは、同じキャラを合成することによりどんどんとレア度が上がっていく。
そしてゲームあるあるだが、レア度が高いほど強くなっていくのだ。
最高レア度は5。そして合成するにはレア度も同じ契約神が居る。
もうお分かりだろう。つまり2の4乗……最高レアまで16体必要なのである。
馬鹿げた数字、とゲーム好きの方は答えるだろう。だがその分、STWのキャラの排出率は、期間限定をのぞけばかなり高い。
その為どれだけそのキャラ
そして、最初に言った通り、フユミは女神ばかり引いていた。ロキを引いた回数は2回のみ。つまり、実力的に戦闘に出しても力不足で使えない、ということになってしまうのだ。
と、ここらで現実へ戻ろう。フユミがキャラ召喚時のフラッシュに警戒し、泉に背を向けながら入力していると、その途中でピカーッとあたりが白く染まった。
振り返りたい、がスレ民は彼女が見ている前提で会話しているし実況すると言ってしまった手前、勝手に抜けるのは……と無駄に真面目な面を見せるフユミ。
「……やっと呼んでくれたね、ご主人サマ?
オレはロキ、こんな面白そーなこと、オレが参加しなくてどーするのさ」
さすが契約神、いわゆるイケボで耳の幸せな自己紹介をされているが、フユミは振り返りもせず背中しか見せていない。
本当に真面目に考えると、名も知れぬスレ民達より、これから長い月日協力関係となるはずの契約神に挨拶した方がいいのだが……。
**
80:名無しの召喚士
人気ランキングナンバーワン(゚∀゚)キタコレ!!
81:名無しの召喚士
新たなフラグの予感……!!
82:白雪姫
今自己紹介してるみたい。私チラッと見ただけだけど。後ろ向いてスマホ入力してるから私確実に変な人。もう挨拶しないといけんから実況やめるらはらら
**
ヒュッとウィンの口から息を吸い込む音。何かに包まれ、角ばった手が腹に回されている。カタンッとスマホが地面に叩きつけられる音が響いた。
「ご主人サマ……何見てるの?」
耳元にかかる熱を帯びた息とフユミにとって甘ったるくすらある
ヒュッ ヒュッ ヒュッ
フユミの呼吸が早くなる。全身から嫌な汗が吹き出し、歯はカチカチカチカチッと音を鳴らし体はガクガクと倒れるんじゃないかという程に震える。
医療関係のスレ民が見たら分かるだろう……いやフユミですら分かる。過呼吸になっている。
(あ……れ……?)
もうここまで来るとロキに支えられていると言ってもいい。――そう、ロキに抱きしめられているのだ。
そう気がつくのはいいものの、少女は動けない。
息もどんどん粗くなり、これ以上はマズイ、と彼女は息を止める。ロキも気がついたのか、何を考えた行動だろう、腰から左腕を外した。
その瞬間、ハッと我にかえって少女は「かか“肩の強化!”」となんとか詠唱、右肘を後ろへ突き出した。そして空気を吸い込みすぎてむせる。
「おおっと、これはこれは」
だがその肘は宙を切り、その勢いで振り返った彼女はやっとその中性的に整った顔を見ることになる。
音もたてずに2m程距離を取っていたロキの、燃えるような朱色の虹彩が彼女を捉えていた。
そんな美しい目に笑みを浮かべ、唇を三日月に歪ませた青年は「やっとオレを見てくれたね」とからかうような声色で言う。鎖のように編まれた2本が後ろで揺れていた。
いつもなら脳内だけでも噛み付くフユミだが、その時ばかりはぼーっとただただ混乱した目で彼を眺める。フユミの中で一瞬だけ、ロキと別の人物が重なって見えていた。
(教師……にっ、またされたかと……思っ、た……っ)
体はまた小刻みに震え、先程回復魔法もかけずに肘を強化し動かしたせいでひどく痛む。が、それすらも些細なことだと思えるほど、少女の中を恐怖が支配していた。
怖い、怖い、怖い……っ!
なぜ!? どうして!? あの目を、あの緑の、瞳孔の開いた目を思い出しても怖くなんてなかったのに!! 教師のことを思い出しても……大丈夫だっ……、あの、時……腹を掴まれたとき、終わったって、この人は私を逃がす気なんて無いんだって、世界を見ることができないかもって、この教師は私を裏切ったんだって…………絶望、したから……?
鮮明にあのときの出来事を思い出そうとす……駄目だ、できない、しやめたほうがいい。体の震えを抑えようと胸に手を置く。
これが、これこそがきっと、トラウマだ。
こういう経験は初めてだったものの直感で理解した。
精神的に落ち着いて考えようとしても、体が、そして脳も拒絶する。落ち着かないといけないのに落ち着けない。
まだ冷静な部分で考える。
「…………何見てたのかな?」
そんな明らかに異様なフユミを、いつもどこか余裕のある
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