第12話 出立(しゅったつ)
祭壇の後ろにある格納扉が開放されて初夏の白くまばゆい白昼の光の中から小型ジェット旅客機に偽装された宇宙艇が姿を現した。
「新しく地球統治権限保有者に就任されましたエリハ様が、東銀河帝国首都惑星に向けて御出立なさいます」
格納庫内に響く司会者の声。それが合図になっていたのだろう、外で待機していた音楽隊が勇壮な行進曲を演奏し始める。
エリハは席から立つと格納扉に向かう。しかし、途中で何か思い出したのか戻ってきてマイクを手にとった。
「コウ。従者として帝国首都惑星まで私についてきなさい!」
関係者に事前に回っていた従者推薦名簿に登載されていない者の名前が呼ばれたことで式場内がざわめく。
ゾウジはコウの背中を静かに押した。
「太陽系のためによろしく頼む」
そう言われなくてもコウの決心はすでに決まっていた。
首都惑星に行くのは気が進まないが、自分のせいで地球を爆砕されてもたまらない。それに自分を従者に選んでくれたことが内心うれしくも思った。これであの家族を見返すことができるかもしれない。
「わかりました」
コウは席を立って駆け出した。すでに偽装宇宙艇のタラップの階段を上り、機内に消えようとしているエリハの後を追う。
コウがエリハの後に続いて機内に入ると上品に振る舞う赤い瞳の女性タイプアンドロイドキャビンアテンダントによって席に案内された。
無事に地球に帰ってくればいいんだろと自分にいいきかせてコウはシートベルトを締める。
機密扉が閉じられた。離陸に向けてエンジン音が高まっていく。
エリハは通路を挟んで隣に座っていた。
コウはエリハの横顔を見た。
エリハはうつ向いて肩をふるわせ、大粒の涙があふれ出るのを隠そうともせず泣いていた。家族を失った悲しみがようやく自分の元に戻ってきて、やっと家族のために泣くことを許されたのだ。
自分がエリハの立場だったら同じように家族を想い泣くことができるだろうかとコウは思った。そして、エリハが泣き止むまでそっとしておくことに決めた。
告別式の参列者達は、月の裏側にある地下都市を目指して離床していく偽装宇宙艇を格納庫扉の前で並んで見送る。
ゾウジも咳き込みながらその参列者に混じって見送っていた。ゆっくり振られる手には黄金色の指輪が光っていた。
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