第14話 事情聴取
私たちは礼拝堂から場所を移し、本館の巡察官に与えられた執務室に来ていた。
執務室の壁には豪華なタペストリーが飾られ、季節外れの
「祝宴の前なのに、すみませんね」
灰色の髪、緋色の瞳の小柄な老人の姿をしたギルメットは、温厚そうな笑みを私たちに向けた。
どっしりとしたオーク材のテーブルの席についているのは、巡察官のユー・シュエンとギルメット、私とアロイス、フレミー司教で、副官パトリスと女騎士リゼットは私たちの後ろに立っていた。
この部屋の中で、
あの後――巡察官から私に、昨夜のクレモン城下町の教会で
アロイスは自分が立ち合うこと、同時にフレミー司教とリゼットも同席する条件で許可をした。
もしもアロイスと結婚していなかったら、私だけが審議の部屋に連れて行かれ、この巡察官二人から取り調べを受けることになっていたらしい。想像するだけで、ぞっとする。
「
我々はこの件に関して、調査しなければなりません」
向かい合わせに座ったテーブルの向こうで、黒っぽい地味な僧服を着たギルメットは、書き付けた紙に目を落とした。
「ええ、もちろん。こちらとしてもそのつもりです。
巡察官どのがお手を貸して下さるというのは、心強い限りです」
アロイスはにこやかに答えた。
これは貴族的な婉曲表現で『領地のことは自分たちで解決する。お前たちも調査をしたいというなら、顔を立ててやるが邪魔はするな』くらいの意味だと思う。
フレミー司教が落ち着かない様子で、小さく身動ぎをした。その儀式を執行したのはフレミー司教なので、責任の追及を恐れているのかもしれない。
「フレミー司教とその女騎士リゼットからは、すでに調書を取らせてもらった。後はソフィ、殿だけ」
ギルメットの横に座っているユー・シュエンは腕を組んで、ずっと私を見ていた。
ユー・シュエンはこの状況が気に入らない様子で、何故か私を疑いの目で見ている。
「ソフィ。お二方の質問に、何でも答えるように」
アロイスはテーブル下で私の手を握り、微笑みかけた。
――僕に対して思考を送ってくれれば、君の考えていることが伝わる。これが血の絆だ。君と僕は血を交換したから。
私はわずかに目を見開くに留め、驚きを外に出さないように努めた。
この場に来る前に、アロイスと打ち合わせる時間を持つことは出来なかった。
アロイスが二人の巡察官の相手をしている間に、私は濡れた服を着替え、すぐここに連れて来られたから。
隣にいるアロイスの存在を強く感じた。これも血を交換したせいなの?
「昨夜の儀式を中断させた、影の魔物に心当たりは?」
「ありません、初めて遭遇しました」
ギルメットは、書き付けにさらさらと羽ペンを滑らしてていく。
次に、ユー・シュエンが質問した。
「
アロイスは握っていた私の手に、ぐっと力を入れた。
――儀式が失敗した時、リゼットから申し出てくれたの。
私はアロイスに向けて、心の中で語りかけた。
――リゼットからそう聞いている。そのまま話すんだ。
「マルクの命を助けるために、リゼットさまが申し出てくださいました」
「でもさぁ、
たまたまその眷属化の許可を持った騎士が、稀にしか失敗しない儀式の場に居合わせて、その権利を対象者に施行したっていうのが、なんか引っかかるんだよねぇ」
「そこは深く考えなくてもよいのではないですか。
ソフィは僕の妻になる者で、リゼットは彼女の護衛としてつけていました。
リゼットは僕に忠誠を誓っているから、ソフィの意向に沿う形になったのでしょう」
「そうだねぇ。マルクは伯爵の同郷でもあるし。リゼット君からも、話は聞いてるけどさ」
「その通りだ」
後ろから、リゼットが答えた。
「ところで……ソフィ殿は、ヴィーザル村の御出身なんですね。以前の魔獣被害はお気の毒でした」
急に、ギルメットから別の話を振られて戸惑う。
「はい、ありがとうございます」
「あなたが、冥界の女神信仰に改宗されたこと、私は大変うれしく思っていますよ」
背中にじっとりと、嫌な汗をかいている。隣にアロイスが居ることに、心から感謝した。
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