第6話 フェルダ坑道・後編

「ドティホールン卿の意見が通らなかったという事は、実質アシクリ殿が良いと思われていたのでは」


アマト殿もドティホールン卿は、さすがに知っているようだ。

正義を何よりも重んじる騎士にして名門貴族。

王への忠誠は、ゆるぎないもので厳しい進言も行うが、信頼は厚い。


たしか屋敷に、自分を律するため、真実の祭壇と言うものまであるらしい。

だれもその動言に私欲を見ることのない国内随一の人。


そして頑固だ。

一度決めた事をひるがえすことを、良しとしない。

教会が関係すると、その傾向が強く、妄信的な教徒と言える逸話も多い。


「議論が行き詰っていたところに、坑道の話が入ってきた。

すぐにドティホールン卿が、リディティック殿に討伐をさせると。

そうすれば、反対するものはいなくなると。

そんな簡単なことではなかったが、卿はそう考えたらしい。

話し合いで、どうにか選考の参考とするとした。

それでも、リディティック殿にやらせると言ってきかない」


噂どおりの人のようだ。


「正規の騎士団が、せいぜい3~40のオークに、遅れを取るとは考えられない。

先に行ったほうが駆逐してしまう、それは不公平ではないかという意見が、出てしまった」


「それで6人の騎士と、1人の神官での突入となったのですか。

不安を残す構成でしたので、不思議に思っておりました」


コーライン様が深いため息をした。


「そう1回の討伐で、成功しないかもしれない戦力にすることを、ドティホールン卿が提案なされた。

魔法使いも連れて行かないと無茶な話だったが、そのころにはみんな議論につかれていた」


「1回目の討伐隊は当然、リディティック殿になり、坑道へと入っていった。

人を制約したと言っても、十分な戦力だ、誰も失敗するとは思っていない。

外で数人の者が待機して、報告を待っていた。

しかし、しばらくして、リディティック殿は退却してきた。

敵は思った以上に手ごわく、魔物の罠で総崩れになり退却するしかなかったと。

ケガをした者もいたが、全員戻ってこれた。


このことを受けて正式な討伐隊を送ろうとしたが、ドティホールン卿が許さない。

それは、公平ではないと」


「結局、後日、アシクリ殿7名が坑道に入った。

2度目の部隊も予想外に反撃を受けた。

そして先の討伐隊がなぜ失敗したのか、理由が分かった。

敵に魔法を使うものがいたらしい」


「オークに」


「事実だ。

最初に魔法で呼び出した大量の水で、松明の火が消された。

罠に用心していたので、うろたえることは無かったが、暗闇の中で目が見えるオーク相手に一時不利になってしまった。

この窮地を耐えながら、予備のランプで小さな明かりを灯し、反撃に出た。

そして、徐々に魔物を追い詰め、奥に進んで行く。


最後の足掻きとばかり、魔物が数匹逃亡をはかり突進してきた。

陣形を組んで進んでいたので、冷静に対応しようとしたが、突然2人が倒された。

薄明りの中では何が起きたか分からない。

何かわからない力によって攻撃されていた。


その混乱の中で数匹に逃げられてしまった。

逃げた魔物はそのままに、自分達の被害を確認したところ、最初に倒れた2人は死んでいた。

その中に神官がいた。

ここでアシクリ殿は退却を決め、自分は最後尾で仲間を逃がすことにした。

この先もか」


オビシャット卿はコーライン様を気にかけてくださっている。


「お願いします」


ネズミは、つらい話を聞かせようというのか。


「動けた4名が、先に退却した。

だが、その者たちもかなりの傷を負い、自力では出口まではたどり着けなかった。


そこに、リディティック殿が率いた5名が現れた。

雪辱を果たしたいと考え、前日から坑道に入り、その機会をうかがっていたらしい。

退却してきたのが聞こえ、応援に駆け出したと言っていた。


ケガ人がいたので、神官を残して奥に入っていった。

坑道の中ごろに作業場として、広い場所があり、以前から広場と呼ばれていた。

アシクリ殿はその広場、入り口まで引き、魔物をなかに抑えていたらしい。


広場の入り口近くに倒れていた。

リディティック殿達は中の魔物とすぐに戦闘になり、アシクリ殿の様子をみる余裕はなかったと。

遅れてきた神官が、アシクリ殿の死を確認した。


その時の神官は、教会から正式に派遣された者ではない。

リディティック殿がドティホールン卿に頼み、来てもらっていたので、それほど高位の神官ではない。

彼女は、蘇生の奇跡を行えなかった」


「どうしてオークごときに、アシクリ殿が、と思っていたが。

運び出されてきた遺体を、見て納得ができた。

彼の剣は折れていた」


体が震えているのが分かる。


「競う相手がいなくなってしまったので、王都隊の隊長にはリディティック殿がなった。

今では2人の評価は逆転してしまっている。


最近では、アシクリ殿がまともな剣を選ぶこともできない騎士だったと、言われ始めている。

主に、彼を押した私を非難するために言われているが。

軍事に私が意見する資格がないと、元老院でも平然と言ってくる者もいるほどに」


コーライン様がオビシャット卿へ頭を下げている。

やめてくれ、その剣を作ったのは俺だ。

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