第2話 甘言

「カリーエ様が自警団に入り、ナクラ家を継ぐ覚悟とお聞きしたもので。

お手伝いしようと」


魔法使いの言葉で、今に引き戻された。


「それはどういうことですか」


「ご存じありませんか。

かもしれませんね。

この方法は、正規のものではありませんから」


「騎士団への入団条件は2つ。

貴族であること。

そして、男性であること」


この2つは、俺でも知っている。

他に方法があったのか。


「自警団という組織をご存じかと思います。

地域の住民が自衛のために作っている組織です。

希望すれば誰でも入れます」


話が見えない。


「自警団で功績のあったものが、まれに貴族の推薦を受け、騎士団に入ることがあります」


「この時、貴族でない者は『1代貴族』の身分を与えられます。

そして、ここが重要なのですが、女性でも騎士団に入ることが出来ます。

過去に数名いらしゃいました」


「もともと『1代貴族』は功績のあった市民に与えられる名誉として生まれています。

貴族の子供全員へ与えるようになったのは、後からのことですから」


そこはいい。

女性でも、騎士になれるのはどうしてだ。


「国法には功績のあった者を騎士団員にするとあり、女性が排除されておりません。

反則ですが、この方法であれば、女性でも、騎士になれるのです。

騎士身分の家を継げるのが男性だけと制限しているのは、基本的に騎士になれるのが男性だけだからです。

騎士になれば、女性でもナクラ家を継ぐことが可能になります」


分かったが

「なぜその話を俺に」


魔法使いはまたあの笑顔をして。


「私はカリーエ様を大変愛おしく思っております。

その願いならば、かなえてあげたいと。

ですが、私にできるのは、最高の武器や鎧を用意するくらいです。

そこで我が国で1番と言われておりますカラティアン工房を訪ね、最高の剣を頼もうとしたのです」


師匠の工房に行ったのか。


「ですが、カラティアン氏にイグリース殿を紹介されました。

カリーエ様のために剣を打っていただけませんか」


なにを言い出すのだ、この男は。


「できません」


即座に拒絶した、俺にできるわけがない。


「アシクリ殿の件は聞いております」


「ならお分かりになるでしょう」


何故、俺にたのんだ。


「だからこそなのです、二度と同じ事にはならないでしょう。

それにイグリース殿は、誰かが作った剣にカリーエ様の運命をゆだねてよろしいのですか。

もし何かがあれば、今度こそ自分を許せなくなるのでは」


何ということを言い出すのだ、脅迫じゃないか。


「今度はご自身のすべてをかけ最高の剣を作られると思い、お願いしております。

ミスティル銀も一振り分あります。

また塔より、マグマより熱い炎を吐き出す壺、その炎に耐えるハンマーと身を守る護符をもってきております。

二度とそろう物ではありません。

本日が最高の日なのです、何をためらっているのですか」

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