電子書籍レーベルの意義について考える
最近、個人の電子書籍レーベルが解散したらしい。
そういうレーベルがあるということはTwitterのタイムラインに再々流れてきていたので、調べるわけでもなくなんとなく動向を見ていたのだが、うまいこといかずにつぶれてしまったという結果をみて気の毒に思った。運営されていた方は自分の思い描いていた夢が実現できなかったわけだし、そのレーベルに参加されていた人や活動を熱心に応援されていた方の悲しみもわかる。
しかし、その一方で。
そもそも電子書籍形態の自主出版の世界においてレーベルに所属することにはどんな意味があるのだろうか、という疑問が僕の中に湧いた。なのでこれを機に、ちょっと考えてみようと思う。(煽りや揶揄の意味ではなく、自分の今後の身の振り方も含めた純粋な検討であるということは前もってお断りしておく)
まずメリットとして、思いつくものをいくつか挙げてみよう。
1.表紙作成依頼や出版作業の手間削減。
2.校正をしてもらえたり、出版前に作品について意見を貰えたりする可能性がある。また、参加しているクリエイター同士のつながりができる。
3.知名度・発信力のあるレーベルであれば自作の広報をしてもらえて売り上げの伸びが期待できる。
これらについて私見を述べるとするならば。
1はまあ確かにあるかな、という感じ。特に表紙や挿絵のイラストは完パケとしての作品クオリティに直結するので、そのレーベル所属のイラストレーターさんに簡単に依頼できるようであればメリットかもしれない。
ただまあ、今はイラスト制作を依頼するサイトも多いので自分で探すのもそう難しくはない。僕自身、そういったサイトで巡り合ったイラストレーター様に素晴らしい表紙絵・挿絵を制作して頂いておりまったく不満はないので「個人でも大丈夫では?」と思ってしまう。まあ、そういうことでトラブルを経験していればまた違った感想を持つものかもしれないが。
出版作業の手間については慣れればどうということもない。これに関しては、正直この手間を惜しむのは怠慢ではと思ったりする。
2については、自作に自信のない人ならアリと思うかもしれない。僕は製作途中で「ここがダメ」とか言われたら萎えるので、ダメかダメでないかは出版した後の売り上げで判断すればいいじゃんと思うタイプだ。ただ、校正については一定程度魅力を感じたりもする。誤字とか文章の抜けとか、案外自分では気づかないものだ。しかしまあ、それのためだけにレーベルに所属したいと思うほどの魅力ではないが。
クリエイター同士のつながりに関してはSNSなど他の媒体でも可能なことなので、僕はほぼ魅力を感じない。逆に、個人同士なら絶対に関わらないなと思うような人が同じレーベルにいたら迷惑に感じるだろう。
3については、おそらく最大のメリットだと思う。日頃から僕は、WEB小説における最大の壁は存在を認知してもらうことだと思っている。巷に作品があふれまくっている昨今、作品自体のクオリティを問われる以前に「人に知ってもらえる」点をクリアしなければならないのがなかなか大変なところなのだ。その点、レーベル自体に実績と信用があり、ファンがついていれば、そこから出る作品は強い拡散力を持つことになるだろう。これは強い。
逆に言えば、知名度・発信力のないレーベルにはこの最大のメリットがないことになるので、正直言ってここを満たせるかどうかがレーベルに参加したいと思うか否かの分水嶺になるのではないだろうか。
一方、レーベル所属に関するデメリットはこんな感じだ。
1.運営側に印税のパーセンテージを取られるので作者の収益が減る。
2.レーベルに「色」がある場合、それに反するテイストの作品は書きにくくなる。
3.自分に関係ないトラブルの余波をひっかぶる場合がある。
これらについても考えてみる。
1は、運営は運営でお金がかかるものなのだから仕方がないことではある。メリットの3で言及した、「レーベル自体に力がある」場合なら多少差し引かれても余りある恩恵があると思うが、そうでない場合は単純に損だなあ、と思ってしまいそうだ。
2についてはなかなか嫌だな、と思う。自主出版の素晴らしさはまさしく、自由に作品を書いて世に問うことができる点にあるのではないだろうか。出版社から出る作品でもないのに、誰かに遠慮して作品を書きたくはない。
3はもっと嫌だなと思う。ここで言う「自分に関係ないトラブル」とは、運営側でいざこざがあって活動が円滑にいかなくなったり、同レーベルに所属する他のクリエイターが不祥事を起こしてレーベル自体のイメージが下がったりした場合である。最悪の場合、(今回のように)レーベル自体が消滅して自分の作品が販売できなくなってしまうということもありえるわけだ。これは大きなリスクである。
総括すると。
僕が考える自主出版の良いところは、レーベル所属によって少なからず消えてしまう可能性が高い、と考える。
作品制作に制限をかけられたり他者同士のトラブルで迷惑をこうむるリスクを負わなければならないというのは、つまり自由を失うということだ。創作活動をする上で自由を失っても良いのならば、それこそ公募などで結果を出し、出版社に拾ってもらってプロになった方がずっと良い。自分が好きな作品を書き、自分が好きなクリエイターさんと組んで一つの作品を作り上げることが楽しいのなら、一人でやった方が良い。
いろいろ言ったが、すべては僕の個人的意見だ。
今回消滅してしまった電子書籍レーベルも、実現できたとしたら色々と面白そうな部分はあったと思う。なくなってしまったのは、界隈にとって未来の損失と言わざるを得ないだろう。
まあ、そういう試行錯誤もあってしかるべきものだ。後発でレーベルを立ち上げようとしている人がいれば、是非いろいろな意見を参考にしてWEB小説界を盛り上げるものにしてほしいと願うばかりである。
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