アイデンティティ
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第1話 起点
晴天の霹靂。
まさに運命とはこれの連続だ。
予期せぬ時に予期せぬ事が起こる。
僕の運命はつい先日起こった。
「え、なんで?」
自分でも情けないくらいひょろひょろとした力の無い声で今日が始まった。
目が覚めると病室。体に繋がる管の数々。
頭に巻かれた包帯。そして点滴。
まだ明け切らない空に蝉が叫び、蝶が踊っていた。
隣のデジタル時計を見るに今日は八月八日。
僕が最後に日付を見たのは八月一日。
丁度一週間。僕は記憶がない。
八月一日。
高校が夏休みに入り一週間。
昨年までは自堕落な、夏休みを過ごした僕も今年はそうは行かず、受験に向けて勉強漬けだった。
せっかくの休みだと言うのに毎日塾通い、日々に飽き飽きしていた。
この日も朝食を食べ終え、ため息をついて家を出る。
恨みがあるかのように太陽が顔を近付け、人間を虐めていた。
歩いて20分程度の距離、いつもなら自転車で通っているが、その日は時間に余裕を感じ歩いて行くことにした。
と、僕の記憶はここまで。
そして目覚めて今日、八月八日だ。
自分の状態を観察するに事故が何かに遭ったのだろう。親はどうしているか。塾を休んでしまった。僕はどうなるのか。何が起こったのか。不安で仕方ない。
張り詰めた冷たい静けさの中、沈むように目を閉じた。
「ほらな!やっぱりこれが良かっただろ!」
はっと目が覚める。
女の声で少し乱暴な口調。明らかに聞こえた。
しかし、辺りは静まり返っている。
再度、時計を見ると時間は5分と経っていない。
聞こえたというより。聴こえた。
耳ではなく、頭の中で聴こえる声。
なのに自分の考えを無視してその声は話していた。
混乱していると更に声が聴こえる。
「なんて無茶な事をするんだ。危険すぎるぞ。」
今度は男性の声だ。
僕に起こった何かの所為で頭がおかしくなったのか。
「結果として良かったにせよ勝手な行動は良くなかったな。賭けに出過ぎだ。」
別の男性の声。今度はもう少し歳をとっていそうだ。
頭の中で自分の意図していない会話が聴こえる。気持ちが悪くなる。遠退く意識に身を委ね、すっと目を閉じた。
「布施さーん。朝ですよー。今日はどなたですかー?」
女性の声で目が覚めた。
今度はハッキリと声の主がいる。
20代半ばの看護師さんだろうか、白いナース服に身を包み笑顔でカーテンを開けている。
「ここは病院ですか?何があったんですか?」
「あら、またその話ですか?何度も言いましたがここは…」
またその話?
いや、その前に今日はどなたかって…
どういうことだ?
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