SAKURA DOLL 完全版3~揖斐の二度桜編

鋼桜

揖斐の二度桜編〈プロローグ〉

“それ”はただ浮いていた。


 何もない空間を半透明な球体が、シャボン玉のようにふわふわと漂い、表面を淡い虹色がグルグルと渦巻いていたが、時折形が歪んだり、色が変わったり、分裂している事でシャボン玉などではないと認識できた。


〈Notice "Queen of caterpillar" You're made indefinite freeze disposal.〉

(通告、“芋虫女王” お前を無期凍結処分とする)

 この空間にそんな表示が浮かび上がっている。


 しかしその言葉の対象である“それ”はなんら動揺するアクションも見せないまま、ふわふわと漂っては分裂したり集まったりを繰り返すだけだった。

 そして時折、四本腕の少女を出現させ、まとわりつくようなリアクションをしたり、自身を抱き上げさせるような動きをしていて、なんら痛痒を感じてる様子はなかった。


 言葉こそ発しなかったが、それら一連の行動は、何かをトレースするようで、あたかも人間が思い出を反芻してるかのようだった。


 ――フッ。


 どれくらい時間がたったのか、飽きる事なく一人遊びを続けていたが、突然世界が真っ暗になった。


 ……ぶるる。


 少しの光さえない真の闇の中、不安を感じたのか、ようやくそれは震える動きを見せた。


 バシッ! ……ヒュウー。


 軽い衝撃音のあと、一条の光が差し込み、停滞していた空気がそこへ流れる感じがする。


「―――――――――――――!!」


 その亀裂から激しく叫ぶ声が聞こえるが、不定形のそれには理解できないようで、ただただそこから動けずに留まっていた。


「――――――――――――」


 続けて叫び声が響くが、理解できないのでやはり空間に留まり、丸く自身を委縮させた。


「…………、――――」


 じっとしていると何事か呟き声が聞こえる。


 ビリッ!!


 その直後、空間の裂け目が破られ、光の輪郭をした少女が侵入してきた。

 それが手を伸ばして来るので、空間を逃げるが、恐怖から色が黒く変わった。


「――――――――」


 少女は声をかけるがやはり理解できないので逃げる。

 さらに追ってくるので、黒くなった部分を切り捨て、少女へ向けて切り離す。

 すると伸ばしていた手に当たり、その部分が黒く染まり出した。


「――――!!」


 少女は何か叫び、腕を抱き込んで動きが止まる。

 そのスキに逃げようとするが、気付いた少女が、腕を庇いながらさらに追いかけてきた。

 それに抗う為、内側から紫や赤、グレーと言った色を湧きあがらせ、分裂させて少女に放った。


「―――!! ――――!!」


 だが少女は体のあちこちを放たれた色に染められ、激しく涙を流し、光を失っても果敢にそれを追い続け、ついには顔半分が光るのみになった時、捕らえられてしまう。


 もがき暴れて逃れようとするが、自身の中心であるコアのような部分を握られてしまい、逃れる事が出来なかった。


「・・・・・・」

 すると少女は何事かを優しく囁きながら、そのコアの部分にそっと口づけをしてくれた。


 その瞬間、少女の情報が怒涛の如く流れ込んできた。

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