愛の行動(7)──愛の伝道師?
「まったく。君は最近、輪をかけておっちょこちょいだよな?」
病室のベッドの上で呆れ果てる
「おっちょこちょいっていうか……」と叶。「フリスビーが飛んできて、キッパータックさんの頭に直撃するところだったんですよ? 誰だって危険を防ごうと行動するはずです」
「突き飛ばすことはないだろ」馴鹿布は自分が突き飛ばされたというように仏頂面を作った。「『危ない』と言えばそれだけでキッパータック君は気づいて、自分で身を
「いや、僕はそんなに反射神経はよくないかもです」と恐縮するキッパータック。
「公園でフリスビーを投げる
「そんな、いいよ」とキッパータックは手を振る。「どうせこの後仕事だから、作業服に着替えるんだし。もうほとんど乾いたから」
「本当にすまなかったな」馴鹿布が真剣な顔で謝りだした。「叶君はご覧のとおり、こういうやつで、これからも迷惑をかけると思うが──」
「ちょっと」叶は目を丸くした。「せ、先生、なにを言おうとされてるんです?」
「なんだよ。ただ、『これからも迷惑をかけるだろう』と、まあ、わかり切ったこととしても、覚悟してつき合ってやってほしいと注意を
「遺言かと思ったじゃないですかー!」
「ゆ、遺言! なんてことを。ここは病院だぞ? その失敬な発言も含めて直す努力をしないか。さっきも私のシャツがどうこうって」
「治す必要があるのは先生の方でしょ。それに先生だって『わかり切ったこと』ってなんですか、その発言は」
「でも、」とキッパータックは二人のやりとりに笑ってから言った。「叶さんに突き飛ばされて、一つだけ良いことがありました」
「え?」
キッパータックは、樹伸と一緒に聴いた
「……その話の終わりに落語家さんが、主人公のタキチが蜘蛛になったユツをどうやって見分けたのか? というクイズを出して、その答えの鍵は『愛』かもしれないと言ったんです。僕もいろいろ考えたんですが、わからなくて。それでさっき、叶さんにフリスビーとぶつかるところを助けてもらって、ふと、もしかしたら──って答えが浮かんだんですよ」
「あ、愛……」叶はその単語の重要度に震えた。
「ふうむ」と考え込む馴鹿布。「蜘蛛の見分け方、ね──。で、浮かんだ答えというのは?」
「やはり、見分けなんてつかなかったんじゃないか、と思ったんです」とキッパータックは語りだす。「それでタキチは、
「なるほど。タキチは命を賭けて、愛を信じてみた──ということか」感心し、首を振る馴鹿布。「自分が逆の立場だったら、助けるだろうとも思ったんだろうな」
「そうですね」
「えー……」叶は両手で顔を覆っていた。
「ん? 叶君、どうした?」
「だって、私がキッパータックさんを必死で助けようとした、その行動でキッパータックさんが答えに辿り着いたってことは、私は『愛の伝道師』ってことじゃないですか」
「………………」
「え? なに、その沈黙」
馴鹿布はゴホンと大きく咳払いした。「君の場合は助けるつもりが誤って人食い蜘蛛の方へタキチを突き飛ばしたみたいな感じだよな、と思って」
「はあ!? 先生はあくまでB評価にしたいわけですね? 私の愛の行動を──」
「愛の行動ね……」
「あー、いや、えっと、それはそういう意味じゃなくて──」
看護師が部屋に入ってきたので、二人の掛け合いはそこで中断となったが、馴鹿布の調子はそこまで悪くなさそうだと、とりあえず
第13話「愛の行動」終わり
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