極上のスープ作りを手伝う(6)──まさかの来客
話はまた
「僕があの絵を気に入っているのは、イルカたちがすごく楽しそうに曲芸をやっているからなんだよ。もしかしたら、
「僕もときどき考えるんだ。蜘蛛はああいう生活をどう感じているんだろうって。彼らはもしかしたら、飼い主がベラスケスさんから僕に変わったことさえ気づいていないんじゃないかな。まだ芸でお金を稼いでいる人間とずっと暮らしているって思って働き続けているんじゃないだろうかと――」
「ただ単細胞なだけだろ?」レイノルドはまだテーブルに乗っていた。「蜘蛛に感情なんてあるかよ。電池で動いてるおもちゃと一緒さ。切れるまで動くだけ!」
「言葉が通じていそうだから、蜘蛛に直接聞いてみるのもいいかもしれないねえ」ピッポが言った。「君たち、人生楽しいかい?――蜘蛛に人生ってのも変だな。イエスなら丸。ノーならバツってね」
「それじゃあきっと、僕が考えてるとおりの結果になるだろうな」キッパータックは弱った顔をした。「それは蜘蛛の気持ちじゃない、僕の気持ちだ」
「まるで鏡だねえ」ピッポは天井を見やった。「そして君が働き者だから蜘蛛も働き者ってわけだ」
「じゃ、おまえ失業しろ」レイノルドが笑って言った。
ふー、と息をつくキッパータック。「嫌だよ。僕も僕の仕事を気に入ってるんだから」
キッパータックは自分の庭、第四番大庭に立った。ピッポの庭の大自然を知った今ではこの上なく質素でちっぽけに見える。ましてや彼には大切な友人であり家族でもあった蜘蛛が欠けている。
所在なく庭を歩いて、生えている草をむしっていたら、ばさばさという音がして、屋敷の出入口付近に置かれている
手水鉢は、この大庭には風雅が足りないといって、観光局の前の担当者が勝手にアイディアを絞りだして設置したものだった。舟形といわれる楕円形で、
「
蛇やら鰻やら出てきて混乱したことしか憶えていなかった。その手水鉢の水を嘴ですくって、レイノルドはガラガラとうがいをした。
「レイノルド、遊びに来てくれたんだね?」
「けっ、ここがおまえの自慢の大庭かー。人気最低ランクの、くたびれた――」言いながらレイノルドは首を回す。「泥棒も入らねーような
それから砂の滝まで飛んでいき、「これが唯一のしょぼくれた見せ物、砂の滝か。世界がいらない砂をおまえんちに少しずつ少しずつ捨ててるってわけだ」
そして追って近寄ってきたキッパータックに向けてポーズを作ると語を継いだ。「どうだ? おれがここにいると『掃き溜めにカラス』って感じがするか?」
キッパータックが口を開こうとしたとき、屋敷の奥から「ガタン!」という物音がした。屋敷の側面に回ってみると、緑のマントを羽織った人物が三人いた。一人は塀によじ登っていて、そばの人物が抱える茶色の壺を受け取るために手を伸ばしているところだった。
「まさか――」
侵入者全員、キッパータックの声に振り向いた。壺を持っていた小柄な人物は壺を頭に乗せて言った。「
「蜘蛛はおれたちがもらっていくぜ」塀に
「…………」
木片を立てかけそれを足掛かりにして、残りの二人も塀を越そうとしていた。キッパータックはどうしようかためらったものの、二人の背に向かって走った。
しかし、彼より早く追いついたのはレイノルドだった。壺を渡し終え塀に中腰になった女の体に体当たりし、木片に足をかけているもう一人の頭に激しい
「いてっ、なんだ、このカラスは!」
「追い払え! 早く!」
とうに逃げたと思っていた人物がまた戻ってきて、塀の上からスプレーをまき散らした。真っ白な霧で視界を塞がれるとすぐに、キッパータックはしなやかな、だがしっかりした感触の革製の武器のようなもので首を叩かれ、地面にひっくり返った。その後も周りを飛び交う雑多な音、熱い痛みとごちゃまぜの感触が体を襲ってきた。
意識を奪っていた暗闇がさっと引くと、辺りは湿っぽい土の匂いでいっぱいだった。茶褐色の風景の中、かさかさという乾いた音がする方へ視線を流した。
「おい、キッパータック、わかるか? いいかげん目を覚ませ!」
段ボール箱が微動して、しゃべっていた。中にレイノルドがいるらしい。キッパータックは横向きに倒れていて、肩がちぎれそうに痛くて、体をもぞもぞと動かした。両手両足とも、縛られている!
「こ、ここは、どこ?」
木の葉が積もった茶色い土の地面と木の幹以外、ここにはなにもなさそうだった。
第4話「極上のスープ作りを手伝う」終わり
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