極上のスープ作りを手伝う(2)──石蜜とは
二人はその後、キッパータックの蜘蛛の話などをしたが、ピッポがそろそろ材料を採取に行きたいと言ったので家を出ることにした。
キッパータックが先に出て待っていると、ピッポは大きなリュックを背負い、立ち乗りの電動小型四輪車で現れた。
「君の分もあるよ」ゆるやかに停まると、家の横のカーポートを指差した。「なにかに乗ってかないと、土地が広すぎるから行くだけで疲れちゃうんだ」
「かっこいい」キッパータックも四輪車を取りにいって、ぎこちない運転にはなったがピッポの真横まで来た。
「車より手軽でいいだろ? これ中古なんだぜ。日本のモーターショーで使われた展示品だったからお安く買えたんだ」
二台でしばらく進むと林が現れて、木々に挟まれた陰の道を走っていくことになった。気温がぐっと下がった気がした。ピッポは大方をオリーブ色が占める
「ほとんど純林っていうのかな。このように広大でいろいろあるように見えて、実際はほんの数種類の植物しかなくてね。家の周りには果物の木をいくつか植えてみたけど、環境が過酷なもんだから、ぴったり肌に合うってやつしか生き残れないみたいでさ。枯れちゃうんだよね。でもその分、シンプルにまとまった景色が
「こういう雰囲気、僕は嫌いじゃないけどな。国は〝荒野風〟って表現してるみたいだね。……ところで、これから採りに行くのは野菜なの?」とキッパータックは訊いた。
「ああ、材料の説明がまだだったね。……ん、君、車の運転に慣れてきたじゃないか。スープにはたしかに野菜も入れるけど、それはあくまで具。季節によって変える。野菜くらい店で買ってもいいしね。僕たちが採取するのは味の隠れた主役となる香料だ。絵でいうところの背景に当たる部分さ。背景、余白は重要な骨だよね。それだけで味わうものではないかもしれないけど、選択を誤ったならすべてを損なう可能性もある――あ、そろそろ見えてきた。スープに入れる五つの材料のうちの一つ目だよ」
枯れ草で覆われた丘に黒っぽい小さな
ピッポは四輪車を停めてリュックを
「量はどれくらい?」とキッパータックは質問した。
ピッポは友が持っている瓶に指を当てる。「半分くらいあればいいよ。僕も採るから。その前に、お楽しみの味見だ」
すぐそばの
無色透明の液をまじまじ見てからキッパータックはなめてみた。「甘い。砂糖水みたいだけど、焦げたような香りがするね」
「フフン、その香りに気づいたかい。この前来たお客さんは、中心にチョコレートが入った飴玉を思い出したって言ってたよ。僕は〈大地の香り〉と呼んでる。なんか、カブトムシになった気分だろ? とてもこんな炭みたいに黒く固まった切り株から染みだしたものとは思えない」
キッパータックの脳には
味の違いはよくわからなかった。なので、きれいに澄んでいるものをすくって瓶に流し込む。
十分後、ピッポは二本の瓶を満足そうにリュックにしまった。「あとで蜘蛛のおやつ分を渡してやるよ」と約束してくれた。
電動四輪車のハンドルを握って、片足だけ乗せ、ピッポは遠くを指差した。「次はあの展望台の向こう。僕のプライベート・ケーヴがある」
観光客のために設置したという展望台を通り過ぎて、大きな岩穴の前へ辿り着いた。鉄柵で囲ってあり、そこに「立ち入り禁止」の札が下がっている。ピッポは柵の扉の
「小さな
「先住者って、なにが
「なあに、心配いらないよ」
洞口の横にあったスイッチをガチャリとおろし、洞窟内に明かりを灯す。次にピッポはリュックから小型のこぎりを取りだし、
「のこぎりは一本しかないから、二つめの材料は僕が採るね。君は漆黒の歳月の
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