君、分かっているね

誠 育

第1話気のいい早川のアルバイト

「君、分かっているね」


一、気のいい友人早川のアルバイト


宮城県の松島から上京し、大学に入学してから三年、就職も内定し、残りの学生生活をそれなりにエンジョイしている。十分満足してはいるが、今の自分に足りないもの、強いて言えば、残念ながら彼女がいないことぐらいだろうか。

 昔は結構もてたつもりだったが、どうしてか長続きしない。都会の女性とは相性が悪いのだろうか?ほんの些細な誤解も解決できないまま、はい終わり、そんな事の繰り返し。何にしても就職までには彼女を見つけたいと思っている。どんな人がいいって?俺には理想の女性なんていない。

 こんな事を言っている人がいる、男はお袋が、女は親父が理想だって。

俺はそうは思わない。理想の女性というのは、

人を好きになる前から決まっているものではなく、人に恋をし、愛する人が出来たら、その人が理想の女性になる。俺がその時愛している女性、その人が俺の理想の女性となる。そう思える女性が表れるのはいつの事になるのか、早く表れてほしいと思っている。

 

 早川雄二、俺の仲のいい友人の一人だ。三男坊なのだが、親の気まぐれか訳があったのかはわからないが、次男には二という漢字を使わず三男坊に使ったという訳だ。頭もよく、才能もある、兎に角いい奴だ。その早川がやって来て、

「なあ木村、頼みがあるんだけど、聞いてくれないか?」

「えっ?頼み?お前の頼みっていつもろくな事ないからな…」

「そんな事言うなよ、お願いだからさ」

「この前だって…」

雄二に代わって、財布や小銭入れの販売のアルバイトに行ったことがある。ただ、立っていればいいからと言われ、行ったのだが、その社長というのがちょっと変わっていて、俺に仕事をさせてくれないのだ。商品の陳列で少しでも綺麗に見せようと並び変えると、元に戻されてしまう。お客が来たから、接客しようとすると、手で押しのけられてお客を奪われてしまう。そう、そばに立っていることだけが俺に許された仕事だった。その立っているだけの時間が退屈で、退屈でどうしようもなかった。ただ、ただ、帰りの時間を待っていた。そして終了。車に乗ると、

「疲れたでしょう。寝てていいよ」

と言われ、朝早かったこともあり、ついつい、居眠りをしてしまった。車の揺れでうとうとという状態だったので、社長の言葉が聞こえてきた。

「全く今の若い奴は、仕事は何もせずに車に乗ったらすぐに居眠りを始める、いい御身分だね!」

 仕事は何もせずじゃなくて、なにもさせずでしょ!帰りの車に乗る際に、寝てていいよって言ってたじゃん。そう言いかけたが、またバイトに来る早川の事を考え、寝たふりをして帰路に就いた。何もしないで日当を貰うのも気が引けたが、遠慮なく貰っておいた。

バイトなんて雇わなくても、一人で十分じゃないのって思ったけど、それも心の中にしまっておいた。そういうバイトの頼みがあったのだ。

「あれは俺が悪かった。今度はまともだから、な!」

「まともって…わかったよ、それで何をすればよろしいんでしょうか?」

「実は明日のバイト、俺の代わりに行ってきてほしいんだ」

「バイト?明日用事があっていけないの?」

「就職の事で、教授に呼ばれててどうしても行かなきゃいけないないんだよ」

「都合悪いんだったら、休んじゃえばいいじゃんか」

「それが駄目なんだよ、シフトがあってさ、休みたい時には、誰か代わりを入れるって決まりがあるんだよ」

 こいつにしては必至こいてるなと思いながら、返事を渋っていると、

「今度は俺がお前の頼みをきくからさ、な、

だから、頼むよ!」

「わかったよ、やらせていただきます。ところでそのバイトって何屋さん?」

「パン屋さん」

「パン屋?パン屋なんて、俺何も知らないよ!」

「大丈夫、簡単だからさ!なっ、頼むよ。」

「ああ」

「出勤は朝6時、時間厳守な!じゃあな」

「朝6時?おい!ちょっと!わかったよ」


 こうして俺は寝ぼけ眼でパン屋さんのバイトへと向かった。

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