第38話 絵画、薬理学、あんぱん
尾行にはあんぱんが必須だというのに、俺のダチは
これじゃ諦めるか、あんぱんをここでかっ食らうしかなくなるじゃねえか!
ちくしょーめー!
奴はきっと尾行に気づいてここを選んだのかもしれない。
なんて性格の悪い奴なんだ!!
普通カフェテラス行くだろ!!
コンビニで新発売のドカ食いあんぱんなんか買うんじゃなかった。
これ普通のあんぱんの四倍くらいデカいんだよ……。
もしかして奴はドカ食いあんぱんにさえ気づいていたのか!?
なんて地獄耳……いやこの場合、なんだ、鉄面孔目? 千里眼?
ともかく、なんて恐ろしい奴なんだ!
俺は仕方なくドカ食いあんぱんを可及的速やかに早食いした。
牛乳を一緒に買ってなかったら即死だったぜ。
体重が百十キロを超える予感を覚えつつ、俺は尾行を再開した。
へへへ……腹が重いぜ……。
刑事も大変なんだなあ。
しみじみと思ったが、食べ過ぎでちょっと気分も悪い。
食事気絶したりしないだろうな? なんて不安もよぎる。
のそのそと動きつつ、尾行を再開した。
奴ら二人は企画展示室にいるはずだ。
さっき『本草学大全展』に行きたいって言ってたもんな。
それにしても、なんだよ本草学って。
デートで行く場所じゃねえだろ!
んで彼女(?)のほうも二つ返事で行く行く! じゃないだろ!
本草学が何かわからねえからさっきLINEのカップル撲滅教団のトークで聞いたら、薬理学のご先祖様だと。
薬理学ってなんじゃい!
余計わからなくなったじゃねえか!
ともかく、俺も『本草学大全展』のチケットを購入して入場した。
カップルはほとんどいない。そのうちの九割が、おじいちゃん・おばあちゃんか。
まあ題材が題材だもんな……。
なんか朝鮮人参とか陳皮とか甘草とかよくわからん草がいっぱいだ。
絵画もあるが解説にあったボタニカルアートってなんのことかわからんしスケベエな絵もない。
わりとなんか精神が削れてきた。
アイツら、よく楽しめるな……いやホント帰りたい。いや帰る。もう尾行はやめだ、やめ。
ドカ食いあんぱんなんか手に取るんじゃなかった。
◆ ◆ ◆
密かに興味のあった『本草学大全展』を選んで正解だった。
和製デブゴンの尾行をなんとか振り切れたようだからね。
彼は悪い人ではないけど、カップル撲滅教団なんていう恐怖の秘密結社の一員である以上、遠ざけたほうが僕らの身のためだ。
「それで、これからどうするの?」
七瀬が言った。今日も彼は凄まじく清楚にキュートだ。
女装によって除霊能力を強化するという変わった技の持ち主の七瀬は、しかし新入りにして僕ら超心理現象対策委員会の重要なメンバーになっている。
「直接、対象に接触したいところ……なんだけど、山鯨さんと海鹿さん組が近くにいるっぽいから、二人に任せることにしたよ」
「そうなんだ、ベテランのほうが大事にならない感じ?」
「いや、危機状況レベルが急速に上がりつつあるから僕らの参戦も考えておいてって海鹿さんは言ってたんだよね。二人だけじゃ足りない可能性も大きい」
「じゃあ、早めに切り上げる?」
七瀬が首を回した。いつでも戦えるようだ。
「君は可愛いのにウォーモンガーなんだよねえ、そこは治してほしいかな」
苦笑する僕に、彼はキュートなスマイルとサムズアップを返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます