第9話 優しさへの執着
ロックとナイドの戦況は膠着状態に陥っていた。ナイドはコンテナや配管を飛び移りながら【MIDNIGHTER】を操り弾丸を発射。ロックの方は氷柱を放つ事はできるが防御または回避され、一撃も与えられていない。
「このままだとそっちのエネルギーが切れる。無様な結末を迎えそうだね」
【OVERLOADING MODE】は通常よりもエネルギーの消費が激しい。ロックも当然、理解はしていたが攻撃の手を止めてしまえば自分だけでなくナイアにも危害が及ぶと考えていた。
(どうする……!? このままだったらダメだ。だけどナイアに協力を頼むなんて、あいつを殺そうとしてる今の俺にはできない! なら【GLORY】も使うか……?)
ナイドへの殺意は確かなもの。【GLORY&OVERLOADING MODE】で風と氷を同時に仕掛ける事ができれば決め手になり得るが、やはり多量のエネルギー消費の心配があり、1度避けられてしまえば何もできなくなる危険もあった。けれども他に方法は無いと腹をくくった、その瞬間。
エンジン音と共に黄色い閃光が、ナイドの背後目掛けて突撃した。
「ラディっ!?」
驚愕したナイドだったが咄嗟にコンテナから飛び降りる事で突進を避けた。ナイドが名を叫んだ通り、【DESTRUCTION】に跨るラディが突然にやって来ていた。ロックの目の前に車体が着地すると、ラディの後ろに乗っている人物と目が合う。
「俺も来たで! ロック!」
「ボクも、今は力を貸そうと思う」
「ラディ……!? 大丈夫なのかレイジ!?」
「そうみたいやな」
バイクから降りたレイジは笑ってラディの肩に手を乗せた。ロックにとっては唐突すぎる援軍で、いきなり信用が出来る訳がなかった。
「キーネを殺す必要なんてなかった……やっぱり、ジャムがいなくなってから色々と狂っちゃったんだよ。ジャムはみんなの中心みたいな存在だったし」
ナイドに目をやったラディは呆れている。ジャムは組織のまとめ役に徹しており、ナイドやラディを勧誘したのもジャムだ。そんな彼が死んだ事でナイドとラディの間を繋ぐものが薄れていた。
「俺がジャムを殺したせいなのか?」
「えっ、この状況でも謝るつもりなのロック? 相変わらず優しすぎるなぁ」
するとラディもバイクから降り、カプセルに収納すると。
「【GLORY MODE】に変えた方が良いんじゃない? ボクもノってあげる」
「……分かった。【GLORY MODE】!」
ラディの提案通りに【ROCKING’OUT】の左にはサイドカーとオートバイが現れる。サイドカーが2つのバイクに挟まったこの形態は、安定した運用には3人が乗り込む必要があった。
「ナイドにキーネを殺すよう指示したのは、ボク達のリーダーだ。きっとキーネの行動がリーダーの逆鱗に触れたんだと思うけど……ボクには理解できなかった。だってキーネも──」
「黙れラディ……! こうなったらお前も殺してやる!」
高圧的になったナイドだが戦力に差ができてしまい焦っているのは明らか。ラディが【GLORY MODE】のオートバイに乗り込むと、続いてレイジもサイドカーへ飛び乗ろうとしたが。後ろで様子を見ていたナイアの声によって阻まれる。
「ちょっと待って! 私が、乗るから……」
「すまんすまん。せやな、俺よりもナイアの方がええ」
ロックの殺意、それに対するナイアの想いを聞いていないレイジは軽い態度。ナイアとすれ違い席を譲った。
「ナイア……力を貸してくれるのか?」
「うん。見てるだけじゃいけない。兄さんを死なせずに倒すためには、私もやらなきゃ」
両腕に装備していた車輪が回転し始める。攻撃の意思を見せるナイアは、やはりナイドにとっても想定外だ。ロックとラディがハンドルを握りエンジンをふかす。
「うるっさいうるさいうるさい!! 黙れぇっ……いつも僕の邪魔ばかり!」
ナイドは過去にも【GLORY MODE】に敗北を喫している。その際はモントがオートバイを操っていたが今回はラディ。電撃も加えられてしまえばナイドに為す術は無きに等しい。
思い切り加速したバイク達は正面からナイドへ突っ込んだ。ナイドは慌ててコンテナに飛び乗り、ロックの頭を撃ち抜こうと弾丸を乱射させたがことごとく外れる。
「兄さん、私はね……兄さんのおかげで生きてこれた事自体は感謝してる」
右の車輪を投擲したナイア。コンテナから足を離したくないナイドは【JUMP COMMUNICATION】で打ち落とす。
「でも詐欺で手に入れたお金で私を育ててた事は許せない。他人を騙して、それで生きるなんて……!」
「どんなお金でも価値は一緒だと言っただろう!? 過程なんてどうでもいい! 大事なのは裕福に贅沢できる結果なんだよ!」
追撃として左の車輪も投げられた。これも打ち落とされるが、その間にバイク達はどんどん迫っていく。2つの車輪は地面に跳ね返るとナイアの元に戻った。
「ナイド……これで今度こそ終わりだ!」
すると突然の急ブレーキ。その反動と、『緑色』である【GLORY】の力で溢れ出る風がロック、ナイア、ラディを跳躍させた。
「【DESTRUCTION】!」
最初に仕掛けたのはラディで、カプセルからバイクを出現させた。空中で乗車し電撃と共に【MIDNIGHTER】をはね飛ばす。弾丸も発射はしていたが黄色のボディには傷一つ与えられていなかった。
次に向かったのはナイア。ナイドとからすれば妹をブッチャーナイフで切り裂く訳にもいかず、躊躇したところに車輪が刺さる。ナイフを持っていた右手には回転し続けている車輪が直撃、ナイフを落とすだけでは終わらず。彼の右足を狙った打撃も行われ身体は情けなく膝から崩れ落ちた。
「があっ……」
「ナイドぉっ!!」
最後にロックが突っ込んでいく。ナイドの目の前に着地すると、固く握られた右の拳で顔面を殴りつけた。骨が折れたような重く短い音が鳴り、ナイドは仰向けとなって倒れる。
その光景を見ていたレイジはついに決着がついたのだと安堵した。すると彼の背後にある錆びたドラム缶の陰から顔を出す少女が。
「終わった……?」
「あぁマイ、これでようやくナイドもお縄になるんや」
マイだった。寝起きという事もあって声は小さかったが、彼女の心配はラヴちゃんに向いているまま。
「ラヴちゃんも近くに居るんだよね? モントとタスクも、イーサンとダムラントも一緒に……居るんだよね?」
「それは……」
「何か私に、隠してるの?」
ラヴちゃんの件について、レイジとラディは説明せずにマイを連れて来ていた。案の定マイの不満を買ってしまい、どう話せば良いのか黙って考え始めたその時。倒れたナイドにロックが近づき、鼻血を垂れ流す顔を見下ろした。
「ナイド……」
パンチ一発だけでは、ロックの中にある憎悪が満足できずにいた。イアを失った直後は首を締めようとしたところを思いとどまっていたが、それ以降にナイドによって生まれた被害。ロック達を傷つけ、キーネも殺害したナイドへの憎しみが今。爆発しそうになり。首元を掴むと右手だけで持ち上げた。
当然、ナイアは制止していたもののラディは全てを委ねている。
「だっ、ダメだよロック!」
「……好きにすれば良いと思うよ」
ナイドの足が浮く。ロックが手を離せばコンテナの高さ約2.5mから地面に叩きつけられる事になる。そうすれば命が必ず絶たれるという訳ではないが、【ROCKING’OUT】がすぐそばで停まっている。ナイドを落とし、バイクを発進させコンテナとの挟み込みで圧死させる事も可能ではあった。
「俺は……俺は!!」
ナイアがロックの背中を引っ張ろうとした時にはもう遅かった。ナイドが地面に落ち、鈍い音がその場の全員の耳に入る。
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