第8話 交差する赤と黒の想い

 スケートボードの【FINAL MOMENT】に飛び乗ったモントはすぐさまタスクに向かって走り出した。タスクの体内に取り付けられた爆弾の解除方法などは到底思いついておらず、自分の思うがままに行動している。


「勝手に走り出したけど……いいの?」

「タスクが襲ってくるなら迎撃する。確かに爆弾をどうやって解除するかなんて俺達には思いつかないけどな、結局戦う以外に選択肢は無さそうだ……絶対に死なせないぞ」

「……うん、分かった!」


 顔を見合わせたロックとナイアは結論を出し、互いに頷くと彼らも走り出す。


「ジャムを失った今、きっと『MINE』もタスクを手離したくないはずだ! 現に今、こうやって戦わせている」

「兄さんとラディも倒せば、リーダーに気づかれるまでは爆破されないはずだよね。イーサン局長達や、マイちゃんの力も借りればきっと突破口は見つかる!」


 仮にイーサン達がナイドを倒し、ラヴちゃんがラディを倒す。そしてロック達がタスクも制すれば、この策は有効なものではある。あくまで一時的な時間稼ぎではあるが、『MINE』のリーダーが未だ不明なため他に手立ては無かった。


「モント、それはウチを殺す危険性も孕んでるって……分からないの?」


 タスクは動揺しているものの戦闘態勢は崩さず、迫り来るモントへと右足によるハイキックを撃ち込んだ。対しモントは【LIAR】のものと化した右腕で再びパンチを繰り出す。【FINAL MOMENT】の加速も乗り先程よりも強烈な威力。たまらずタスクは怯み、その隙をモントは見逃さない。


「【ULTRA INFORMATION】!」


 すかさずスケートボードを測定器機であるメジャーに変形させ、ナイドを捕獲した時のように縛り付ける事を試みる。モントの足元から伸びる帯だったが、タスクは左足に装備された【FLAME TUSK】の踵にある刃部分を、支柱にするとまるで自身をコマのように見立てその場で回転し始めた。


「これはタスクさんの力……!」

「モントも知ってる、よねっ!」


 先程も壁や天井に足を付けていた。彼女の【FLAME TUSK】の能力は重力操作の一種。それらの応用で、常人ならば到底叶わない回転は右足の蹴りも強力にする。伸びてきていた帯を難なく弾き飛ばし、更に続けてモントも狙った。


「【FINAL MOMENT・BE THE ONE】! 【JUMP COMMUNICATION】……ッ! うぁぁぁぁぁぐぅ」


 新たな能力名を口にし、今度は左腕を変形させたモント。左手付近に真っ黒な闇の煙が生まれ、そこから無数の腕が現れ彼女の手首や肘を掴むと思い切り引っ張った。間もなく引きちぎられるも、出血はせず痛覚だけが残る。煙に消えた腕とは入れ替わりにブッチャーナイフが出現した。


「はぁぁぁぁ!」


 腕全体がちぎれる痛みには耐えきれず涙が漏れた。しかし左腕を突き出し、ブッチャーナイフの刃体で【FLAME TUSK】の刃を防ぐ事には成功。お互い震えたまま譲らなかったが、モントの背後からは車輪と氷柱つららが。


「モント! お前の覚悟が」

「私達にも聞こえたよ!」


 ナイアとロックが放った車輪と氷柱は、タスクの右足に命中。衝撃により力が抜けた事で、タスク自身も押されゴロゴロと転がった。モントの右にナイアが立ち、左にロックがバイクに跨ったまま現れ、3人でタスクを睨む。


「ウチの知らない間に、そんなに強くなって……」

「皆さんのおかげです。ロックさん、ナイアさん、レイジさん、ロォドさん。それとキーネさんも。みんなみんな、僕の大切な人。タスクさんも……含まれてますよ」


 モントは【ULTRA INFORMATION】を引き寄せ【LIAR】の右手で掴んだ。

 改めてタスクも『大切な人』であり、自らを強くしてくれた存在である事を告白している。無垢な、優しくしてくれる人には誰にでも懐く子供の意思。けれどもその意思が、タスクの心も動かそうとしていた。



 *



 駐車場にて、ナイドはイーサンとダムラントの2人に苦戦を強いられていた。ジャムの形見である【JUMP COMMUNICATION】は早々に1本を破壊され、数の不利もやはり影響が大きい。


「このままじゃ流石にまずいか……」

「諦めろ。そして罪を清算しろ」


 駐車している軽自動車のトランクにもたれかかり、疲労した様子を晒すナイド。胸の内部は【INSIDE】の“ボートの船首に触れたものの内部を破壊する”能力によって崩壊が進んでいる。既に限界に近かった。


「まぁいい。僕さえ生き延びていれば、【MIDNIGHTER】の能力でどの道そっちが追い詰められるんだ。ラディ!」

「逃げられたら本格的にヤバそうっスね」


 尚もダムラントは【MIDNIGHTER】との格闘戦を繰り広げている。ナイドの事を舐め腐っていたものの、仕留めきる事はできず『MINE』の底力を思い知っていた。ナイドは背後のエンジン音に向けて声を上げたものの、ラディもやはり苦戦中。


「やっぱり結構強いよこの人〜でも、逃げる事自体はできるかな!」

「わたくしはお嬢様をお守りするだけですから、無駄な追走はしませんよ」


 病院の玄関扉付近。ラディが着用している黄色のツナギには複数の切り傷があり、ラヴちゃんが振る【SAMURAI】をまともに受けた事を表していた。しかしラヴちゃんの方は無傷。バイクが起こす砂埃を被っているだけ。


「それじゃ、おコトバに甘えて! 逃げるよナイド、タスク!」


 Uターンする【DESTRUCTION】。飛び散るガラス片からマイを守るために、ラヴちゃんは彼女を後ろ手で背後に抱き寄せた。ガラス片はラヴちゃんの想定通り襲ってきたが、【SAMURAI】による高速の斬撃で全てを切り刻んだ。


「チィっ……マイの付き人! 手伝う気はないのか!?」

「彼女の仕事じゃないから仕方ないのかもっスねぇ」


 気持ちを切り替えたダムラントは素早い槍の一突きによって、【MIDNIGHTER】の胴体に傷をつけた。しかし時すでに遅し。ラディの後ろに飛び乗ったナイドが、倒れゆく【MIDNIGHTER】の長い左腕を掴み持っていった。


「タスク、これに掴まれ!」


 再び病院内に突撃した【DESTRUCTION】はタスクの迎えを試みる。既に乗り込むスペースは無かったが、長い腕に掴まれば逃亡は可能。声を聞いたタスクはハッと顔を上げ、モント達に背を向けた。


「ごめんねモント……やっぱりウチは、逆らえない」

「タ、タスクさん!」


 ローラースケートのホイールの回転速度を最大まで上げたタスクは早々に長い腕にしがみついた。近くにはラヴちゃんとマイが座っていたが、マイの身体に異常が生じていないか、ラヴちゃんはベタベタと触り確認している。


「マイの付き人! お前程の実力者ならば簡単に取り押さえられるだろう! 早くしろ!」


 そう叫びながらイーサンは鬼の形相でボートである【INSIDE】を動かし、逃げていく『MINE』一行を追う。ラヴちゃんは一切応じず、振り向きもしなかったが。


「っ! 局長、危ないっス!」

「なっ……!?」


 追う事だけに意識を向けていたイーサン。駐車場から【DESTRUCTION】が去ろうとした瞬間、【MIDNIGHTER】の口が光る。凶弾が発射されてしまった。ボートは急には止まれない。イーサンの額に弾丸は迫っていく。

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