第7話 新たなる漆黒の力

「ジャムを倒したって聞いたけど、やっぱり強いね君達」


 病院内を縦横無尽に駆け巡る赤髪の女性に対し、ロックとナイアは苦戦を強いられていた。正面からの戦闘を好んでいたジャムとは違い、彼女はヒットアンドアウェイを繰り返す戦法。ロック達には殺す気が無い事も状況悪化を手伝っている。


「『MINE』のメンバーはリーダー含めて5人のはずだ……ナイド、ジャム、ラディ、そして“外見を若返らせる”能力を持つ奴らを合わせてだ。そのどれにも当てはまらないお前は、やっぱりモントが言っていた“人質に取られた大切な人”なんじゃないのか?」


 天井にぶら下がる赤髪の女性を睨みながら、自身の周囲に氷を漂わせ、防御体勢に努めるロック。レイジの発言から考えついた疑問をぶつけた。今までモントの口からその人物の特徴は一切語られていなかったが、状況証拠は揃っていた。


「支離滅裂……相変わらず、話が読めない。ウチは確かにモントとは知り合いだったけど」

「だったらそうなんじゃないの!?」


 痺れを切らしたナイアはロックの隣に立ち、漂う氷に【WANNA BE REAL】の右の車輪をかざした。回転が始まると氷が巻き込まれ、更に細かくなると緑色の風と共に車輪に纏わりつく。


「うるさい子……さっさと黙らせてあげる」


 赤髪の女性は【FLAME TUSK】で天井を蹴りナイアに襲いかかる。かかと部分にある刃から溢れ出る火炎が美しい曲線を描いた。右足を高く掲げ踵落としの体勢。危機感を覚えたナイアは車輪を放出する。しかし炎と氷の関係はやはり前者が有利だった。風の力併せても尚、【FLAME TUSK】が勝利し車輪を弾き飛ばした。


「なら左の車輪で!」


 回転を続けさせていた左の車輪をナイアは放出。炎は風で揺らぐものではあるが、【FLAME TUSK】から溢れる炎は生半可なものではない。そして落とされる踵と、車輪の激突。両者共に譲るつもりはなかったものの、【FLAME TUSK】は左足にも装備されている。それによる蹴りあげが行われてしまった。両足による上下からの圧力は強力で、またしても車輪を弾いた。


「まずっ──」


 このままでは炎の牙がナイアの首元を貫いてしまう。絶体絶命の状況であったが、彼女の視界右端から黒き影が割って入った。


「……モント!?」


 一番に驚いたのは赤髪の女性。同じ色をしたモントのマフラーがなびく。確かに割り込んだのはモントだが、様子が普段とは違う。呼吸を乱しながら、更に腕の形状が変化していた。

 切断されたはずの右腕が、【LIAR】のものになっている。【LIAR】の腕によるストレートパンチが【FLAME TUSK】の刃に撃ち込まれ、逆に吹き飛ばし返した。


「大丈夫っ、ですか……ナイアさん」

「うん、助かったしありがとう……だけどモント、それって」


 竜巻状の黒色をした鎧はまだしも、モントの腕自体が骨の様になっている。その答えはつまり。


「これが僕の、新しい力……っ! 四肢を人形ドールに変形させる事ができる。後で戻せるのですが……ちぎれる感覚が、痛みが……直に襲ってくるんです!」


 現にモントは痛みを堪えていた。右腕はジャムに切断されていたが、無傷だった肩の部分も変形してしまっている。他の物体と入れ替えられる痛みは壮絶なもので、涙目になりながらも【LIAR】のものに変貌した腕を見せた。


「そうか……殺された皆はその力を求めていたのかもね」

「ナイドさんとジャムさんに殺された、僕が居たマフィアの人達……。彼らが望んでいたのが、こんなものだなんて。苦しすぎるのに……こんなのってないですよ、“タスク”さん!」


 赤髪の女性の名はタスク。発言の瞬間、タスクの目にはモントの表情がはっきり見えた。失った左眼の箇所には眼帯が巻かれており、激戦の経験を詰んだ事も察する。


「僕にとって、あなたは大切な人……今からでもきっと遅くはないはずです。ロックさん達は僕を信じて、許してくれました! タスクさんもどうか……『MINE』から離れてください!」

「……なるほどね。モントはウチの事をそんなに想ってくれてたんだ。たった、一週間程度の付き合いだったのに」

「い、一週間……?」


 今までのモントの発言からして、タスクとの付き合いは長いものだと思っていたロックは驚愕。しかしロックからして見ても、モントとの思い出を振り返ってみれば不思議なものではなかった。

 彼女はロックと出会ったその日の内に考えを変え、『MINE』を離れロック達と行動を共にする事にした。更に【GLORY MODE】完成への協力、左眼を失ってでも反抗する意思を見せた。これはたった2日間の話。


「ジャムも言ってた。浅い付き合いなのに、相手を信用しきる……そこがモントの悪い所だって」

「そんな事は……あらへん!」


 ため息を吐きながらのタスクに対し、レイジの声が響く。彼はモント達の背後にある病室に隠れており頭だけを出す情けない絵面だったが、反論自体ははっきりと決める。


「モントが俺達を信用してくれなきゃ、ロックもナイアも、俺もとっくに死んでたやろ。今の俺達が生きていられるのは……間違いなく、モントのおかげなんや」

「レイジさん……」


 モントは少しだけ振り向いて右眼を彼の方へやり、微笑みを浮かべた後。ぐっと歯を食いしばりタスクを睨む。


「タスクさん、あなたはこんな僕にも優しくしてくれて……そばに居てくれた人でした。お願いです。『MINE』から離れて……!」

「言語道断。そうしたくてもできないの。だってウチの体内には、小さな爆弾が仕込まれてるから。起爆スイッチはナイドとラディ、それに『MINE』のリーダーが持っている……つまり、ウチには逆らう選択肢なんて無い」


 タスクは怒りが篭った表情。自身の胸部を人差し指で突きながら言った。ロックとナイアは躊躇し一歩も踏み出せなかったが、モントは三歩前に出る。


「それでも僕は……止まりません。その爆弾を解除する方法も、一緒に探しましょう」

「……はぁ。例えここでナイドとラディがやられてもね、まだリーダーが残ってる。ウチも顔さえ知らない謎の人物。もう、後戻りなんて出来ない」


 タスクは再度【FLAME TUSK】に火を灯し、モントにすら殺意を向け始めた。対しモントも戦う意志を見せ、人形ドールの名を呟きスケートボードを出現させる。


「【FINAL MOMENT】……これがあなたとの最後の衝突である事を、祈ります」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る