第5話 乱戦の中で
赤髪の女性は無表情であり、レイジの問いかけには知らんぷりを決め込んだ。ローラースケートのホイールは【FINAL MOMENT】のものと同じく彼女の意思で回り出し加速。ロック達に襲いかかった。
「【ROCKING’OUT】!」
「【WANNA BE REAL】!」
ロックとナイアも自らの
「舐められたものね」
赤髪の女性は飛び上がり、ナイア目掛けて右足による回し蹴りを行った。ローラースケートの【FLAME TUSK】の踵部分にある刃には僅かながらも火炎が生まれ、両の車輪と激突。斬撃をまともに受け止めたものの、車輪は壊れずに守りきる事ができた。
「ロック!」
「あぁ!」
ナイアは合図と共に【FLAME TUSK】を押しのけ、左方向に移動する事で背後のロックに後を託した。隙が生まれた赤髪の女性に向かって、【ROCKING’OUT】は加速する。距離は離れていないため威力については余り期待できなかったが、ひとまずの応戦としての答え。
「力比べじゃやっぱりウチは不利だよね」
彼女本人の身体は即座に動けなかったが、意思によって
「獅子奮迅。数で劣っていても負けはしない」
「何をするつもりだ!?」
寸前でバイクの突進を回避した赤髪の女性は、壁に激突する瞬間に飛び跳ね、ローラースケートのホイールを壁に接触させた。すると、まるで壁を地面のように捉え垂直にバランスを保つ。更にホイールの回転を続け、天井にまで辿り着くとそれはコウモリのような体勢。ぶら下がっていた。
「ジャムには負けたけどね、あなた達には負けないよ多分」
「頭に血が上っちまうやろそれ……」
戦いを眺めていたレイジは呑気な推測。ロックがバイクを踏み台にしてからのジャンプで、ようやく手が届きそうな天井だ。ナイアは車輪を飛ばせるが、ロックには彼女を攻撃できる手段が限られてしまう。
「心配してくれるの? ありがとね。優しい子は好きなんだよ、ウチは」
「それなら【OVERLOADING MODE】だ……!」
「へぇ……面白いじゃない」
*
「ラヴちゃん、私の事は好き?」
「えぇ、大好きですよ。愛しています」
ラディと睨み合うラヴちゃんに対し、マイは突然の質問。即答と共に彼女の口角は上がり子供用のおもちゃの刀剣にも変化が訪れる。大きさが増していき、模擬刀に。
「この【SAMURAI】の能力は──」
「“質問に対し本音を返す事で、本物の刀に近づいていく”能力だったり?」
「ご名答」
ラディは食い気味の質問。彼の推測通り、模擬刀は大きく、煌びやかに変形していき真剣となった。
「まず第一形態は単なるおもちゃ。そして第二形態は模擬刀。更なる第三形態は真剣。質問をしてくれたあなたのおかげですよ?」
逆手持ちに切り替えたラヴちゃんはラディにも感謝を送る。刀剣は緑色の風を纏い始めた。
「へぇ〜……でもこっちにはナイドもいるんだ。そっちに勝ち目は無い気がするんだけど」
「まぁ、そうだね」
駐車場の方からナイドが歩き迫る。崩壊した自動ドア付近に立ち、ブッチャーナイフである【JUMP COMMUNICATION】を杖のように扱っていた。
「いや……そうもいかないみたいですよ」
ラヴちゃんはナイドの更に奥の方を指さした。振り向いた彼らの目に映ったのは、焦った様子のイーサンとダムラント。
「ラディ……と、あいつがナイドだな?」
「ヤツらのカプセルが保管してある車両を警備してた職員達、やられちゃってるっスね〜……どうするっスか? 救助か、排除か」
両者共にカプセルを取り出した。イーサンは『青色』であり、ダムラントは『黄緑色』だ。
「走り抜けるぞ【INSIDE】!」
「【KINGDOM・KNIGHT MODE】! 本職は排除を選びますよ」
イーサンの【INSIDE】はボートレースで扱われているボートの姿をしている。地上であるにも関わらずボートの周辺には常に水が漂う。
対してダムラントの【KINGDOM】は異質な
「分かった。ナイドを最優先に、出来れば命は奪わずに捕らえるぞ!」
「【KINGDOM・KNIGHT MODE】は絶対装甲の鎧と、最強の槍……急所は外してあげるっスよ」
植物で形成されているダムラントの装備。堅牢の雰囲気は確かに感じられるもので、木の幹と見られる部分は苔も生えていた。対し【INSIDE】は機械的な印象を与え、地上でのボートには違和感もある。
「2人の相手は僕がしよう」
「ならボクはラヴちゃんだ!」
ナイドとラディは背中合わせの状態となった。【DESTRUCTION】のエンジンは轟き、【MIDNIGHTER】の口には光が集まっていく。ラディは笑顔を崩していないが、ナイドは決意に満ち溢れた険しい表情。ジャムが死んだ事を一番引きずっているのは彼だった。
「撃て【MIDNIGHTER】!」
最初に行動したのはナイド。銃弾が放たれた先はダムラントの頭部だったが、あっさりと槍で弾かれてしまった。
「あのヘンテコロボットは本職が対処するっス。局長はもちろん」
「言われなくても分かっている。ナイド本人を狙う!」
今まで数々の
「これは骨が折れそうだ……」
ナイドは慣れない得物を掲げ、迫り来るイーサンとダムラントを注視した。【JUMP COMMUNICATION】を振り、更には【MIDNIGHTER】を同時に操らなければいけない。難易度は高いがナイドには諦められない理由もあった。
「見ていてくれ、ジャム。僕は全ての試練を乗り越えて勝ってみせる! 全ては僕の、僕達の金のためだ」
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