第4話 仕組まれた襲撃

「ごちそうさまでした!」


 約30分後、マイがラーメンを完食した事で5人の食事は無事に終わった。雑談を交えながらではあったが、ロックは3日も寝ていたため腹が減っておりかなりのスピードで胃に唐揚げ定食を運んだ。


「ごめんね、食べるの遅くって」

「マイちゃんのお話、面白かったから大丈夫。『人形の白』には色んな力があるんだね……」


 すっかり仲良くなったナイアはマイを“ちゃん付け”で呼び、聞いた話を頭の中で纏める。


「【WORLD】は12色の力を使える可能性があるけど、実際は青色と水色、オレンジ色に紫色……4つの能力が発現していない状態、なんだよね?」

「うん。他の8色の力はちゃんと使えるし、他人にも貸せるんだ〜! ラヴちゃんには『緑色』を貸してるし……よかったら3人にも1つずつ貸そっか?」

「いいえお嬢様、それはなりません。お嬢様の力は自由に貸与ができますが、それは関係の無い赤の他人も力を行使できるという事。もしロック様達が詐欺グループの連中に倒され、能力を奪われてしまえば世間からの印象は最悪になってしまいます」


 マイの事を第一に考えるラヴちゃんは早口で苦言を呈した。実際にMINEとの戦いでボロボロになった経験もあり、妥当な判断だと感じたロックはやんわりと拒否する。


「そうだな……俺はやめておこう」

「気持ちだけ受け取っとくわ!」

「あ……そっか、そうだよね」


 正論によって善意をかき消されたマイは真顔になってしまうが、レイジの言葉は励ましにもなっていた。


「お嬢様、そろそろお時間です。イーサン様と共に世界政府の本部へ向かいましょう。今回の事件について……色々と責任問題が発生するかもしれませんのでお早めに」

「うぅ……イーサンもパパも、あんまり好きなタイプじゃないから嫌なんだよね。でも仕方ないや。じゃあまたね三人とも!」


 腕時計で時刻を確認したラヴちゃんはマイと共に席から立ち、院内食堂から去っていく。その間もマイは頻繁に振り返り、3人に向かって手を振っていた。「あ、でもダムラントは好きかな。ゆるふわイケメンって感じ!」という言葉を最後に、ロックの視界から消える。


「なんか、思ってたよりも可愛い女の子だったね」


 満足した様子のナイアは、レイジの方を見ながら言った。女好きの彼はずっと鼻の下を伸ばしていたからだ。しかしナイアに抵抗し、レイジはロックに話題を提供する。


「ロックもなんかちょっと違う声色だったやん? なんや、一目惚れか?」

「お前そんなの判別できるのかよ……別に、マイが予想以上に優しくって、俺だけが責任を負わなくても良いんだな、って思っただけだ」

「うん、ちゃんと本音だね」


 テーブルに肘をつき、右の手に頭を乗せたナイアは笑う。悲劇的な事ばかり起きていた一同にとって、マイとの時間は短いながらも癒しにはなっていた。


「ロックの肩の重みが軽くなったみたいで、俺も嬉しいんやで?」

「まあ、確かにそうだな」


 ロック本人よりもレイジが嬉しそうな態度を取っている。レイジの目的には“ロックを笑顔にさせる”事も含まれており、ロックの様子を誰よりも深く観察、判別できていた。


「……ねぇ、さっきのラヴちゃんの話なんだけどさ」


 2人の会話が終わったと見るやいなや、ナイアは先程の話について切り出した。『“武装集団”に襲われた』という部分が本音ではなかった事だ。ラヴちゃんに疑いの目を向けているナイアは早々にこの問題の真実に辿り着きたかった。

 イアが死んだ遠因も、イアが自身の両親に深く忠告しなかった事。それを考えての行動だったが。


「キャアーーーーー!!」


 少女の悲鳴。マイのものだと理解した3人はお互いを見つめ合い、頷くと立ち上がる。


「後回し、だね」



 *



 悲鳴が聞こえた先は病院の正面玄関扉。そこに向かうロック達とはすれ違いに、大量の一般人が走る。近づいていくと同時に、彼らの耳には聞き覚えのあるエンジン音が入った。


「この音は……!」


 玄関のガラスは割られ、自動ドアは枠ごと吹き飛ばされエスカレーターに乗りかかっている。呼吸を荒くしながら着いたロック達の目に写ったのは、3日前に激闘を繰り広げた相手。


「あっ、ロック!」


 無数のガラス片に乗る【DESTRUCTION】と、それに跨るラディだった。彼の周囲には黒いスーツを着た3人の男女が倒れている。イーサンやダムラントと同じデザインのスーツであり、ドール保安局の人間と見て取れる。


「お嬢様、ご無事ですか?」

「う、うんなんとか」


 背後にマイを誘導させ、庇う形でラディを睨むのはラヴちゃん。ラディとドール保安局の人間の戦闘に巻き込まれた形だった。


「この人達は簡単に倒せたけど……あなたはちょっとキツそうだね?」


 ラディとラヴちゃんは目線を合わせ正面からの睨み合い。ラヴちゃんは武器を所持していなかったが、スーツのポケットから『緑色』のカプセルを取り出し人形ドールを出現させた。


「お嬢様から借りた【SAMURAI】……使う時ですね」


 サムライ、と名付けられた人形ドールだったが、実際に現れたのは子供用のおもちゃの刀剣。お世辞にも戦える代物ではなかった。


「という訳で、ボクは助っ人を呼んであるの!」


 ラディも負けじと対抗し、握っていたカプセルを駐車場の方へ投擲した。灰色のカプセル。ダムラントの車両に保管してあった【MIDNIGHTER】のもの。その場にいた全員が注目し、キャッチした人物は勿論。

 緑色のジャケットを羽織っており、傷だらけのジーパン。眼はやや細く、そして右目を隠すほど長い髪の色は灰。


「礼を言っておくよラディ。これで僕の人形ドールが戻ってきた……!」


 ニヤリと嘲笑うナイド。そしてその足元には、死んだジャムの人形ドールである【JUMP COMMUNICATION】が落ちていた。


「ナイド!」


 真っ先に反応し声を荒らげたのはやはりロック。だが同時に身を隠せる場所も探した。いつ【MIDNIGHTER】の凶弾が襲ってくるか、警戒の必要もあるからだ。


「ジャムの持っていたこのブッチャーナイフは……僕が受け継ぐ。いこうか、【MIDNIGHTER】!」


 大方の予想通り【MIDNIGHTER】が現れる。しかし今回はナイド自身も武器を所持している。敗北の経験を得て傲慢を捨てた。


「ナイア、行けるか?」

「うん。もう怪我は完治したし……病院で暴れてもらっちゃ、色々と困るし!」


 2人は戦闘態勢に移行するためカプセルを手に取る。だが次の瞬間、背後からの足音と女性の声に気が付き早急に振り返った。


「……四面楚歌。君達は囲まれているんだよ」

「誰や?」


 肘まで伸びている滑らかな赤髪。生きる気力を失った眼は垂れ気味であるが、鼻は高く顔は整っている。黒い上着を着ているその女性は、『赤色』のカプセルを取り出した。


「断固拒否。ウチの名を伝える必要はない。いやそもそも、ウチは『MINE』に逆らえない。でも人形ドールの名前は教えてあげる……【FLAME TUSK】!」


 赤い粒子がカプセルから溢れ出し、形を作っていく。足に集まっていき、現れたのは靴と一体化したローラースケート。けれども通常のものとは違う点が1つだけあった。それはかかとの部分から上方向に伸びた鋭い刃。まるでタスク──鋭い牙のようであった。


「『MINE』に逆らえないやと? もしかしてアンタは……モントの言ってた、“人質にとられている大切な人”なんか?」

「……さあ。知らない話ね」

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