第8話 混ざり合う5色

 2対1。更にはモントとレイジの前で守る形でありハンデは極大。ジャムの足元に倒れているナイアも、人質にされてしまうかもしれない危険がある。

 圧倒的に不利なこの状況。しかしロックは、自らの実力の他にもレイジとロォドの力を信じた。


「言葉は、達者だな!」


 ケラケラ笑うジャムはブッチャーナイフである【JUMP COMMUNICATION】を持ち上げ、刃に太陽の光を当てる事で付着した鮮血を見せつける。ナイアとモントの血が混じり、汚く垂れ落ちる。


「ロォドも最後まで諦めてなかった。そういうのって好きなんだよ」


 右のナイフをロックに向けながら、ジャムはナイドの方へ歩く。ナイアから離れる選択だがこれも策のうち。


「【MIDNIGHTER】の銃弾にはオレも当たりたくないからな! だったら並んで攻撃すればその心配もない」

「僕も、できれば君には撃ちたくないからね」


 誤射を心配した行動は、合理的な思考であり一般人とそう変わらない。同じ人間だという証拠。一般人は弾丸を発射したりはしないが、あくまで思考だけに限る話。


「……なぁレイジ」

「な、なんや?」


 ロックは正面を見据えたまま、背後でもがくレイジに質問を始める。覚悟を決めたロックはとある確認を。


「【OVERLOADING MODE】だけじゃなくて……【GLORY MODE】も同時に使ったらどうなる?」

「あ……あかんて。今はほぼエネルギー満タンと言えども、2つ同時はあっという間に消費しちまうて!」

「それまでに倒す! 【GLORY MODE】!」


 更なる力を求めたロックは【GLORY MODE】のカプセルも取り出し、水色が混ざっている【ROCKING’OUT】のカプセルの角に合体させた。

 するとオートバイとサイドカーも出現し一体化。加えてバイクの周囲に漂っていた氷には緑色の風がまとわりつく。


「いくぞ……!」

「撃ち抜く」


 一言呟いたナイドは【MIDNIGHTER】の口から銃弾を発射させた。狙いはもちろんロックの頭部。しかし複数の氷が合体し壁となった事で防御され。加速する【ROCKING’OUT】はナイド達のすぐそこまで迫る。


「ならオレがぶった斬る!」


 ナイドの前にスライド移動したジャムは一気に2つの刃を振り下ろした。タイミングは完全に合致し、真正面から氷の壁を切断しようとしている。

 だがこれも予想の上を行く。


「うおっ!?」


 氷が切断されるよりも早く、バイクの前輪がジャムの腹部に直撃しナイドごと弾き飛ばした。 内蔵に衝撃を受けたにもかかわらず、ジャムは空中で体勢を立て直し砂利道に着地。対してナイドはゴロゴロと転がり込む。


「お〜……やるじゃねぇの。久々にでかい痛みだ。だが──次はない」

「だろうな……」


 ジャムは衣服に付着したチリを手で払った。同じ意見を持ったロックは冷や汗をかきながら氷の壁を見つめる。するとヒビが入っていた氷は段々と崩壊していき、液体になってしまった。


「今のは2つの刃を別の場所に当ててきた……もし同じ場所に立て続けに斬撃を浴びせられたとしたら」

「今度こそぶっ壊れるなぁ!」


 ウキウキで口を大きく開けているジャム。ロックにとっては間違いなく不快そのものではあるが気に止めず、氷と風の操作に意識を向けた。

 本体である【ROCKING’OUT】の周辺2メートルの外には放出できないが、その範囲内であればある程度の自由は効く。他の色の力を限定的ではあるものの使用できる能力。ナイド達から見ても脅威であった。


「これは2人で協力しないと駄目みたいだけど?」


 起き上がったナイドは共闘を提案する。今のは単に連続で対応しただけの事。息の合った攻撃をすればロックを倒せる、と踏み人形ドールを動かした。


「させるか!」

「まず策を立てるための隙を作らないとなぁ!?」


 遠距離攻撃の手段を持つナイドはロックにとって最大の警戒対象。彼に向かってアクセル全開、再び跳ね飛ばそうとはしたがジャムが割って入る。

 2度目の防御は断ち切られると判断したロックは、氷を氷柱つららに変形させ攻撃に使用した。ロォドのものよりは小さいが鋭い。既にジャムはこれを経験していたが、風の力もある。


「加速しろ!」

「うっひょぉ!?」


 縦の一閃で氷柱つららを叩き割ろうとしていたものの、放出された氷は急加速し間に合わない。その数実に7本。ナイフを振り上げていたジャムの胴体に突き刺さり激しく出血させた。


「ダメ押しだ!」


 怯んだジャムに追い討ちとして、ロックは正面から体当たりを仕掛けた。2度目の直撃は刺さっていた氷柱つららを更に押し込み強烈。再び弾き飛ばし空中に漂わせた。


「うがぁぁっ……!」

「ジャム!」


 明らかな傷を負ったジャムを心配し、ナイドは走り出すが間に合いそうにもない。このまま公園の硬い砂地に背中から突っ込めば更なる重症は確実だが、【ROCKING’OUT】以外のエンジン音が一瞬だけ響き渡った。共に、黄色い閃光も。


「……お?」


 落下を覚悟していたジャムは驚く。何者かの腕の温もりを感じ、僅かな衝撃で済んだからだ。ジャムを空中で救ったのは一台のバイク。太陽の光がまるで後光のように差し、黄色いボディは見るものに目眩を与える。着地した直後大きなブレーキの音が鳴り響き、運転手は顔を上げた。


「速い人を相手にするんなら……ボクが必要だよね!」


 黄色のツナギを着用し、頭部に巻かれたゴーグルからはみ出るツインテール。

“あくどい、破壊”であるラディだった。


【ROCKING’OUT】の残りエネルギー、50%。

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