第2話 再びの、喪失
ロォドの頭がロックの胸に飛び込んだ。両者共に思考が一瞬止まったが、激痛を耐えながらロォドは行動を起こす。
瞬時にカプセルをポケットから取り出し、背後に向けて【OVERLOADING】を出現させた。目論見通り、そこに立っていたジャムに襲いかかる。
「うおっ」
返り血が目くらましとなり、ジャムは白バイの体当たりをまともに受け止めた。サーキットの堅い地に転がり、隙は十分にできていた。
「ロック……! あたしの
「なっ……なにを」
エネルギー切れを考慮していなかった自分が原因で、ロォドは斬られてしまったのだと後悔したロックは、提案を上手く呑み込めずに戸惑うだけ。
「レイジも
「はっはい!」
従ったレイジは【RAGE OF ANGER】を出現させ、すぐさま運転席に飛び込むとナイアの方へ走り出す。軽トラックではあるが加速具合は良かった。
「あの軽トラの装甲は【MIDNIGHTER】の銃弾では破れない……なら狙うべきは」
安全な場所から見下ろしていたナイドは余裕を晒し、【MIDNIGHTER】の頭部を動かし照準も変更。指していた先はやはりロック。殺意に満ちた弾丸は躊躇なく放たれた。ロックの脳内は後悔に侵食され始めており、狙われている事にも気づいていなかった。
「危ない!」
ここでロォドが突き飛ばす。ロックはバイクから転がり落ちる。右手は伸ばしたままだったがロォドに届く事はなく、彼女の背中に着弾する瞬間を目にしてしまっていた。
「うっ……がっ、あぁ……」
ジャムの切断攻撃によって生まれた傷跡に追い討ちをかける形で、銃弾が直撃。貫通。二重の痛みがロォドの心身を刺激する。しかしそれでも諦める事はしなかった。
「ロッ、ク……! 【OVERLOADING】に、早く! あたしなら……ぐっ……大丈夫、だから!」
「あ、あ……」
『ロッ、ク……うん。大、丈夫だから……。安心、して……だいじょ、うぶ』
ロックの中で蘇る、イアの声。息を引き取る寸前で捻り出した言葉は優しい、嘘だった。今回も同じ。ロックは動く事もできず、後悔に頭を悩ませるだけ。
「あーオイ! これでロォドが死んじまったらどうすんだよ! オレの獲物だったのによぉ」
「今はどうでもいいと思うんだけど。逃げられるよりかはマシさ」
「どうでもよくねーって!」
起き上がったジャムは呑気にナイドとの口喧嘩を始めた。ロック達にとっては絶好のチャンスだが。やはりロックは息を荒くするのみ。
「モント、大丈夫!?」
「はい……なんとか」
ロォドと比べ軽傷のモントは、ナイアにお姫様抱っこをされ運ばれる。観客席から飛び降りると、【RAGE OF ANGER】の荷台にタイミングよく着地した。ナイアはモントをそっと寝かせ、ナイドの銃撃に注意を向ける。
「ほら、逃げられてしまう」
「ったくしょうがない!」
短時間の口喧嘩は終わりを告げ、ジャムはロックとロォドを。ナイドはレイジ達に狙いを定めた。
するとロォドが震えながら立ち上がり、またしても叫ぶ。
「レイジ! レンチでも何でも良い! 創り出してあたしに投げてくれ!!」
「わ、わかりました!」
レイジの意思と【RAGE OF ANGER】の力によって荷台にバールが創り出され、考えを汲み取ったナイアが手に取り、投げた。回転していたが難なく右手でキャッチし、根気に満ち溢れた瞳を見せるロォド。
「このくらいのハンデ、どうって事は、ない……!」
明らかな強がり。しかし火事場の馬鹿力とでも言うべきパワーを披露する。迫っていたジャムの斬撃を寸前で回避すると、バールを脇腹に向かって振りかざす。
「なるほどな」
けれども届かず、もう片方のブッチャーナイフを壁にされ防がれた。
「頼む……! ロック!!!!」
振り返らず、悲痛な叫びをただ垂れ流すロォド。するとやっとロックの足が動き出した。【ROCKING’OUT】をカプセルに収納すると、停車していた【OVERLOADING】に跨り、おぼつかない操作で発進。過呼吸で涙ぐんでもいる。
「あ……うぅ!」
慣れない白バイという事もあり、間もなく転倒。それでも再び車体をなんとか持ち上げ運転を再開した。少しの擦り傷もできていたが、心の痛みの方が大きく本人は気づいていない。
「ロックも来てる!」
「……それならフェンスぶち破ってでもこっから離れるで! ロォドさんの想いを、無駄にしないためにも、や……」
完全に諦めていたレイジは割り切り、サーキットを逆走した。先程走り回った時に目にしていた、薄いフェンスに向かってハンドルを操作する。
「はぁ、は……ごめん、なさいロォドさん……っ!」
ロックは涙を流し、風に飛ばした。後悔や憎悪といった感情を必死に抑え、レイジ達を追う。【MIDNIGHTER】から放たれる銃弾もあったが、ことごとく外れていた。
「……ここからじゃ命中は難しいか。反撃を受けにくい場所だからここを選んだんだけど、降りるのにも時間かかるし失敗だ」
今回もロックを逃がしてしまい、ナイドは歯ぎしりをしてストレス発散。ナイアの説得も失敗し、ナイドもある意味負けていた。収穫がほとんどない。
「そんなチンケな武器だけでどこまでやれるか見ものだな?」
あくまでもロォドとの決着にこだわっていたジャムは、邪魔者がいなくなり晴れ晴れしい笑顔に。命を賭けて抗うロォドを嘲笑い、舐め腐っている。
「殺して、やる……! 家族の仇!」
バールの振り下ろし。しかしこの攻撃も避けられ、ジャムの服を切り裂くに留まった。右腕の袖が破れ、二の腕が顕となる。
(あたしが昨日与えた傷が、治ってる……!?)
急に頭が冷静になったロォド。昨晩の戦闘で、少なからずジャムには攻撃を加えており傷を追わせていた。にも関わらず、ジャムの腕はスベスベで無傷の状態。
「終わりだ!」
動きが止まったロォドの隙を突き、ジャムは左のブッチャーナイフを振り下ろした。見事直撃し、ロォドの右肩を断ち裂く。しかしロォドも抵抗し、右のバールと左手を使い真剣白刃取りのような方法。無理やりにも進行を止めて見せた。
「マジかよ」
「うぁぁぁぁ……っ!」
肩はぱっくりと裂かれ、骨も切断されていたが掴んで離さない。勝ち目のない戦いではあるが、最後の最後まで彼女は諦めなかった。
(ジャムの傷が治っているのに、なぜナイドの腕はあのままなんだ……? 『MINE』のメンバーの“外見を若返らせる”能力の持ち主が治したと考えてもおかしい。……もしや、治せる人数が限られて!?)
ロォドは真実に辿り着きそうになっていた。けれど現実は非常。
「楽しかったぜ? 今度こそ終わりだ」
右のブッチャーナイフが控えていた。ロォドが最後に目にした光景は、自身の首が切断された事によって回転する景色だった。
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