第4話 破壊が繰り広げるレース

 キーネが持つ【NAKED】、その並外れているらしい基礎能力によって、ロック達一行の傷は癒された。20分は経ってしまったが、目的地のサーキットまでは10分とかからない。ラディの誘いには間に合う時間だ。


「なあナイア……俺よりもレイジの方に行ったら良かったんじゃないか?」


 ロックとナイアは【ROCKING’OUT】に2人乗り。先頭を彼らが走り、後方にはロォドの人形ドールである白バイが追従していた。そして彼らに守られる形で真ん中に位置しているのが、レイジとモントが乗っている【RAGE OF ANGER】だ。【FINAL MOMENT】を、オートバイ&サイドカーである【GLORY】に変形させれば並んで走る事も可能ではあったが、エネルギーを消費し過ぎない事を第一に考えていた。


「いや、私は良いから。……あのさ、私ってイアって人の代わりになれるかな」

「どういう……意味だ?」


 かつてのイアとは違い、腹部ではなく肩を掴みバランスを取っている。胸が当たらないよう背中との間に腕を挟んでもいた。


「あぁ、恋人同士になるって訳じゃないから。そういう目でロックを見れないっていうのもある意味失礼かもだけど、さ。『共通の目的を持つ仲間』として……そういう一面だけでも、イアと同じになれないかな」


 ナイドを倒す、という共通の目的であり目標。ロックは想い人を殺され、ナイアは信頼していたものの裏切られた。失ったものは違うが、現に協力し合い1度はナイドを負かした程。


「一面だけなら構わない。だけどな」

「なに?」


 事故を起こさないよう正面を向きながら、かつ背後に座るナイアへと聞こえるボリュームで返答をする。


「それ以上はあまり、同じに、代わりにならないでほしいんだ。あの頃を思い出して辛くなる……そんな自分勝手な理由もある。それに、ナイアもイアの様に死なせたくない。俺の前で二度と人を、殺させはしない……!」

「ロック……」


 自らの胸に、銃痕と共に刻み込んだ忘れられない彼の決意。贖罪や復讐の意思も混じってはいたが、それも実際は3割程度。残りは『優しさ』で占められている。

 ロックの本音を受け取ったナイアは上下2つの唇を口の内側に包み込み、ぐっと噛み締めていた。



 *



「ここがラディの待つ『ドールズ・サーキット』か……」

「国内でもトップクラスに広い敷地なんやと」


 世界政府公認、人形ドールを使用したレースが許可された大型サーキット。マシンのエンジン音や客の歓声は外からでも騒音と感じる程。

 走行路は長めのストレートからきついS字カーブ、バンク角が40度あるバンクもある。車両の整備を行うためのピットも本格的。人員も世界中から選りすぐりの面子が集まっている。


「あ〜、ラディが言っていたお客様ですか?」


 サーキットへの入場口、大きな旗を2つ持っている警備員がロック達に声をかけた。高めの声からして女性と推測はできるものの、深く被った帽子と黒いマスクが邪魔をし素顔も髪色も確認できない。

 ロック達5人の方から歩いていくと、「こちらです」と警備員が案内を始める。誘い込むような形でサーキット内部へと。


「……全然、人がいない」

「皆さん観客席の方に行ったんですよ。正直、出入口の警備はオレ1人でも大丈夫……というか、オレがいなくても勝手に入ってくる人はいませんよ」


 キョロキョロ見回すモントの不安に適当な態度を返している警備員。怪しさはかなり濃くあったが、現時点では“ただ能天気でやる気のない一般人”という印象を彼らに抱かせているだけ。

 稼働音だけを小さく響かせる自動販売機や、開けたままにされている休憩室の扉。ベンチには飲みかけのコーヒーが放置されていたりしていた。


「さあ、この先へ。ホスピタリティーエリア……所謂招待客用スペースに続いています」

「あの……俺達まだ自己紹介や身分証明もしていないのに、簡単に入らせても良いんですか?」

「せやせや! もっとちゃんとした手順を……」


 念の為の質問をしたロックと、便乗するレイジだったが、警備員は目を線にしただけで何も答えはしなかった。右手に持つ大きな旗をホスピタリティーエリアの方へ無言で向けるだけ。


「……大丈夫ですよ。ラディから外見の特徴は聞きましたから」


 警備員の威圧に押され、渋々ロック達は通路へと歩いて行った。ただ1人、ロォドは警戒を続けていたが。


 外の光が射し込んでいる方へ向かう5人。不審な仕掛けは一切無かったものの、変わらず不安は残っている。

 招待客専用の観客席に出ると、既にレースは終了しており先程までの騒音は消えていた。向かい側の席に居る観客達はレースの結果を頷きながら見つめている。


「これは……」


 ロォドの驚愕した声が漏れ、他4人は固唾を呑む。レースの勝敗を決めるフィニッシュラインに辿り着く直前の所で、ボロボロになった数々のマシンと人間が倒れていた。

 ラインを超え、勝ち誇っていたのはただ1人。


「ボクは満足できなかったな~……。だって、2週遅れだよ? やっぱり乗り物の人形ドールじゃないと相手にならないや」


 振り向いたその人物はラディ。歯を見せる笑顔を挑発に使っている。とは言っても、レース参加者の中には誰一人として彼の姿を見つめる者は居なかった。


「あっロック! 丁度良い所に来てくれたねっ!」


 無邪気でピュア。真っ直ぐな笑顔を上げ彼らへと向けていたが、圧倒的な実力を示しているラディにロックは恐れすら感じていた。


「ボクと楽しいレース……しちゃお?」

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