第3話 優しさは
ロックは慌ててイアの顔色を確認しようと振り向いた。しかし俯いており、黒い陰と緑色の前髪で表情などは全く見えていなかった。
「グループの中には“肉眼で見た相手の思考を見通す”能力を持った
「ロックごめん……!」
ロックはイアを見つめ続けたまま話を聞いていた。いくら優しいとはいっても、ここでどんな励ましをすればいいのか。彼にも分からなかった。
「だけど、イアは僕達の事を最近になって調べ始めたんだよ。まぁそれは僕の
なかなかの早口だったが、ロックの許容範囲内ではあった。イアを殺そうとする理由は知れたが、元々の疑問をぶつける。
「待て……ならなんで俺も連れてくるよう指示したんだ?」
「単なる人質だよ。『嘘をついていた』という事と個人情報をバラされたくなかったらロックも連れてこい、って命令した訳さ。それに乗り物として使える
明かされた順序がバラバラだったため、ロックはやはり困惑してしまっていた。
両親はかつてナイド達に騙され命を絶ったが、イアはそれを黙認していた。ところが最近になってイアはナイド達に探りを入れたものの逆に探知され、意識のないロックを連れてくるよう指示されてしまう。だがその約束を破ったためナイドは襲ってきた。破った理由は恐らく、二人でナイドを返り討ちにするため。
彼はこの結論を出し、深呼吸をした後にイアを見つめ直す。
「イア……正直に話してくれ。どうして親御さんに注意もしなかったんだ?」
「それは……それはっ……!」
イアは口を開こうにも開けない様子だった。嫌われる事を恐れている、というのはロックも見て取れていた。
「嘘でもいい」
「……え?」
「但し、笑えない嘘だったら俺はお前を信じられなくなる」
ロックにとっても賭けだった。イアとは今まで付き合ってきたものの、今の状況は極めてイレギュラー。自衛のための嘘を吐いてしまう危険性は充分過ぎるほどにある。
「……怖かったの。父さんと母さんは電話の向こうの声を信じて疑わなかった。口を出そうとしても怖い眼で私を見てきたの……」
満を持して想いを口にしたイア。受け取ったロックは一瞬で、彼女は嘘をついていないと確信した。
「二人が自殺した後、私には毎日のようにマスコミが押しかけてきた……でも【LIAR】の力を使ったら、私を心から心配してくれる人なんて誰一人いなかったって知った! そうだよね、赤の他人が不幸な目に合ってても少し『可哀想』って思うだけだもんね……!」
このイアの発言はロックにも突き刺さった。ニュースで不幸な事件が報道される度に抱く感情は、果たして『優しい』と言えるのだろうか、と。
「でもロック……あなただけは違ったの」
唐突に自身の名前を出され、考え込んでいたロックは驚き目を丸くする。
「ロックは心の底から私を心配して、優しくしてくれた……! 迎え入れてくれた! だから大好きなの……ロック。この想いは嘘じゃなくて本当、だから」
直後に駆け出したイアはロックのそばまで近づいた。しかし体が触れる直前でブレーキをかけ、彼女はロックの両手を自身の両手で優しく包み込んだ。
「そうか、誰にも真実を話せなくってずっと苦しかったんだな。俺の方こそごめん」
「なんで謝るの……?」
イアは【LIAR】でロックの真意を確かめたが、謝っている事に嘘は無かった。おかげでイアの動揺は高まってしまう。
「そりゃ、俺がもっと優しかったら真実を話してくれたかもしれないだろ? 過去の事件についてあまり触れない優しさが裏目に出ちまったか!」
「……ほんと、優しすぎるんだから」
我慢していたのか、右目から少しだけ溢れた涙をイアは指で掬った。だが笑みも浮かべており、本心から生まれた言葉で会話が出来た事に感動している様子。
「……危ないっ!」
突然、ロックの左側頭部に向かってきた灰色の弾丸。それが視界に入ったイアは庇うように【LIAR】を彼の前に移動させる。両腕を交差させ防御の姿勢をとっていたため、左腕上腕の鎧に弾丸はめり込んだ。風圧でロックの灰色の髪が揺れただけで済み、二人は安堵した様子。
「うざいんだよ、惚気話っていうのは……もっと金になる話の方が僕は好きなんだ」
弾丸は【MIDNIGHTER】の口の部分から発射されていた。奥の喉らしき部分をよく見ると穴が空いており、そこから煙も舞い上がっている。
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