148 異世界帰還者の胎動 13


 一日目も無事に終了。

 出ていく観客の整理をするスタッフの放送を聞きつつ控室でまったりしていると、来客があった。

 しかも二組。

 サチホちゃんのチームと、一番手だった嘉仁才三のチームだ。


「どったの?」


 控室はそんなに広くないので代表の二人だけ入ってもらう。


「実はお願いがあるんです」


 試合の時の勇ましさとは打って変わって嘉仁才三……才三君は大人しい青年となっていた。


「なに?」

「クランに入れてください!」


 入って来るなり霧と火花を散らしていたサチホちゃんが割って入る。


「は?」

「僕も同じです。クランに入れてほしくて来ました」


 才三君まで同じことを言う。


「いや、才三君は別にいいんだけどさ」

「さいぞうくん」


 いきなり君付けされて才三君が驚いている。

 いや、顔が赤いな。

 照れてる?

 ほっとこ。


「サチホちゃんはなんで? アイドルのお仕事が忙しくなるところでしょ?」


 そんなんで仕事は振れないから、クランにいても意味はなくね?


「うちって契約金はそんな高くないよ? 基本は歩合制だから」


 その代わり、インスタントダンジョンでの儲けは攻略者の方がたくさんもらえるようにしている。

 そんなだから的中率百パーセントでインスタントダンジョンを割り振ってくれる霧の人気はうなぎ上りが止まらない。


「このクランに入ることに意味があるんです!」

「いや、悪いけど箔付けみたいな理由ならお断りかな」

「ううううううううううっ!」


 涙目サチホちゃんもかわいいがこればっかりはなぁ。

 我がままマスターとはいえ、クランに貢献しない人間を入れて依怙贔屓しているみたいに思われても困る。

 困るのは俺じゃなくてメンバーを管理してる亮平とか杜川っちとかだろうけど。

 とはいえ不公平はいかんよ。


「うぅぅ……」

「まったく」


 うなだれるサチホちゃんを見て、後ろで霧がため息を吐いた。


「その子は美容部門で役に立ってくれているのでしょう? それならクランに貢献していないわけでもないんじゃないの?」

「おや?」


 さっきまで火花バチバチだったのに助け舟ですか霧さんや。


「その子がアイドルとして健全に活躍して、その活動中にクランの宣伝をしてくれるなら良いイメージが付くかもしれないわね。あなたって我が儘だから人気が真っ二つだし」

「わはは」


 まぁね。知ってる。

 なんでサチホちゃんに慈悲心を出したのか知らないが、その意見は一理ある。

 それに、うちでは霧が口を出したことに逆らうのは運命に逆らう愚行だとまで言われている。

 運命に逆らうのも面白いと思うけどね。

 でも組織運営は安定志向で行くべきだな。


「……なら、とりあえず名誉メンバーってとこかな? あっちの事務所との兼ね合いもあるだろうし」


 そっちは杜川っちにお任せ。

 地獄から天国へ。

 でもにっくき霧からの援護でそれが通ったものだから喜んでいいのかどうなのかわからずに面白い顔に鳴っている。

 そんなサチホちゃんを放置して才三君へ。


「で、才三君の方はなんで?」


 サチホちゃんの方は決まったので、今度はこっち。


「あ、ああ僕は……いや、僕たちは正直、ダンジョン探索にあまり向いていなくて」

「だろうね」

「ぐっ」


 目標に一撃ぶち当てたらバフが全部飛ぶし、途中で目標変更もできないしだからな。

 一戦ごとのコストが高すぎて、連戦不可避のダンジョンでは不向きだ。

 そういう意味では三人目の一騎打ち限定君もダンジョンでの戦いは難しいか? いや燃費はそんなに悪くなさそうだし、強敵を抑え込む役ができるかも? むむむん?


「それに才三君ってば素の顔はそんなに戦い好きに見えないけど?」


 そういうのはうちのクランにも何人かいるけどね。

 異世界帰還者になっちゃう以上は戦いには慣れるけど、戦いそのものが好きになっているわけではない。

 なら、どうしてそういう連中がクランに残っているのかと言えば……。


「好きではないけど、いまの仲間たちとは離れがたくて……」

「やっぱそれかぁ」


 うちにいる連中もいる理由はそれだ。


「みんな本当は気弱で、戦いなんかこわくて仕方なくて、だからもう、とにかくボスを倒せば終わりなんだからそれだけを考えられる戦法を編み出そうってがんばって……」


 そんな風にして生き残った仲間たちだからこそ、離れがたくなっているってわけだ。


「試合でやった以外の戦い方はできるのか?」

「ええと……多少は」

「ふうん」


 まぁ、特殊スキルを発動さえさせなければ普通の戦い方もできるだろう。

 レベル相応の強さってわけにはいかないだろうが。


「じゃっ、その普通の戦い方の特訓。それを受ける覚悟があるなら受け入れてやる」

「あ、ありがとうございます」


 ボス戦まで到達すれば才三君の戦法は有効だろう。

 問題はそこまで辿り着かせる方法だ。

 他の戦闘員も同行させるからそいつらに任せるってのもいいだろうが、ボス戦までなにもしないというのも居心地が悪いだろうし、それを理解できる仲間というのも希少だ。

 不得手部分をちょっと苦手ぐらいにまで引き上げて、雑魚戦B級、ボス戦S級みたいな相性の仲間なんだと認識してもらえれば立つ瀬もあるんじゃなかろうか。


「よろしくな才三君」

「はい!」


 癖はあるけど強力なクランメンバーの加入。それを喜ぶべきだろう。

 明日もそういうことがあるかな?

 ないだろうな。

 なぜならメインディッシュの貴透君以外、なんらかのクランやら組織やらと繋がっているからな。

 そういうのはめんどくさいよな。



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