142 異世界帰還者の胎動 07


 十二人が登録して来た。

 その倍以上の悪戯登録があったので、うちの法務部隊に出動させて電話で圧力をかけると全員が平謝りして取り消した。電話番号も書いていない、メールアドレスも適当という連中ばかりだが、俺の【鑑定】にかかればその程度の情報でも本名に辿り着くのは簡単だ。

 白魔法の師匠ニースが『できる』ということを示したのだ。俺ができなきゃ弟子失格だ。

 そのニースが思わせぶりなことをしておいてなにもせずに帰っていったのが気になる。なにか企んでいそうだとは思うので、それを楽しみにしておくとしよう。

 今できることに満足せず、これもできるかもしれないという可能性を模索する。白魔法だけではない。俺が修得した全てのものにそれは存在するのだ。

 とはいえまずは、俺が企画した試合を進めなければ。


「とりあえずはこの十二人で打ち切るか」


 大会の形式もまだ決めていないが、トーナメントにする場合だと偶数でちょうどいい。


「しかし、織羽ちゃんは暇が嫌いなのかい?」

「血の気多いよね」

「少しは休んだら?」

「そうそう」


 マスタールームに遊びに来ていた亮平&ガールズが呆れた視線を向けて来る。

 ガールズも最近は俺に棘を向けない。

 俺が亮平に興味がないのを理解してくれたからだろう。

 マスターとして認められたから?

 はは、まっさかー。


「まっ、ダンジョン・フローも国内は落ち着いたわけだし。なにかイベントがないと退屈だよな」

「物騒だねぇ」

「そういえば、亮平は挑戦してこなかったな?」


 こっそり登録してくるかなと思ったんだけど。


「めざせ下剋上的な?」

「ははは。僕は平和主義者だよ。生活の手段として戦うけど、趣味として戦ってるわけではないからね」

「ふうん」

「それに、僕が挑戦者にいたらクラン内で統率が取れていないとか思われてしまうよ。ただでさえ、僕たちのクランは他の所と違う。君は『王』じゃないからね」

「やっぱり、元の異世界で組んだ者同士が多いか」

「国内だけでなく、世界的にもね。ほら、アメリカ大統領の所のクランも同じらしいしね」


 百パーセント同胞だけというわけではないようだが、中核はそうなる場合がかなり多いようだ。

 まぁ、剛のところみたいに、『王』になったのが偶然日本にいた麻薬カルテルの幹部っていうパターンもあったりする。

 そういう、まとまれないパターンの異世界帰還者たちがクランの純血度を下げているのだろう。


「とはいえ純血だからいいというものでもないと思うけどね。それだと、異世界の時に持ち越していた問題が再燃してしまうっていうこともあるだろうし、元の世界に戻るから我慢していた問題を無視できなくなったりもするだろうし」

「ふむふむ」


 うちのクランにしたって、亮平&ガールズや霧は同じ勢力に所属していたが、それら全員が集合しているわけではない。

 刑務所にいるはずの連中もいるし、それこそ異世界に戻るために仕方なく戦い、こっちに戻って来て恙なく元の生活を送れている連中もいることだろう。


 うちの初期メンバーは四十九人。


「亮平たちって何人ぐらいいたんだ?」

「最後の決戦前は百五十人前後。生き残ったのが百人前後だったかな?」

「実際の戦争なら事実上敗北だな」


 三分の一も死んだら勝利条件を満たしていてもその後はグダグダだ。

 かくいう俺がやっていたのも人類対魔族の絶滅戦争だったから、被害は尋常ではなかったわけだが。


「でも、僕たちの条件は勝利勢力になることで、メンバーのほとんどが帰還を望んでいたからね。その後のことなんて気にする必要はなかった」

「で、生き残った百人の内、半分ぐらいはここにいるわけだ」

「平均値を取ってるわけじゃないけど、多い方じゃないかな? で? なんなのいきなり?」

「まさかどっかを合併するとか言い出さないわよね?」

「え? マジ?」

「やめてよ、忙しいだけだから」

「いや、単に興味があるだけ」


 確かに余裕ができたけど、そこまで暇なわけでもないし。

 俺は亮平たちのような異世界にはいなかったからな。

 それに、貴透君のレベルに出てた400(限界値)って文字も気になる。

 あれは全員共通のレベル上限なのか、それとも個人で差があるのか、それとも……同じ世界に転移した連中を全員殺した場合の上限値が400と定められているのか?

 いや、これだと三つ目と一つ目は同じ意味か。

 いやいや、ちょっとは違う。向こうではもうレベルを上げられなかったが、こちらでは上げられるかもしれない。


「そういえば君らってレベルあがったな」

「まぁね」


 なんでもないことのように頷いた亮平は265まで上がっている。

 で、ガールズの焔導師、赤城綺羅は83。

 賢者の咲矢春は78。

 結界師の遠江纏は89。


「あれだけダンジョンを攻略すればね。それでも、霧ちゃんの上がり方には負けるけど」


 ちなみに霧は魔眼導師180だ。

 自己申告だからどこまで正確かは知らない。秘密にしたいなら秘密にさせとく。

 いまのところ霧は俺といる以外で戦闘員としての仕事はしないし、占い面でクランでの貢献がすごいので特に不満も出ていない。


「見習いたいけど、君たちのしてる【瞑想】って難しいよ」

「そうか?」

「なにがしたいんだか、ぜんぜんわかんない!」


 と、綺羅が不満に顔を膨らませる。


「そっか……じゃ、地道にダンジョンでレベル上げするしかないな」

「むうっ!」


 クランで【瞑想】を使えるように何度か講習しているのだが、いまのところ成功できている者がいないのが現状だ。

 コツはあるし、それをちゃんと伝えているつもりだが、伝わらないのであればなんらかの要因でできないっていう可能性もある。

 その要因が見つからないのであれば、ただの時間の無駄となってしまう。

 なので最近は普通に戦闘技術を仕込む方に時間をかけている。

 こいつら自分のクラスやスキルに頼ってばかりで細かいところが素人のままだったりしてるからな。そこら辺を叩き直している。

 何回か民間軍事会社のアーロンを呼んで講師もしてもらっている。

 俺たちよりも早く異世界帰還者の混ざった現代戦を体験している連中だ。集団での戦い方はやはりアーロンが指揮している部隊の方がはるかにスマートだ。


「それよりも、試合の方はどうする気だい?」


 亮平が話を戻した。


「ああ、それそれ。どっちの方がいいと思う?」

「トーナメントをしてもらって優勝者一人だけと戦うか、それとも全員と戦うか?」

「そうそう」

「そんなの、トーナメントの方が楽じゃない。盛り上がるだろうし、こっちは満身創痍の一人と戦えばいいんだし」

「いや、そこはちゃんと回復させてからだぞ?」


 綺羅の言葉は否定しておく。

 戦争ならそういうのもありだが、競技的な試合でそんなことしない。


「セコイし」

「そうね、セコイ」

「うん、綺羅、それはセコイ」

「ぐうっ!」


 春と纏も俺に同意し、綺羅が顔を赤くする。


「……トーナメントの方が君は一度戦うだけで楽ができるし、観客は色んな戦いが見れて面白い。でも、面白さという意味では観客は何を見たがっているのか、にもよるかな」

「うん?」

「たとえば、観客は君が戦うところを見たいって思っているなら、優勝者との一戦だけだと満足できるかな?」

「でも、普通の格闘技の試合だってそんなものじゃない?」


 と、春が亮平の言葉に疑問を挟む。


「まぁね。普通の格闘家なら一度に一戦が限界だよ。だけど、我らがマスターは違うよね?」

「もちろん!」


 とドヤってしまうところが俺の悪いところだよなぁ。


「それなら君が全員を完膚なきまでにぶちのめして、『我こそ最強!』とやって見せてくれているところを見るのも面白いよね」

「ふうん……」


 なるほど一理ある。

 とはいえ、問題がないことも……ない……か?


「ええと、一応聞くけど、途中でマスターが負けた場合はどうなります?」


 纏の質問がそれだ。

 負ける気はないが、ルール的には明言しとかないとな。


「負けたらそこまでだろうな」


 全員分の賞金を用意するってっ手もあるし、マネーじゃなくて現物支給でもいいなら俺のアイテムボックスにたらふく財宝はあるけど……持ってるぞと見せつけると色々とめんどくさい連中が動き出してくる可能性もある。

 税金とか税金とか税金とか。

 というわけで、一番最初に勝った者がもらえることになる、っていうことになるよな。


「うーん、どっちもどっちか?」


 決めかねる。


「もういっそ、挑戦者に決めさせたら?」

「それだ」


 めんどくさくなった綺羅の言葉こそが正解だ。

 というわけで、登録者たちに投票させて試合形式を極めさせることにした。


 トーナメント方式と、順番対戦式。


 結果は、順番対戦式になった。

 よっし、やったるでぇ。


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