126 深淵狂騒曲 13


【召喚憑依:ナクリオス】


 選択を取る。

【昇神】すると思った?

 残念。無茶はしても無謀はしない。

 それが俺クォリティー。

 暴走はロマンだが無自覚の破壊の責任を取るなんてのはまっぴらごめん。永久機関もここにはないしな。

 使ったのは召喚魔法だ。

 召喚魔法といえば自分の代わりに戦うユニットを呼び出すというイメージが強いかもしれないが、他にもバリエーションはある。

 こいつはナクリオス。肉体の代理運用や高速思考補助など各種補助魔法を詰めに詰め込んで近接戦闘用に特化した魔導外装だ。

 イメージとしては倍力機構の魔法版。

 肉体に直接作用する能力上昇系の補助魔法には限界値が存在する。基礎能力を越えた増幅率を与えると肉体が破損するのだ。

 それへの解決策が外部装置として倍力機構的な魔導外装だ。限界まで補助魔法で鍛えた身体能力をさらに倍加させる外部機構。

 この組み合わせなら【昇神】を受け入れた肉体の能力には届かなくとも金さんの相手をすることは可能のはずだ。

 主人公の危機を救うのは新しいパワーアップパーツ。ロボット物の定番だね!


「っ!」


 マウント取って好き放題していた金さんは俺の変化に驚いて距離を取る。


「褒めてやろう。お前は確かに俺より強い。ただし、拳法に限ってだ」


 日本語で言っても通じないとわかっていても言ってしまう。

 確かに認める。

 お前と同じ土俵で勝つにはまだまだ俺の準備が足りない。封月織羽の肉体を神の域に達させるための仕込みが足りない。

 だけど、足りないのはそれだけだ。

 勝てないとは言っていない。


「俺の引き出しの多さは、ドン引きレベルだぞ」


 宣言と共に金さんに接近する。

 再びの肉弾戦。

 だが、俺の思考は戦闘とは別の場所にある。ナクリオスが俺の肉体を代理運用し、戦う。こいつの強さは格闘訓練用の木人と同じだ。

 つまりイングの肉体を持っていた全盛期の俺の訓練相手をしている木人と同じってことだ。

 増加した身体能力を的確に運用するのは簡単なことじゃない。残念ながらナクリオスに任せた方が効率がいい。


「っ! っ!」


 一転して防戦一方になった金さん。

 俺の思考はそんな金さんから離れて周辺状況の確認を行う。

 金さんと戦う前からアイズバットを周辺に放っている。

 え? 舐めプ?

 違う違う。

 戦闘スタイルを切り替えただけだ。

 俺が勇者の戦い方に限界を感じた理由の一つ。圧倒的な手数不足。これを補う方法として、いろんな方法を考えた。

 大量の軍隊を用意する。それも一つ。

 そしてこれもその一つだ。

【召喚憑依】で肉体運用を任せ、俺自身は周辺状況を確認して最適解の一手を打つ。

 そのために編み出した方法がこれだ。

 北にはR国軍、東にはN国軍が待機している。

 ここがいま異世界帰還者同士の戦場になっているから手を出してこないが、南から迫ってきているC国軍の準備ができたらどうなることか。

 戦闘機はもっとはやくここに到着するな。

 開戦する気か、睨みあいで済ますのか。

 よそのお国の事情は知ったこっちゃないが、事の動き次第で報酬の支払いを滞られたらたまらない。

 だから膠着状態ぐらいにはもっておきたい。

 で……そのためにはリーたちに負けられても困るんだが?

 どうなっているかな?

 ふむ?

 スキル補正? 環境補正? ともあれ周囲の大火災はイグナートに有利に働きすぎている。

 対するリーは自身を有利に働かせる状況が少なすぎて不利……とはいえいますぐ窮地に陥るってほどでもない。

 援軍が間に合うかどうかは微妙。

 C国軍の戦闘機が到着したときにR国軍がどう動くかが肝ってところかな?

 そんならちょっとした援護ぐらいはしておくか。

 というわけで追加召喚。


【召喚:カオスマザー】


 俺の呼びかけに答えて登場するのはさっきのダンジョンでボスをしていた融合精霊。支配して俺の修得した精霊魔法学で修正したこいつはもはや完全体。

 暴走することなく自由に混沌精霊を生み出すことができる。

 で、その混沌精霊でなにをするか?

 普通にばらまいただけでもすごいことになるのはこの穴を見れば一目瞭然だが、今回は……こうだ。


【召喚:エキアス】

【生成指示:人造精霊】


 カオスマザーが生み出す混沌精霊をエキアスに命じて次々と人造精霊に書き換えていく。

 で、なにをやらせるかって言うと【鑑定】だ。

 金さん、イグナート、リーとその部下たち、この周辺にいる異世界帰還者たち全員に【鑑定】を雨霰と注ぎ込む。

【鑑定】されたら不快を感じるのはもうわかっている。

 より深くに入ろうとすれば神経が過敏になるのは霧で一度試しているので知っている。

 なら、時間経過とともに増え続ける人造精霊たちによる【鑑定】の重圧を受けるとどうなる?


「「「「「「っ!」」」」」」


 答え。すっげぇ、不快。

 ついでだ。お前らを通して色々な疑問を解き明かさせてもらおうか。王になるような奴が三人も揃ってんだ。他の連中よりも面白い情報を掘り出せるんじゃないのか?

【鑑定】をするためだけの人造精霊は次々と生み出されていく。

 そいつらは黒い煤状のなにかを纏った目玉という形態をとり、戦場の空を覆っていく。

 重い曇天に敷き詰められた目、目、目。

 内部を漁られる感触で立つのがやっとの様子の異世界帰還者たち。


 勝負は決した。

 が、あまり楽しくない勝利でもある。




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諸事情で毎日更新は再び停止です。

「野良犬クエスト」の方は現エピソード分は書き終えているのでそこまでは毎日更新が続きます。

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