123 深淵狂騒曲 10


 膝カックンである!

 体勢を崩したところで背中に前蹴り。

 だっさい靴跡を背中に張り付けた指導者様がごろごろ転がっていく。


「仕返しだ!」


 ふざけた不意打ちの仕返しはプライドに刺さる攻撃と相場が決まっている。

 いま決めた。

 俺的相場はいつだって俺本位である!

 ざわつく背後の空気を無視してその場に立つ。


ネーム:金世音

クラス:民王220

メインスキル:武信の頂

説明:信奉者を増やせ、それが汝の力となる。


ネーム:イヴァン・イグナート

クラス:魔炎指揮者200

メインスキル:炎の征服者

説明:火炎を絶やすな。さすれば汝は不敗となろう。


ネーム:李勝

クラス:英雄王275

メインスキル:英傑集武

説明:英傑を揃え従えよ。それが汝を助力する。


 いつもより深めの【鑑定】を使って状況整理。

 全員が不快の視線を俺に向けて来た。

 なるほどなるほど。

 まずは金世音。

 回転が止まった偉大な指導者様は感情の削げ落ちた顔で俺を見上げている。

 信奉者がいればいるほど強くなるってことか。

 なるほど、国民全員から偉大なる指導者と呼ばれて万歳されまくっているし、最近は隣国の危機を救ってそっちからも人気を手に入れた。

 そりゃ、強いわな。


 で、次はイヴァン・イグナート。

 北の寒い国からやってきたアル中は周りに炎があればあるほど強いってことだな。

 そして穴の周りは現在絶賛大火災中。あいつの独壇場ができあがっているわけだ。


 そしてリー将軍こと李勝。

 レベルの高い部下がいればいるほど強くなるってことか? もうちょっとなにかありそうだな。側にいることも条件なのだとしたら、現状、こいつが一番不利。


 そして俺。


「悪いが俺は、俺に舐めたことをする奴には容赦しないって決めてんだ」


【死霊軍団】


【無尽歩兵】が列をなす。

【越屍武者】が天を突く。

【幽鬼兵】が空を濁す。

【幽灯導師】が紫炎のカンテラを掲げて鬼火の獣を召喚し、それに【獣鬼兵】が騎乗する。

【大食い紳士】と【大食い婦人】が敵の死体を求めて腹の口を開けて待ち、【叫び唱える首塚】が俺の指示を求めて咆哮を上げる。

【魔甲戦車】が獲物を求めて金属の瞳を燃やし、【魔銃騎士団】が銃を捧げる。

【幽翼竜】が初陣の武功を飾らんと猛る。


「戦争したいっていうなら、受けてやるぞクソどもが」


 覇気に紫炎を混ぜ合わせ、【越屍武者】の肩から睥睨する。

 全員、俺の軍団に呑み込んでやろうか。


「~~~~」


 金世音がなにか言った。

 だが残念! 俺は日本語以外はてんでだめだ!


「…………」


 そんな俺の態度を理解したのか金世音はジェスチャーをしてくる。

 俺を指さし、お前を指さし、拳を合わせる?

 一対一。一騎打ちってことか?


「はっ!」


 都合のいい。

 味方が減れば能力の下がるお前としては、死霊軍団と配下の軍がぶつかり合うのは避けたいってことだろう?

 そんな都合のいい展開に俺が乗ってやる理由は……。


「いいぜ!」


 親指立てて了承を示し、そしてそのまま首を描き切って親指を下げるジェスチャーをする。


「殺してやるよ、ファッ●ン」


 てな具合だ。

 次の瞬間、こめかみに青筋立てた金さんが俺のすぐそばまで迫っていた。



†††††



「やりやがった!」


 闘気の衝突が空間に波紋を走らせる。

 その様を見てグゥォが悲鳴を上げた。


「しかし、これで撤退が可能になりました。将軍、ご決断を」


 ゾンの言葉にリーは渋面を浮かべる。

 金世音とイグナートの両者に睨まれているよりは楽な状況になったのは確か。

 撤退がベターな選択だというのはわかっている。

 だが……。


「ここで退けば我ら以外のどれかの国がこの地を支配することになる」

「ですが……」


 そしておそらくだが、ここで撤退したとしてもあの織羽という女は死なないのではないか、リーには確信に近い予感があった。


「ゾン、通信機は持っているな?」

「はい」

「軍の動きを確認しろ、すでに向かっているようなら状況を維持する」

「将軍!」

「ここで退いて、いま、奴の心証を悪くするわけにはいかんのだ」

「くっ……」

「ルァン、グゥォ。ゾンが確認している間、イグナートを抑える。手伝え」

「はい!」

「くそっ。わかったよ!」


 覚悟を決めたリーたちも動き出す。


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